不妊症について

最終更新日時:
2024-01-30
市山 卓彦
医師
torch clinic医師

妊娠を望んでいるにも関わらず一定期間妊娠しない場合、それを不妊症といいます。不妊症の割合は近年増加しており、日本では5.5組に1組のカップルが不妊症ともいわれています。では、不妊症の原因や不妊治療の方法はどのようなものなのでしょうか?この記事で詳しく解説します。

不妊症とは

不妊症とは、「生殖可能な年齢にある男女が避妊することなく性交渉を行っているにも関わらず、一定期間妊娠しない疾患」のことです。日本産婦人科学会は、この期間を「1年間」と定義しています。これは、正常妊孕性(にんようせい:妊娠するちから)のカップルでは1年で約90%が妊娠するとされているからです。
しかし女性に排卵がなかったり、子宮内膜症や子宮筋腫などの疾患をもっている場合や、男性の精子に問題がある場合、妊娠に医学的なサポートが必要となることがありますし、加齢は不妊症の大きな原因となります。1年間はあくまで定義であり、カップルごとに検査や治療を行うタイミングを考える必要があります。

不妊症になりやすい人の特徴

以下の症状がある場合は不妊症になるリスクが高いため、早めの受診を検討しましょう。

女性の場合

  • 生理の期間に異常がある

生理の間隔が長い(39日以上)、もしくは短い(24日以内に来る)場合は排卵がうまくいっていない可能性があります。排卵のトラブルは不妊原因の1/4を占めるとされます。[^1]

その原因はいくつかありますが、代表的なものとしては、多嚢胞性卵巣症候群という、生殖可能年齢の女性の10人に1人がもっている疾患があげられます。[^2]

極端な肥満や過度なダイエット、ストレスが原因で、下垂体や視床下部といった頭の中のホルモンにトラブルがおきて排卵が止まる場合もあります。

  • 生理の量に異常がある

生理の量が極端に多い場合は子宮筋腫や子宮腺筋症の疑いがあります。子宮筋腫は良性の腫瘍で、小さなものも含めると女性の2~3人に1人がもっているといわれるほど頻度の高い疾患ですが、場所や大きさによっては、受精卵の着床を邪 魔したり、流・早産の原因になることがあります。

子宮腺筋症は生理の時に剥がれ落ちる内膜が、子宮の筋肉の中に入り込んでしまい、子宮が硬く腫れ上がってしまう疾患で、非常に重い生理痛や生理の量が多くなることが特徴的です。妊娠率の低下、流産のリスク上昇[^3]が報告されており、特に早期の治療が重要となるケースがあります。

  • 生理痛が重い

生理痛が重い場合は子宮内膜症や子宮腺筋症の疑いがあります。子宮内膜症は、生理の時に剥がれ落ちる内膜が(外に出たら月経血)、卵管の方向に逆流して、おなかの中に撒き散らされることによって起こるとされます。本来あるべきところではないところに、内膜がはりついてしまうので、炎症が起きてしまいます。ちょうどかさぶたが出来たあとに、はがれた皮膚が元通りにきれいにならないように、内膜症によっておなかの中で炎症が起きると、周りの臓器(卵巣や子宮、腸など)とくっついてしまいます(癒着といいます)。子宮内膜症が卵巣で大きくなってしまったものをチョコレート嚢腫といいます(古い血液がチョコレートのようにみえるためです)。

子宮内膜症があると妊娠できないというわけではありませんが、子宮内膜症患者の30%~50%は不妊を合併していると言われています。[^4]卵子の質を低下させたり、癒着によって卵子と精子が出会いにくくなるためと考えられています。

  • 性感染症や骨盤腹膜炎の既往がある クラミジアや淋菌などの性感染症にかかったことがある、または骨盤で腹膜炎を起こしたことのある方は、炎症によって卵管が狭くなったり、閉塞してしまったり、卵子が自由に卵管の中に入れなくなったりして卵管因子の不妊(後述)のリスクが高まります。
  • 35歳以上 女性の妊娠率は20代後半をピークに低下し、35歳を過ぎるとそのスピードが加速、40歳を過ぎると急激に低下します。これは加齢による卵子の質の低下が主な原因です。さらに卵子の数は生まれたときは約100-200万個持っていると言われていますが、その数は10代で30万個、20代で10万個、30代で2~3万個と減少していき、新たに作られることはないのです。 また、無事妊娠したとしても流産してしまう可能性も高くなります。これは赤ちゃんの染色体のトラブルが多くなることなどが原因とされています。

男性の場合

  • 左右の陰嚢の大きさが違う、触ると痛みがある 精子をつくる機能に影響を与える精索静脈瘤の可能性があります。
  • 精巣が小さい

精巣の正常なサイズは13-16mlと言われています。極端に小さい場合は精子が正常に作られていない可能性があります。

  • 流行性耳下腺炎(おたふく風邪)を発症したことがある おたふく風邪の発症後に睾丸が腫れた人は、睾丸炎により精子をつくる力が衰えている可能性があります。
  • 鼠径ヘルニアの手術を受けたことがある 手術の際に精管が塞がってしまうことがあり、その場合は不妊の原因となります。
  • 抗がん剤治療や放射線治療を受けたことがある これらの治療により睾丸の状態が悪くなり、精子をうまく作れなくなっている場合があります。
  • 糖尿病を患っている 糖尿病は射精障害を引き起こすことがあります。
  • 喫煙や飲酒の習慣、睡眠不足、不規則な食生活が続いている 生活習慣の乱れやストレスは、精子の形成や運動性に悪影響を及ぼします。

不妊の割合について

2015年の国の調査によると、晩婚化などで妊娠を考える年齢が上昇し、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある、または現在受けている夫婦の割合は18.2%とされ、これは先述のとおり約5.5組に1組の割合です。また、現在日本では約14人に1人の赤ちゃんが体外受精をはじめとした高度生殖医療で生まれています。[^4]

参考:厚生労働省「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」

注釈

[^1]生殖医療の必修知識2020 P78

[^2]生殖医療の必修知識2020 P78

[^3]Vercellini P, et al. Hum Reprod. 29, 964, 2014

[^4]厚生労働省「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」

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