受精卵の凍結・融解
受精卵凍結とは
生殖補助医療(ART)において受精卵の凍結保存は重要な治療技術の一つです。
採卵術を行い受精卵が複数個得られた時に、凍結保存しておくことで再度採卵を行うことなく、胚移植が可能となります。
以前は妊娠率を向上させるために1回で複数個の胚を移植していましたが、その結果多胎妊娠が増加し、問題となっていました。そこで日本産科婦人科学会より胚移植数は原則1個と制限されました。そのため使用しなかった受精卵の凍結保存技術は、現在非常に多く行われる治療技術となっています。
近年では凍結技術の進歩により、受精卵へのダメージを最小限に凍結可能となり、新鮮胚より凍結融解胚移植の件数が多くなっています。
凍結保存の方法
凍結保存は、体外で受精・発育した受精卵を凍らせて保存しておく方法です。
受精卵の生存性を損なうことなく長期間保存するためには、液体が結晶化(氷晶)することなく、ガラス化される温度(-130℃以下)で保存される必要があります。受精卵中の細胞内には水分が含まれており、このまま低温状態にすると氷(氷晶)となり体積が膨張した結果、周りの細胞内の構造を破壊してしまいます。この氷晶形成を防止するために凍結保護剤を使用します。細胞内の水分を排出し、その代わりに凍結保護剤を細胞内に浸透させます。十分に凍結保護剤が浸透した後に一気に液体窒素(-196℃)内に投入しガラス化させます。
このような凍結方法を超急速ガラス化法といいます。
現在、この方法が受精卵の凍結保存方法の主流となっており、この方法の融解後の受精卵の生存率は95%以上とされています。
融解の方法
受精卵の融解は、まず凍結してある受精卵を-196℃の液体窒素中から37℃の融解用培養液に浸すことで一気に加温します。その後、融解用培養液の浸透圧を徐々に下げることにより凍結時に浸透させた凍結保護剤を細胞内から徐々に抜いて、代わりに水分をゆっくり戻していきます。
凍結保存のメリット
身体的・経済的負担軽減
torch clinicでは複数個の良好胚を獲得することを目的に排卵誘発剤を使用します。余った受精卵を凍結保存することで、次周期以降に採卵を反復することなく、胚移植から治療が開始できます。そのため身体的・経済的負担が減ります。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の疑いがある場合は全胚凍結することで、症状の重症化を防ぐことができます。
妊孕性の温存
年齢を重ねると妊孕性(妊娠する力)は低下していきますが、胚を凍結することで妊娠率を低下させることなく第二子以降の不妊治療を行うことができます。
妊娠率の高い移植法の選択が可能
凍結胚と新鮮胚の移植1回当たりの妊娠率を比較すると、凍結胚移植の方が高いです。
その理由の一つは、新鮮胚移植周期では排卵誘発剤の使用により、ホルモンや子宮内環境が妊娠に最適な状態になりにくいためと考えられています。
融解胚移植では妊娠に最適な環境を作るようホルモン剤等を使用し、妊娠にベストなタイミングで胚移植が可能となるため妊娠率が高いと考えられています。
凍結保存のリスク
- 超急速ガラス化法の成績 受精卵凍結は物理的に大きな変化をもたらすため、融解後に一定の確率(5%前後)で受精卵が変性してしまい移植できない状態になる可能性があります。
- 凍結保管中の予想外のリスク 受精卵の質を落とさず長期保存するため液体窒素中に保管します。 天災や火事など、予測不可能な事例が生じた場合に保管タンクが破損することがあり、温度を保てなくなると受精卵は変性してしまいます。
- 凍結・融解作業による児への影響 凍結・融解した受精卵によって妊娠した児の身体発達や精神発達を調査したところ、自然妊娠と差は認めなかったと報告されています。ただし、今後の調査により影響が明らかになる可能性は否定できません。
凍結保存期間
当院での受精卵の凍結期間は凍結保存した日を起算日として1年間とします。
凍結保存期間の更新について
凍結保存期間の延長については希望される場合、1年ごとの凍結期間の延長が可能です。
凍結期間の更新・廃棄の手続き方法
- 受精卵の凍結日から1年間が経過する1か月前を目安に当院を受診してください。
- 診察の際に凍結受精卵の保存を延長するか廃棄するかの意思をお伝えください。 医師と相談の上、それぞれの手続きに必要な書類『凍結胚・卵子・更新同意書』・『凍結胚・卵 子・廃棄同意書』を提出頂きます。
3.凍結期間更新希望の場合には、費用をお支払いいただきます。
凍結受精卵の廃棄希望の場合には、同意書の提出をもって廃棄手続き終了となります。
手続きの注意点
- 凍結受精卵の所有権は当該婚姻関係もしくは事実婚カップルの当時者2名に帰属します。
- 手続きされる場合の同意書への署名は必ず本人が行ってください。代筆により手続きでトラブルになった場合、私文書偽造罪により罰せられる可能性があります。
- 患者様より凍結保存の更新または廃棄に関するご連絡が無い場合、凍結受精卵は凍結保存日より1年以上経過した時点で所有権を放棄したものとみなし、廃棄いたします。