体外受精とは
体外受精(IVF)は、卵巣で発育した卵子を採卵術で体外に取り出し、精子と受精させる方法です。
卵子を精子と受精させることを「媒精」といい、媒精方法の1つに標準体外受精(C-IVF*)があります。これは、卵子と精子を同じ培養液に入れ、精子自らの力で受精させる自然に近い方法です。
具体的な治療の流れとしては、当院の場合、下記の通りです。
月経1〜3日目:病院で血液検査、超音波検査を行い、その結果や年齢、希望するお子さんの人数などを踏まえて排卵誘発法を決定します。
月経3〜7日目:内服薬や注射を用いながら卵巣刺激を開始します。
月経8〜9日目:再度血液検査、超音波検査を行い卵胞の状態を確認し、卵胞が十分に発育していることが確認できたら排卵日を決定します。
排卵誘発時刻の36時間前:排卵促進薬を使用し卵子を成熟させます。採卵する日に持参した精子と、採卵した卵子を使って体外受精を行います。

*C-IVF:Conventional-IVF(標準体外受精)
顕微授精とは
顕微授精は、精子と卵子を受精させるもう1つの方法です。「ICSI*」(イクシー)と英語表記されます。選ばれた一つの精子を、卵子の中に注入して受精させる方法です。
顕微授精は、顕微鏡を用いて培養士と呼ばれる専門家が良好な精子を選び、細いガラス針で卵子の細胞質内に直接精子を注入する方法です。採卵の過程や精子の準備は標準体外受精と同様ですが、顕微授精では顕微鏡を用いて1つの精子を1つの卵子に注入させるという点が異なります。
標準体外受精の場合、精子や卵子の受精する力が弱かったり、精子の数や運動率が低かったりすると、受精がうまくいかないことがあります。そのため、あらかじめ体外受精では受精率が低いことが分かっている場合や、高度な男性不妊の要因が分かっている場合は、顕微授精が行われます。
ちなみに、人工的に精子を子宮や卵子の中に入れ、受精卵を作ることを「授」精と言い、自然の力で精子と卵子が出会い結合することを「受」精と言うため、体外受精と顕微授精では、同じ「じゅせい」でも漢字が異なります。

*ICSI:Intra Cytoplasmic Sperm Injection(顕微授精)
体外受精と顕微授精の違い
※1 トーチクリニックでの自費の料金を記載
方法
体外受精と顕微授精のどちらの方法でも、まずは女性の卵巣から卵子を採取します。男性からは精子を採取(マスターベーションまたは手術による採取)をします。
体外受精では、卵子の入った培養液に精子をふりかける方法で、精子の力に頼って受精させるため、顕微授精よりも自然に近い方法といえます。一方、顕微授精では、顕微鏡を使いながら細いガラス棒を卵子に刺して、1つの精子を1つの卵子に注入します。
適応
体外受精が適応されるケース
■一般的な不妊治療での妊娠が難しい場合
タイミング法や人工授精を繰り返し行っても、妊娠が成立しなかった場合、明らかな原因不明な場合、体外受精を行うことが多いです。
■男性不妊がある場合
精子の数が少ない、運動率が低いといった男性不妊が原因でタイミング法や人工授精での妊娠が難しいと判断される場合、体外受精を行うケースが多いです。極端に精子が少なかったり運動率が悪い場合は顕微授精になります(詳細は後述)。
■免疫性不妊がある場合
女性側に免疫の異常があり、精子に対する抗体(抗精子抗体)を作ってしまう場合があります。この抗体によって精子の運動や受精が妨げられ、タイミング法や人工授精での妊娠が難しいと判断される場合があります。
■子宮内膜症
子宮内膜症と診断された場合、卵管の癒着などによりピックアップ障害などの原因から妊娠が困難になることがあります。年齢や不妊期間、重症度によって治療法が変わります。女性の年齢が35歳以上、不妊期間が3年を超える場合は妊娠率が低いと考え体外受精が選ばれることがあります。
顕微授精が適応されるケース
■体外受精では受精が難しい場合
この場合は、多くが重度の男性不妊が原因として挙げられます。男性不妊には、精子濃度が極めて少ない乏精子症や、精液中に全く精子が存在しない無精子症、精子の運動率が極めて悪い重症精子無力症などがあります。男性不妊の原因によっては、外科手術によって精子を採取する場合があり、その場合は顕微授精が選ばれます。
■男性または女性側の抗精子抗体が強い場合
精子を攻撃する抗体(抗精子抗体)を持つ女性の場合、子宮頸管や卵管の中で抗精子抗体が分泌されると、精子の運動性が失われ、卵子に到達できず、妊娠が起こりません。男性でも、精巣上体の炎症がきっかけとなって抗精子抗体が作られることがあるといわれており、この抗体がたくさん作られている場合には顕微受精が選ばれます。
費用
体外受精や顕微授精の費用は、保険適用か自費かによって大きく異なります。保険適用については、国の定めるルールに基づいており、どの医療機関でも原則として同じ条件が適用されます。
ただし、一部の治療法や薬剤は医療機関によって取り扱いが異なるため、保険適用となる場合もあれば自費となる場合もあります。また、自費の場合には医療機関によって費用が異なります。
費用を大きく分類すると、以下の5つになります。
- 採卵にかかる費用
- 体外受精、顕微授精にかかる費用
- 受精卵培養にかかる費用
- 胚凍結保存にかかる費用
- 胚移植にかかる費用
表に示した金額は、1~5の費用に対してのおおよその目安です。採卵する数や胚凍結保存をするかなどの条件によって変わるため、あくまで参考程度としてください。
費用についてより詳しく知りたい方はこちらの記事もあわせてご覧ください。
通院回数
体外受精、顕微授精ともに通院回数は変わりません。月経開始から採卵術を行う14〜16日目までの間に最低でも3回の通院が必要となります。
月経8〜9日目から採卵当日までの間で卵胞の発育が不十分な場合は、追加で1〜2回通院が必要な場合もあります。
妊娠率
日本産婦人科学会による2021年体外受精・胚移植等の臨床実施成績によると、下の図に示すように年齢とともに妊娠率は下がる傾向がみられます1)。

出典:日本産婦人科学会. 2021年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績https://www.jsog.or.jp/activity/art/2021_JSOG-ART.pdf から作成
グラフで示しているのは、体外受精や顕微授精の際に行われる胚移植(新鮮胚移植周期、凍結融解胚移植周期どちらも含む)に対しての妊娠率で、20代(21歳〜29歳)では約48.6%に対し、30代(30歳〜39歳)では約41.5%、40代(40歳〜49歳)では約21.4%でした。
新鮮胚移植周期と凍結融解胚移植周期を比較すると、凍結した受精卵を融解して移植した場合の方が妊娠率が高いことも分かっています。
合併症リスク
排卵誘発剤の使用によるOHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスク
体外受精では、1回の採卵で効率よく妊娠に適した卵子を採取するため、当院では排卵誘発剤を使用します。卵巣に過剰に卵胞が育つ場合や卵巣刺激が強い場合には、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)を起こします。体外受精や顕微授精の生殖補助医療において、卵巣刺激によりOHSSを起こす頻度は6.6〜8.4%との報告があります2)。
排卵誘発剤のうちゴナドトロピン製剤(hMG製剤やFSH製剤)はOHSSを起こしうる薬剤として注意が必要です。
初期症状として、卵巣が大きくなり腹水や胸水が貯まることで腹痛や腹部膨満感、急激な体重増加、ウエストサイズの増加、息切れなどが現れます。重症化すると腎不全、血栓塞栓症などの生命を脅かすような危険な状態となるため、できるだけ速やかに症状を発見し対応することが大切です。
ゴナドトロピン製剤使用のほか、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)やAMHの高値、過去にOHSSや多胎妊娠の既往がある場合なども注意が必要なリスク因子です。
異所性妊娠のリスク
正常に妊娠した場合は、受精卵は子宮内膜にもぐりこみ着床します。異所性妊娠では、卵管や頸管、卵巣といった子宮内膜以外の場所に受精卵が着床し、発育してしまうことをいいます。
産婦人科ガイドライン2023によれば、全妊娠における異所性妊娠の発生率は1〜2%程度といわれています。体外受精では、胚移植後に妊娠した症例に対し、その発生率は1〜3%程度とやや高くなります3)。体外受精で異所性妊娠と診断された方の90%は、卵管にトラブルがある方や過去に異所性妊娠を経験したことがある方です3)。
代表的な症状は、無月経、下腹痛、性器出血ですが、無症状の場合もあります。子宮外での妊娠が進行すると、破裂による大量出血によるショック状態で生命が危険な状態になる可能性もあるため、注意が必要です。
採卵による出血や感染、他臓器損傷などのリスク
採卵は普段の婦人科診察のように腟から超音波を挿入し、モニターで確認しながら採卵用の細い針を押し当てて卵巣内の卵胞を穿刺します。穿刺による卵巣表面からの出血は通常自然に止まりますが、ごくまれに多量に出血すると輸血が必要になることがあります。
また、採卵時には感染のリスクが伴います。チョコレート嚢胞といった子宮内膜症がある場合にはさらに感染リスクが高まるため、採卵前から予防的に抗菌薬を投与される場合もあります。
他臓器損傷のリスクは、卵巣に近い腸管、膀胱、尿管などの臓器にみられ、採卵時にこれらの臓器が損傷されることにより感染につながることもあります。
こうした出血、感染、他臓器損傷などの合併症の発生率は、1%以下といわれています。
おわりに
トーチクリニックでは、医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。
恵比寿駅・上野駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、土曜日も開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。不妊治療にご関心のある方は、お気軽にご相談ください。
ご予約はウェブからも受け付けております。
また、すでに不妊治療を受けている方々のお悩みやセカンドオピニオンにも対応しております。セカンドオピニオンを含めたクリニックへのよくあるご質問はこちらをご参考ください。
参考文献
1)日本産婦人科学会 2021年体外受精・胚移植等の臨床実施成績 p.5-8
https://www.jsog.or.jp/activity/art/2021_JSOG-ART.pdf
2)日本がん・生殖医療学会 .“ARTの現状”.日本がん・生殖医療学会ウェブサイト
https://www.j-sfp.org/fertility/female/status/
3)日本産婦人科医会 .“生殖補助医療(ART)”.日本産婦人科医会ウェブサイト
https://www.jaog.or.jp/lecture/11-生殖補助医療(art)/