体外受精と顕微授精の違いは?知っておきたい不妊治療の基礎知識

最終更新日時:
2024-04-07
市山 卓彦
市山 卓彦 医師
院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

体外受精とは

体外受精は、採卵手術により排卵直前に体内から取り出した卵子を体外で精子と受精させる治療です。受精が正常に起こり細胞分裂を順調に繰り返して発育した良好胚を体内に移植すると妊娠率がより高くなることから、一般的には2-5日間の体外培養後に胚を選んで腟から子宮内に胚移植します。
体外受精を含む生殖補助医療による出生児は全世界で800万人を超えたともいわれ、世界初の成功例で生まれた女性を含めて初期の体外受精による出生児が多数成人となり、体外受精を必要とせず次世代の児を得ていることが報告されています。これまでの報告では、体外受精によって生まれる子どもに先天性の異常が明らかに多くなるといった報告はありません。

顕微授精とは

顕微授精は体外受精の方法のひとつです。通常の体外受精では、女性の体内から取り出した卵子に男性の精子を振りかけて受精卵を得ます。この際に、受精が成立しなかったり、精子の数が少ないなどの理由で成立が見込めなかったりした場合の手段として、顕微授精が考案されました。

顕微授精とは、顕微鏡で拡大視しながら受精の手助けを行う方法をいい、当初はいくつかの手段が提唱されましたが、今では主に、ひとつの精子を直接卵子に注入して受精を促す「卵細胞質内精子注入法」が行われています。

この手法では、形態が正常な運動良好精子をひとつ選別して、細いガラス針の中に取り込み、これを卵子に注入します。つまり、受精の最初のステップである卵子への精子の取り込みを代用する手段です。ただし精子の注入後、すべてが受精卵として発育を進めるわけではありませんので、顕微受精とは呼ばずに顕微授精と表現されます。

体外受精と顕微授精の違い

体外受精 顕微授精
特徴 精子自身の力で卵子に入り込みます。 細い針を用いて卵子に直接一匹の精子を注入します。
適応 卵管性不妊症(両側卵管閉塞)、男性不妊症、免疫性不妊症 (精子不動化抗体強陽性)、原因不明不妊症など 重症男性不妊症(重症乏精子症、精子無力症、精子奇形症、不動精子症など)、既に行った通常の体外受精・胚移植で受精障害があった方
費用 20~60万円(一回あたり) 30~70万円(1回あたり)
通院回数 採卵まで3〜5回、続けて胚移植をする場合は追加で1回以上
妊娠率 30歳で42%、35歳で38%、40歳で26%
受精率 70~80% 80%以上
合併症リスク 採卵時や排卵誘発剤の副作用として

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)、血栓塞栓症、骨盤腹膜炎、臓器損傷

などがある。

特徴

顕微授精の場合、細い針を用いて卵子に直接一匹の精子を注入します。そのため、1つの卵子に対して1匹の生きた精子がいれば無事に受精することは可能です。

適応

顕微授精の対象となる方は『顕微授精以外の方法では妊娠の成立が見込めない方』と定義されていますが、具体的には以下のような状態をいいます。

1. 重症男性不妊症

重症乏精子症、精子無力症、精子奇形症、不動精子症などです。精子の数が極端に少なかったり、極端に濃度が低かったり、極端に動きが悪いなどのために、通常の体外受精では受精することが難しいと考えられる方。

2. 既に行った通常の体外受精・胚移植で受精障害があった方

すでに体外受精・胚移植の経験がある方では、通常の体外受精・胚移植で受精ができなかった方、あるいは受精率が非常に悪かった方も対象となります。また抗精子抗体を持っている方も対象となることがあります。

費用

クリニックによってばらつきはありますが、自費負担の場合は30~70万円かかります。保険適用の場合には3割負担になります。その他、交通費などが別途必要になります。

通院回数

顕微授精に限らず、体外受精は何度も病院に通う必要があります。診察に2・3回程度、採卵日や移植日のあとに妊娠を判定させるための通院が必要です。採卵までに3〜5回程度、続けて胚移植も行う場合は6回~8回は病院に通う必要があります。

受精率・妊娠率

日本生殖医学会のデータによると、顕微授精も含む体外受精後、胚移植あたりの妊娠率は、30歳で42%、35歳で38%、40歳で26%という報告があります。また妊娠した後も、流産・死産してしまう可能性があり、出産に至る確率は、一治療あたり30歳で21%、35歳で18%、40歳で9%と年齢が上がるにつれて非常に厳しい結果になります。

一般体外受精の受精率は70%~80%程度、顕微授精では80%以上の確率で受精します。

胚移植後の妊娠率に差はありませんが、受精率に関しては顕微授精の方が優れています。

合併症リスク

採卵時や排卵誘発剤の副作用として、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)、血栓塞栓症、骨盤腹膜炎、臓器損傷

などがあります。