ミレーナは子宮内に装着する小さな避妊具で、月経困難症や過多月経の改善にも効果があります。子宮内黄体ホルモン放出システム(LNG-IUS)という避妊法で、高い避妊効果が最長5年間持続します。
この記事では、ミレーナ装着のメリットとデメリット、費用、注意点について詳しく解説します。
ミレーナとは?どのようなもの?
ミレーナは、子宮内に装着する小さな避妊器具で、子宮内に黄体ホルモンを放出するシステム(LNG-IUS)です。ミレーナの有効成分は黄体ホルモンの1種であるレボノルゲストレルで、避妊のほかに、月経困難症や過多月経の治療にも使われます。

出典:バイエル薬品株式会社「ミレーナ52mgをご使用中のみなさまへ」より一部改変
https://pharma-navi.bayer.jp/sites/g/files/vrxlpx9646/files/2021-01/MRN200701.pdf
ミレーナの本体はT字型で約3cm、柔らかいプラスチック製です。T字型の縦の部分から黄体ホルモンがゆっくりと放出され、一度装着すると最長5年間効果が持続します。
ミレーナがもつ効果
避妊や月経困難症、過多月経の治療に、ミレーナの子宮内での作用がどのように効果をもたらすのかをまとめました。

出典:バイエル薬品株式会社「ミレーナ52mgをご使用中のみなさまへ」より一部改変
https://pharma-navi.bayer.jp/sites/g/files/vrxlpx9646/files/2021-01/MRN200701.pdf
避妊効果
ミレーナから放出されるレボノルゲストレルという黄体ホルモンには、子宮内膜の増殖を抑える働きがあります。
ミレーナを装着すると、子宮内膜が薄い状態に保たれて受精卵の着床を妨げ、避妊することができます。また、レボノルゲストレルは子宮の入口の粘液を変化させ、精子が腟から子宮内へ進入することを妨げることでも、避妊効果をもたらします。
ミレーナ装着後の妊娠確率
ミレーナには継続的な避妊効果がありますが、100%妊娠しないわけではありません。ミレーナ装着の5年間での妊娠確率は0.5%と報告されています1)。
月経困難症や過多月経の改善
ミレーナには、月経困難症や過多月経の症状を和らげる効果があります。ミレーナから放出される黄体ホルモン(レボノルゲストレル)が、子宮内膜の増殖を抑えて効果を発揮します。
月経は、厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちることで出血します。ミレーナを装着すると、子宮内膜が薄い状態に保たれるので、経血量が減少し、過多月経の改善につながります。また、内膜が厚くなることを防いで子宮の収縮を抑えることで、月経困難症のつらい症状である強い腹痛を和らげることができます。
ミレーナの装着が適している方
ミレーナの装着が適しているのは、次のようなケースの方々です。
・長期間、継続的な避妊効果を求める方
・月経困難症、過多月経の症状がある方
ミレーナは最長5年間の避妊効果があるので、継続的な効果を求めている方に適しています。
ミレーナと同様に、避妊や月経困難症、過多月経の改善に効果がある薬として、低用量ピルや低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤があります。ただし、これらの薬は高血圧や喫煙などにより血栓症のリスクが高い場合には適しません。そのような場合は、ミレーナの装着がより適した選択肢となります。
ミレーナの装着ができないケース
ミレーナの装着ができないのは、妊娠の可能性がある場合、子宮の状態が装着に適さない場合、直近3か月以内に性感染症に感染した場合、またはそのほかの疾患がある場合などです。
具体的には、以下のような場合は使用できないと注意喚起されているため2)、該当するものがないかご注意ください。
・過去にミレーナに含まれる成分で過敏な反応を経験したことがある人
・子宮頸がん、子宮体がんの人およびその疑いのある人
・黄体ホルモン依存性腫瘍およびその疑いのある人
・診断の確定していない異常性器出血のある人
・子宮の形態異常(子宮腔の変形をきたしているような子宮筋腫を含む)または著しい位置異常のある人
・性器感染症(カンジダ症を除く)にかかっている人
・過去 3か月以内に性感染症(細菌性腟炎、カンジダ症、再発性ヘルペスウイルス感染、B 型肝炎、サイトメガロウイルス感染を除く)にかかったことのある人・頸管炎または腟炎のある人
・骨盤内炎症性疾患の再発を繰り返している人または現在骨盤内炎症性疾患にかかっている人
・過去 3 ヵ月以内に分娩後子宮内膜炎または感染性流産を経験した人
・異所性妊娠の経験のある人
・この薬または子宮内避妊用具(IUD)装着時または頸管拡張時に迷走神経反射*をおこしたことのある人
*:迷走神経反射:痛み、恐怖、興奮などによる刺激が脳神経の一つである迷走神経を介して中枢に伝わり、心拍数が減ったり、血圧が下がったりすること。そのため、気分が悪くなったり、めまいやふらつき、失神などが起こったりします。
・肝臓に重篤な障害または腫瘍のある人
・妊婦または妊娠している可能性のある人
上記のほかにも、事前に医師の診断でミレーナの装着ができない場合があります。
ミレーナを装着するメリット・デメリット
避妊にはさまざまな方法があり、その中でミレーナのメリットは、一度装着すると効果が続き、手間がかからないことです。一方で、注意が必要なデメリットや副作用もあります。ミレーナ装着のメリットとデメリットをまとめましたので、参考にしてください。
メリット
・避妊効果が続く
一度装着すれば、最長5年間避妊効果が持続します。
・血栓症のリスクがある方も使える
ミレーナには血栓症の副作用がないので、高血圧、肥満、喫煙など血栓症のリスクのある方も使えます。
・薬のように飲み忘れがない
ピルのように毎日服用する必要がなく、飲み忘れなどの心配がありません。
・月経困難症、過多月経の改善
ミレーナから黄体ホルモンが分泌されて子宮内膜が厚くならないため、月経痛をやわらげたり、経血量が減るといった効果があります。
・妊娠を希望する場合に解除しやすい避妊法
妊娠を希望する場合には、取り外すことで避妊効果を止めることができます。ミレーナは取り外し後に比較的早く自然な生理周期が戻ります。
デメリット
・装着時の痛みや不快感
子宮口が狭い方や出産経験のない方は、装着時に強い痛みを感じることがあります。装着後しばらくは、違和感や軽い痛みも感じられます。
・不正出血が続くことがある
装着後数ヶ月間、少量の不正出血が認められます。多くの場合、数ヶ月で落ち着きますが、まれに長期間続くこともあります。
・まれにミレーナがズレる、脱落することがある
子宮の動きや体質によっては、ミレーナが正常な位置からズレてしまうことがあります。ごくまれに完全に脱落することもあるため、定期的な検診が必要です。
・性感染症の予防はできない
コンドームのように性感染症を防ぐ効果はないので、性感染症の予防のためにはコンドームの併用が必要です。
副作用
一般的な副作用として、月経出血日数の延長、月経周期の変化、卵巣のう胞、ミレーナ除去後の出血、月経時期以外の出血、腹痛などがあります3)。
その他、頻度としてはまれですが以下のような副作用も報告されているため、該当する初期症状が続くような場合は受診するようにしてください。
・卵巣のう胞の破裂
ホルモン変化の影響で、卵巣のう胞が見られることがあります。多くの場合一時的な症状ですが、ごくまれに卵巣のう胞が破裂することもあるため、経過観察を受けてください。下腹部の痛みなどの初期症状があります。
・骨盤内炎症性疾患(PID)
子宮や卵管など、骨盤内に炎症が起きる骨盤内炎症性疾患(PID)を発症するリスクがあります。初期症状として、下腹部の痛み、発熱、性交時の痛み、おりものが増える、などがあります。
・異所性妊娠
ミレーナは子宮内で黄体ホルモンを放出して、子宮内膜を薄い状態に保って、受精卵の着床を妨げて避妊をします。子宮内での着床を妨げる作用で避妊をするので、装着中にもし妊娠した場合には異所性妊娠のリスクがあります。初期症状として、無月経、下腹部の痛み、性器からの出血などがあります。
・子宮穿孔
ミレーナが子宮の壁に入り込んで、子宮の壁を突き破る子宮穿孔が起きることもあります。初期症状として、下腹部の痛み、出血などがあります。
ミレーナの装着にかかる費用と保険適用の有無
ミレーナの装着は、避妊の目的の場合には自由診療(保険が使えない)、月経困難症や過多月経の改善のためには保険が適用されます。
保険が使えない自由診療で施設によって費用が異なり、事前検査やミレーナ本体、挿入の費用を含め合計で40,000〜100,000円程度の価格帯に設定している医療機関が多いです。
保険適用ではこの3割負担が目安となりますが、自由診療と保険診療で大きく料金体系が変わる医療機関もあるため、事前に診察を受ける予定の施設に費用を確認しておくのが良いでしょう。
装着後は定期的な検査が3ヶ月〜半年に1回程度必要で、定期検査の費用も医療機関によって異なりますが、1回につき1,000〜3,000円前後が一般的です。
ミレーナの除去費用は5,000〜20,000円前後で、その他に検査や麻酔などで費用は変動します。
5年間にかかる費用として、装着を検討する際の参考にしてください。
ミレーナ挿入までの流れと装着後の注意点
事前の検査や問診、ミレーナ挿入、装着後の注意点について紹介します。
問診・診察・検査
問診では、先にまとめた「ミレーナ装着ができないケース」や過去の病歴や現在の健康状態を確認します。
診察では問診に基づいて、次のように注意が必要なケースに該当するかどうかを確認します。
・先天性の心臓の病気または心臓弁膜症がある
・糖尿病である
・肝臓に障害がある
・出産経験がない
・授乳中
検査は、内診、超音波検査、妊娠検査、性感染症の検査などを行ないます。内診と超音波検査では、子宮の大きさ、形、筋腫の有無や内膜の状態など、ミレーナ装着に適しているかどうかを検査します。
ミレーナの挿入
ミレーナの挿入のタイミングは、妊娠初期の装着を防止するために、通常、月経開始7日以内に行います。月経が遅れているなど、周期が不定期の場合は次の月経のタイミングを待ちます。
必要に応じて、子宮頸管を開き、細い挿入器を使ってミレーナを子宮内に挿入します。挿入の処置は数分で終わります。
挿入後、ミレーナが正しく位置しているかを超音波で確認します。挿入から1か月後に超音波検査をして、位置がズレていないかを確認します。
ミレーナ装着後の注意点
1. 装着直後の注意点
装着後しばらくは、不正出血が続くことがありますが、通常は数週間~数ヶ月で落ち着きます。
軽い痛みや違和感を下腹部に感じることがあります。数日間で痛みはなくなるのが通常ですが、長引く場合は医師に相談してください。
2. 日常生活での注意点
装着後1週間は、性交・タンポン・入浴(シャワーはOK)を控えるのが一般的です。子宮に負担がかかる激しい運動も、数日間は避けるのが望ましいでしょう。
高熱や強い腹痛、悪臭を伴うおりものがある場合は、子宮内感染の可能性があるため、すぐに医師に相談してください。
3. 定期検診を受ける
装着後1ヶ月以内に超音波検査でミレーナが正しい位置にあるか確認します。その後、3か月、半年〜1年ごとに、医師の指示するタイミングで定期検査を受けます。
4. 異常を感じたら、医師の診断を受ける
次のような異常を感じたら、医師の診断を受けてください。
・強い下腹部痛が続く場合(骨盤内炎症性疾患(PID)などの疑い
・発熱や悪臭のあるおりものが出る場合(感染症の疑い)
・生理が突然止まる、または急に大量の出血がある
・性交の際や後に、違和感、痛み、出血がある(パートナーの痛みの場合も)
・妊娠の兆候がある
ミレーナに関するよくある質問
Q:ミレーナを装着すると体重に影響する?
ミレーナには少量の黄体ホルモン(レボノルゲストレル)が含まれていますが、全身へのホルモンの影響は少なく、体重が直接増加することはほとんどありません。
黄体ホルモンの影響により、一時的に体内に水分が蓄積しやすくなり、その結果、体重が増えたように感じる方もいるようです。
Q:ミレーナの位置がズレたり外れてしまったりするケースはある?
ミレーナは、まれに位置がずれたり、脱落することがあります。装着後は数か月に一度の定期検診を受けてください。出血量が増えた場合には、位置のズレや脱落の可能性があるので、医師の診断を受けてください。
Q:ミレーナを装着すると性交に影響する?
基本的に、ミレーナは性交に大きな影響を与えません。装着後にミレーナが正しい位置にあれば、使用者もパートナーも違和感を感じることはほとんどありません。
痛みや出血を伴う場合は、位置がズレている可能性があるので医師の診断を受けてください。
Q:ミレーナ装着による妊娠への悪影響はある?
妊娠を希望する場合には、ミレーナを取り外すと、装着前の状況に戻ります。装着中に子宮内膜が薄くなっていますが、比較的早期に回復します。取り外せば排卵が再開するので、妊娠を望むことへの悪影響はありません。
Q:ミレーナの除去が必要なケースは?
1.使用期間が満了したとき
ミレーナの避妊効果は約5年間持続しますが、効果が低下するため、5年を過ぎたら新しいものへの交換が必要です。
2.副作用や体調不良があるとき
ミレーナ装着後に強い不正出血、下腹部痛、頭痛、気分の変化などが続く場合は、体に合っていない可能性があり、抜去を検討します。
3. 感染症や子宮の異常が発生したとき
子宮内感染(骨盤内炎症など)や子宮筋腫の悪化、ミレーナの位置ズレ・脱落が確認された場合は、安全のため抜去することがあります。
4. 妊娠したとき
ミレーナ装着中に妊娠した場合は、流産や子宮外妊娠のリスクが高いため、すぐに医師の診断を受けてください。
Q:ミレーナ以外の避妊方法にはどのようなものがある?
ミレーナ以外には、次のような避妊方法があります。
子宮内避妊用具(FD-1)
子宮内避妊用具(IUD:Intrauterine device)は、ミレーナと同様に子宮内に装着することで避妊効果を得る器具です。代表的なものに「FD-1」があります。
FD-1は合成樹脂とプラスチックで作られていて、子宮内に装着することで異物反応を起こし、受精卵の着床を防ぐ仕組みです。避妊成功率は85~98%とされ、使用期間は通常2年程度、長くても5年までとされています4)。
IUDの装着・抜去は医療機関で行われます。装着後、軽い痛みや不正出血が見られることがありますが、多くの場合、1か月ほどで症状は改善します。また、IUDは性感染症の予防効果がないため、必要に応じてコンドームの併用が推奨されます。
IUDは、ミレーナと同様に長期的な避妊を希望する方や、低用量経口避妊薬の副作用が気になる方に適しています。ただし、個人の体質や健康状態により適応が異なるため、装着を希望する場合は医師と十分に相談することが必要です。
低用量ピル
低用量ピルは、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)を含む薬剤であり、毎日服用することで、排卵を抑制し妊娠を防ぐ効果があります。正しく服用すれば、高い避妊効果が得られます。避妊以外に月経困難症や過多月経を改善する効果もあります。
一方で、低用量ピルは毎日決まった時間に服用する必要があり、飲み忘れると避妊効果が低下します。また、血栓症のリスクがあるため、特に喫煙者や高血圧の人は注意が必要です。副作用として、吐き気、頭痛、むくみ、気分の変化などが起こることがありますが、多くは数か月で改善します。
飲み忘れた場合は、1日以内なら気づいた時点で服用することで対処しますが、状況に応じて追加の避妊対策をとる必要もあります。なお、性感染症の予防効果はないため、必要に応じてコンドームの併用が推奨されます。
低用量ピルの副作用については、こちらの記事で詳しくまとめています。
参考:ピルの副作用とは?血栓症になりやすい人の特徴と予防について
コンドーム
コンドームは、避妊と性感染症の予防を同時に行える避妊法です。正しく装着した場合には、高い避妊効果があります。一方で、破損、ズレ、装着ミスなどで避妊に失敗する場合もあります。
コンドームの最大のメリットは、性感染症の予防効果があることです。他の避妊法(ピルやIUD)は感染症を防ぐことができないため、安全な性交のためにはコンドームの使用が推奨されます。また、手軽に購入でき、副作用がなく、すぐに使用できる点も利点です。
アフターピル
アフターピル(緊急避妊薬)は、避妊に失敗した場合や避妊をしなかった性交後に、妊娠を防ぐために服用する薬です。避妊効果は高いものの、通常の避妊法としてではなく、あくまで「緊急時の対処法」として使用されます。
国内で承認されているアフターピルは、レボノルゲストレル錠です。性交後72時間以内に服用する必要があり、早く服用するほど避妊成功率は高くなります。
その他、海外で使われているウリプリスタル酢酸エステル錠もあり、こちらは120時間までの服用が可能ですが、国内では承認されていない薬です。
アフターピルの作用は、排卵を遅らせて避妊をしますが、100%避妊できるわけではありません。世界保健機関(WHO)の調査では、性交渉後、内服するタイミングが24時間以内では妊娠阻止率が95%、25〜48時間以内では85%、49〜72時間以内では58%と服用のタイミングによって妊娠阻止率は変わります。早く服用するほど、妊娠阻止率も高くなります。
また、服用後は生理周期が乱れることがあるため、次回の生理が遅れたり、出血のパターンが変わる可能性があります。
そのほかの副作用としては、吐き気・頭痛・めまい・倦怠感などが挙げられますが、通常は一時的なものです。
アフターピルについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
参考:アフターピルの副作用はいつからいつまで続く?症状があらわれる確率や対処法、服用後の注意点についても解説
おわりに
参考文献
1)Thonneau PF, Almont T. Contraceptive efficacy of intrauterine devices. Am J Obstet Gynecol. 2008;198(3):248-253.
https://www.ajog.org/article/S0002-9378(07)01984-9/abstract
2)バイエル薬品株式会社. ミレーナ52mg 患者向医薬品ガイド. 医薬品医療機器総合機構ウェブサイト
https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/guide/ph/630004_2529710X1027_1_00G.pdf
3)バイエル薬品株式会社. ミレーナ52mg 使用者用説明書. バイエル薬品株式会社ウェブサイト
https://betterl.bayer.jp/sites/g/files/vrxlpx11551/files/2020-12/MRN200702.pdf
4)不二ラテックス株式会社. FD-1(γ線)手帳(患者様説明用). 不二ラテックス株式会社ウェブサイト
https://www.fujilatex.co.jp/wp/wp-content/uploads/2021/03/【手帳】%E3%80%80FD-1-患者様向け.pdf