妊娠初期にめまいの症状があらわれる原因|対処法や受診をしたほうがよいケースについても解説

市山 卓彦
市山 卓彦 医師
理事長・恵比寿院院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

「めまい」は妊娠初期によく見られる症状のひとつですが、突然のふらつきや立ちくらみを感じると不安になる方も多いのではないでしょうか。特に妊娠初期は、ホルモンバランスの変化や、つわりなど、体にさまざまな変化が起こりやすい時期です。

この記事では、妊娠初期に起こりやすいめまいの種類や症状、原因について解説します。また、妊娠生活における対処法や予防法についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

めまいの種類(回転性・浮動性)

めまいは、耳の奥(内耳)、目(視覚)、筋肉や関節から得られる感覚(深部感覚)が脳でうまく整理できず、情報が食い違ったときに生じる感覚です。実際には体が動いていなくても、ぐるぐる回ったり、ふわふわするように感じることがあります。

めまいの症状は、大きく「回転性めまい」と「浮動性めまい」に分けられます。

  • 回転性めまい:周囲や自分が回っている、傾いているように感じる
  • 浮動性めまい:ふらふらと揺れている、姿勢が不安定になる、立ちくらみのような症状

こういった症状以外にも、体を動かす時の不安定感、空間の認識がうまくいかない感じ、意識が失われそうな感覚など、いつもとは違う感覚をおぼえる場合もあり、原因もさまざまです。

妊娠初期にめまいの症状があらわれる原因

妊娠初期は、ホルモンバランスの変化や血液循環の変化などによってめまいが起こりやすくなります。その原因を解説します。

ホルモンバランスの変化(自律神経の乱れ)

妊娠初期は、プロゲステロンなどのホルモンが増加することで血管が拡張し、血圧が下がりやすくなります。その結果、脳への血流が一時的に不足し、めまいを感じることがあります。

また、ホルモンバランスの変化によって自律神経が乱れやすくなることも、めまいの一因です。

貧血(赤血球の不足)

妊娠中は、お腹の赤ちゃんに栄養や酸素を届けるためや、出産に備えるために、お母さんの血液の量が増えていきます。ただ、血液の中の赤血球の増加がそれに追いつかないことがあり、血液が薄まって、貧血になりやすくなります。

貧血になると、酸素を運ぶ力が弱くなってしまい、脳に届く酸素が足りなくなるため、めまいを感じることがあります。

血圧の低下(低血圧)

ホルモンバランスの変化でも説明したように、血圧が低下しやすくなります。特に立ち上がった時などに、脳への血流が一時的に不足し、めまいを感じることがあります。

水分の補給不足による脱水

妊娠初期は、つわりによる吐き気や嘔吐、食欲不振などにより、水分が不足しがちです。脱水状態になると、血液量が減少することで血圧が低下し、めまいを引き起こすことがあります。

めまいなどの妊娠初期症状に気づいたときの注意点

妊娠初期は、つわりの影響もあり、めまい、眠気、体のだるさなどさまざまな症状が現れやすい時期です。無理をせず、体調に合わせてこまめに休息をとりましょう。重い物を持つ、高い所に上がる、長時間の立ち仕事などは控え、体に負担をかけないことも大切です。

食事は食べられるものを無理なく摂取し、少量ずつ、こまめな水分補給も心がけましょう。水分が摂れない場合や急激な体重減少があるなど、症状が強い場合や不安がある時は、早めに医師へ相談しましょう。

*妊娠超初期症状については、下記記事もご覧ください。

参考:妊娠超初期症状があらわれる時期や主な症状|妊娠の可能性があるときの注意点や病院を受診するタイミングについても解説

めまいが起こる時期

めまいは、妊娠中のどの時期でも起こる可能性があります。

特に妊娠初期は、ホルモンバランスの変化による影響やつわりによる脱水などが原因となり、めまいが起こりやすい時期です。貧血によるめまいはどの時期にも起こりえますが、妊娠中期以降に発症することが多いと言われています。

妊娠後期には、お腹が大きくなることで血管が圧迫され、仰向けで寝たときに血圧が下がる仰臥位低血圧症候群によるめまいが起こることがあります。

めまいによる赤ちゃんへの影響

妊娠中のめまい自体が、直接赤ちゃんに悪影響を与えることはほとんどありません。しかし、めまいの原因が重度の貧血や脱水など、治療を要する場合には注意が必要です。また、めまい以外にも症状がある場合は、他の病気が隠れている可能性も考えられます。

症状が続く場合や強いめまいを感じる場合は、無理をせず、早めに医師に相談しましょう。

妊娠初期と月経前症候群(PMS)であらわれるめまいの違い

妊娠初期と月経前症候群(PMS)では、どちらもめまいが起こることがあります。PMSは排卵から月経開始前までの黄体期に起こりやすく、女性ホルモンの変動や自律神経の乱れ、精神的ストレスが影響すると考えられています。

月経が始まると症状が軽減するのが特徴です。一方、妊娠初期のめまいは、ホルモンバランスの変化や血圧低下、貧血、つわりによる脱水などが原因で起こります。

妊娠初期にめまいの症状があらわれたときの対処法

ここまで説明してきたように、妊娠初期はさまざまな理由でめまいが起こりやすい時期です。めまいの症状を軽減するための日常生活での対処法を、3つのポイントにまとめて紹介します。

生活習慣を見直す

規則正しい生活リズムを心がけ、無理をせずこまめに休憩をとりましょう。日常生活では、激しい運動やお腹に衝撃がかかる動作は避け、長時間の立ち仕事や重い物を持つことも控えましょう。疲れを感じたら、早めに体を休めることが大切です。

妊娠中は、体や生活の変化が大きく、つわりや体の不調、不安などからストレスを感じやすくなります。気分が落ち込んだり、イライラしやすくなることもあるため、体調の良いときは趣味を楽しんだり、外出して気分転換をすることもおすすめです。パートナーや家族とリラックスできる時間を持つことも大切です。

食生活を見直す

妊娠初期のめまいの原因となる貧血や脱水予防には、バランスの取れた食生活が重要です。バランスのよい食事とは、主食、主菜、副菜を組み合わせ、多様な食品から必要な栄養素をバランスよく摂取することです。1日に2食以上、これらを揃えることが推奨されます。

ただし、つわりで食欲がない時は、無理せず食べられるものや水分を少量ずつ摂り、低血糖や脱水にならないよう注意しましょう。

急な動きをしない

横になっている状態から急に起き上がる、立ち上がるなどの動きは避けましょう。手足を軽く動かしてから、ゆっくりと体を起こすのがポイントです。また、同じ姿勢を長時間続けず、適度に体勢を変えるようにしましょう。

めまい以外の症状があらわれた場合は注意が必要

めまいに加え、激しい頭痛や耳鳴り、手足のしびれなどの症状がある場合は注意が必要です。注意すべき症状と、考えられる病気について解説します。

妊娠高血圧症候群

妊娠高血圧症候群とは、妊娠中に高血圧を発症する病気です。はっきりとした特徴的な症状はありませんが、血圧の上昇に伴う頭痛やめまいなどが現れることがあります。

妊娠高血圧症候群が悪化すると、赤ちゃんやお母さん自身にも合併症が起こる可能性があるため注意が必要です。

もし、めまいに加えて激しい頭痛、目の前がチカチカする、見えにくいなどの症状がある場合は、すぐにかかりつけの病院に連絡してください。

メニエール病

メニエール病とは、めまいを繰り返す病気です。耳が聞こえにくくなったり、耳鳴りがしたり、耳が詰まったように感じるなどの耳の症状を伴います。また、めまいに伴って吐き気や嘔吐が起こることもあります。原因は、内耳にリンパ液がたまりすぎる状態(内リンパ水腫)が関係していると考えられています。

めまいの症状が強い場合は、入院治療が必要になることもあります。また、難聴を伴う場合には、ステロイド治療などが検討されることもあります。

めまいに加えて、耳の聞こえづらさや耳鳴り、耳の詰まりを感じる場合は、早めにかかりつけ医や耳鼻科医に相談しましょう。

脳の病気(脳出血や脳梗塞など)

めまいの中には、脳卒中など命に関わることが原因で起こる場合もあります。

手足のしびれや動かしにくさ、ろれつが回らない、言葉が出づらい、目の動きや顔の動きがおかしい、ものが二重に見える、ふらついてまっすぐ歩けないなどの症状があれば、脳梗塞や脳出血などの可能性が考えられます。すぐに病院を受診してください。

心臓の病気(狭心症や心筋梗塞など)

心臓の病気が原因でめまいが起こることがあります。

  • 徐脈性不整脈
    脈が遅くなる状態。息切れや疲れやすさ、めまいが一緒に現れることが多い。立っている時や体を動かしている時に症状が出やすく、安静にしていると楽になることが多い。
  • 頻脈性不整脈
    脈が速くなり、心臓が血液をうまく送り出せなくなると、血流が乱れて脳に十分な血液が届かず、めまいや目の前が暗くなる感じ、失神、冷や汗を伴う動悸が起こることがある。
  • 心房細動
    心臓が小刻みに震え、脈が不規則になる不整脈。動悸や息切れ、めまいが現れることがある
  • 心臓そのものの異常
    心臓の血管、組織、弁などに異常がある病気(心筋梗塞や狭心症など)によって動悸や胸の痛み、めまい、失神が起こる場合がある。

めまいに加えて、上記のような症状がある場合は、早めに医師に相談することが大切です。

妊娠初期のめまいに関するよくある質問

妊娠中のめまいに関する質問と回答を以下にまとめました。妊娠中期・後期によるめまいの原因、妊娠初期にみられるめまい以外の症状や原因、対処法、日常生活での注意点などについて解説していますので、確認してみてください。

Q:妊娠中期・後期でのめまいの原因は?

妊娠中期・後期にめまいを感じる原因は、妊娠初期と同様にホルモンバランスの変化や貧血などが考えられます。また、妊娠後期には、大きくなった子宮が下大静脈を圧迫し、心臓に戻る血液量が減少することがあります。これにより、血圧が低下し、めまいや吐き気を引き起こしやすくなります。

Q:妊娠初期と妊娠超初期の違いは?

妊娠初期とは妊娠13週6日までを指します。妊娠超初期とは、妊娠が成立して間もない時期を指し、一般的には妊娠3週頃までを指すことが多いです。しかし、医学用語や専門用語ではありません。

*妊娠超初期症状については、下記記事もご覧ください。

参考:妊娠超初期症状があらわれる時期や主な症状|妊娠の可能性があるときの注意点や病院を受診するタイミングについても解説

Q:妊娠初期症状でみられるめまい以外の症状は?

妊娠初期には、ホルモンバランスの変化により、さまざまな体の変化や症状を感じることがあります。たとえば、おりものの変化、下腹部の痛みやお腹の張り、強い眠気やだるさ、胃痛や胃のむかつきなどが挙げられます。ただし、症状の現れ方には個人差が大きく、ほとんど症状を感じない人もいれば、つらさを感じやすい人もいます。

*妊娠初期症状については、下記記事もご覧ください。

参考:妊娠初期症状はいつから?主な症状や原因について詳しくチェック

Q:妊娠初期症状が起こる原因は?症状を感じたらどうすればよい?

妊娠初期症状は、ホルモンバランスの急激な変化によって引き起こされます。主な症状としては、つわり(吐き気、嘔吐)、軽度の出血、おりものの変化、胸の張りや痛み、頻尿、便秘、眠気、倦怠感、気分の変化、味覚・嗅覚の変化、微熱などが挙げられます。

体調が悪い時は無理せず安静にし、バランスの取れた食事とこまめな水分補給を心がけてください。また、リラックスできる時間を持つことも大切です。自己判断での薬の服用は避け、必ず医師に相談しましょう。

Q:妊娠初期での生活での注意点は?

妊娠初期は、赤ちゃんの大切な器官が形成される重要な時期です。そのため、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。生ものや加熱が不十分な食品は控え、しっかりと加熱することで、リステリア菌やトキソプラズマによる食中毒を予防できます。

また、レバーやうなぎなどビタミンAを多く含む食品は、過剰に摂取すると赤ちゃんの先天奇形のリスクがあると報告されています。摂りすぎに注意しましょう。

さらに、ミナミマグロやマカジキなどの大型の魚は水銀を多く含むことがあり、胎児への影響が懸念されています。魚の種類や食べる量に気をつけましょう。

アルコールやたばこは赤ちゃんに悪影響を及ぼすため、禁酒・禁煙を徹底することも大切です。

Q:妊娠初期では葉酸の摂取が必要?

葉酸は、赤ちゃんの脳や脊髄のもとになる神経管の正常な発育に関わり、神経管閉鎖障害(二分脊椎など)のリスクを減らすことが知られています。そのため、妊娠前から十分に摂取しておくことが大切です。

妊娠を計画している人や妊娠の可能性がある人は、普段の食事に加え、市販のサプリメントで1日0.4mgの葉酸を補うこと1)が推奨されています。

おわりに

トーチクリニックでは、将来妊娠を考えている方向けのブライダルチェックなども提供しています。ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。

恵比寿駅・上野駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、土曜日も開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。

医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。

ブライダルチェックにご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ブライダルチェックのご予約はウェブからも受け付けております。

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また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考にしてください。

ブライダルチェック
ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。

参考文献

1)日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン 産科編2023,Accessed Mar.,2025.
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2023.pdf