現在は花粉症の薬も種類が豊富にあり、妊娠中でも比較的安全に使用できるとされているものもあります。この記事では妊婦でも使える具体的な薬の詳細や使用する時の注意点、薬以外でできる対策などについても解説します。妊娠中の花粉シーズンに備えるときの参考にしてください。
花粉症の妊婦でも使える薬はある?
花粉症の妊婦でも使用できる薬は複数あります。妊娠中に薬を服用することに不安を感じる妊婦さんは少なくありませんが、現在は花粉症に使用される薬の種類も増えています。医師や薬剤師に相談し、適切な薬を選ぶことで安全に使用することができます。
花粉症の症状がひどい場合はお母さんと赤ちゃんにとってストレスになる可能性もあるため、無理に我慢する必要はありません。しかし、薬によっては妊娠中は避けた方が良いものもあり、症状や妊娠の時期によっても向いている薬が変わる場合もあります。
自己判断で市販薬を使用するのではなく、まずは医療機関を受診し、専門家と相談して、安心して使える薬を見つけるようにしましょう。
妊娠初期・中期以降における花粉症治療
妊婦における花粉症の治療は、妊娠初期と中期以降で原則が異なり、それぞれ注意すべき点があります。
赤ちゃんの器官が作られる4か月半ばまで(主に妊娠初期に該当する期間)は、薬が赤ちゃんに与える影響を考慮して、なるべく飲み薬の使用を避けることが望ましいとされています。どうしても症状が辛い場合には、点鼻薬(鼻に使う薬)や点眼薬(目薬)などの飲み薬でないものが最初に検討されることが多いです。
一方、それ以降の妊娠中期になると、胎児への影響が比較的少ないとされる抗ヒスタミン薬などの内服薬も、医師の判断のもとで使用が検討されます。自己判断で市販薬を使用することは避け、医師に相談した上で妊娠時期や症状に合わせた適切な治療を受けるようにしましょう。
花粉症の妊婦への使用で比較的安全とされている薬
花粉症の妊婦でも妊娠週数や症状に合わせて、比較的安全に使用できる薬がいくつかあります。安全性が高いと考えられているものとして、飲み薬ではロラタジン(製品名:クラリチン等)、セチリジン(製品名:ジルテック等)、フェキソフェナジン(製品名:アレグラ等)などの成分があります。
これらの薬は、赤ちゃんへのリスクが比較的低いとされており、医師の判断のもとで使用されることがあります。ただし、個々の妊婦さんの状態やアレルギーの有無などによって、向いている薬は異なることがあります。
また、市販薬に関しては同じ商品名でも複数の成分が入っていたり、全く別の成分であるという場合もあるため、自己判断で市販薬を使うのは避けるのが安全です。原則は医師に相談して、処方される薬を使うようにしましょう。
妊娠中でも比較的安全とされている薬として挙げたロラタジン、セチリジン、フェキソフェナジンについて、以下で詳しく解説していきます。
ロラタジン(製品名:クラリチン等)、デスロラタジン(製品名:デザレックス等)
ロラタジンは大規模な研究結果から妊娠中でも比較的安全に使用できると考えられている成分です1)。代表的な製品としてクラリチンなどがあり、1日1回食後に使用する薬です。
類似の成分であるデスロラタジンは、ロラタジンの活性代謝物であり、妊娠中の安全面ではロラタジンと同じと考えられ、比較的安全な成分と言えます。代表的な製品はデザレックスで、1日1回の使用(必ずしも食後でなくてOK)となります。
セチリジン(製品名:ジルテック等)、レボセチリジン(製品名:ザイザル等)
セチリジンも比較的規模の大きい研究結果から、妊娠中でも一定の安全性があると考えられています1)。代表的な製品としてジルテックがあり、1日1回寝る前に使用する薬です。
類似の成分であるレボセチリジンは、セチリジンの中でより効果がある部分を取り出したものです。妊娠中における安全面はセチリジンと同様と考えられ、こちらも選択肢のひとつとなります。代表的な製品はザイザルで、1日1回寝る前に使用します。
フェキソフェナジン(製品名:アレグラ等)
フェキソフェナジンはロラタジンやセチリジンほどの規模ではないものの、一定の研究結果があります1)。愛知県薬剤師会がまとめている「妊娠・授乳と薬」対応基本手引きでは、妊娠中でも催奇形性(赤ちゃんに奇形が起こるリスク)は否定的と記載されています2)。1日2回使用する薬です。
フェキソフェナジンの成分を含む製品の代表例としてアレグラがあり、市販薬としても有名な薬です。しかし、妊娠中に市販薬を自身の判断のみで使用するのは避けるのが安全です。妊娠週数や体調面なども考慮して医師に判断してもらうのが安全であるため、自己判断での使用はなるべく避けるようにしましょう。
やや注意が必要な薬は
妊娠中の使用でやや注意が必要な薬として、点鼻薬のナファゾリンやテトラヒドロゾリンの成分を含むものが挙げられます2)。市販薬としてナファゾリンはナザールなど、テトラヒドロゾリンはコールタイジンやパブロン点鼻などの製品名で販売されています。注意が必要な理由として、これらは血管収縮作用をもつ成分であり、子宮収縮にも影響する可能性があるためです。
ただし、点鼻薬として1、2回使った程度ですぐに赤ちゃんに影響が出るというわけではありません。間違って使ってしまった場合などは慌てず、一旦それ以降の使用を中止して医師と話すタイミングで報告するようにしましょう。
花粉症の妊婦が薬以外でできる予防対策
妊娠中でも花粉症の対策として、薬以外でもいろいろなものがあります。例えば、外出時のマスクやメガネ、服装でも一定の対策ができます。また、帰宅時や室内にいるときにも複数の対策があるため、これらを組み合わせて花粉症シーズンに備えるようにしましょう。
外出時に有効な予防対策
マスク・メガネの有効性
妊婦の花粉症対策において、マスクとメガネは有効な手段です。日本医科大学耳鼻咽喉科研究データ3)からは以下のような結果が得られており、マスクとメガネはいずれも鼻の中や目の結膜上へ到達する花粉の数を減らせることがわかっています。
注意点として、マスクを使用する際は顔にフィットするものを選ぶようにしましょう。目が細かいマスクの方が花粉の侵入を防ぐ効果が高いため、布マスクよりも不織布マスクの方がおすすめです。また、衛生面からも使い捨てのものを選ぶのが良いでしょう。
メガネに関しても、花粉症用のメガネのように顔にフィットするものがより効果があると考えられます。しかし、通常のメガネでも目に入る花粉の量を減らすことができます。
コンタクトレンズはレンズ表面に花粉が付着したり、コンタクトレンズによる刺激によってアレルギー性結膜炎が悪化する可能性があります。そのため、メガネを使用する方が安全と考えられています。
花粉症の予防対策に有効な服装
妊婦の花粉症の予防対策として、服装も重要な役割を果たします。
花粉が付きにくく露出の少ない服装を選ぶようにしましょう。具体的には、ウール素材の衣服は花粉が付着しやすい特徴があるため、綿やポリエステルなどの素材がおすすめです。冬物のコートなどで毛羽だった毛織物なども花粉が吸着しやすくなるため、避けるのが良いとされています。
また、花粉が肌に付着するのを防ぐ意味では、半袖やショートパンツなど露出がある服も避けた方がよく、長袖やロング丈の服装を選ぶようにしましょう。頭部への花粉の付着の対策として帽子をかぶることもおすすめです。
帰宅時に有効な予防対策
帰宅時の対策も、室内に花粉を持ち込まないために重要です。帰宅時には、玄関先で花粉を丁寧に落とし、室内に花粉を持ち込まないようにしましょう。
ウールなどの花粉が付きやすい素材の衣服を着ていた場合は、ブラシなどを使って念入りに花粉を払い落としましょう。家の中に入ったら、手洗いやうがい、余裕があれば洗顔や洗髪をすることも推奨されています。
髪の毛にも花粉は付着するため、そのまま就寝すると枕に花粉がついて症状が出てしまうことも考えられます。帰宅後は可能であればすぐに、遅くとも就寝までには必ずシャワーを浴びて、枕カバーも一定の頻度で洗濯をすると安心です。
室内で有効な予防対策
花粉症に悩む妊婦にとって、室内での花粉対策も日々の生活の質を大きく左右する重要な要素です。室内への花粉の侵入を最小限に抑えることが、花粉症対策のポイントとなります。
換気を行う際は窓を全開にはせず10cm程度にし、レースのカーテンを閉めるだけでも花粉が入ってくる量を減らすことができます。室内の清掃も重要であり、こまめな掃除機がけや、濡れた雑巾での拭き掃除を行うことで、室内に侵入した花粉を減らすことができます。
特に、床や家具の表面、カーテンなどは花粉が溜まりやすい場所なので、丁寧な清掃や洗濯を心がけましょう。なお、こまめな洗濯や布団を清潔に保つことも重要ですが、花粉の時期は外干しは控えるのが良いでしょう。
空気清浄機の利用も花粉を減らす効果があります。どの製品が良いか迷う場合は、花粉問題対策事業者協議会から「花粉除去性能が⾼い」かつ「騒⾳が⼤きくない」製品で、一定の測定条件をクリアしたものが認証されているものがあります。花粉問題対策事業者協議会のサイトを参考にするのも良いでしょう。
妊娠中の花粉症に関するよくある質問
妊娠中の花粉症に関して、よくある質問をまとめました。妊娠中だと気づかずに薬を飲んでしまった場合や、妊娠中に花粉症が悪化するかなどについても回答しているので参考にしてください。
Q:花粉症の薬を妊娠中だと気づかずに飲んでしまった場合はどうすればよい?
花粉症の薬を、妊娠に気づかずに飲んでしまった場合でも、過度に心配する必要はありません。まずは冷静になり、医師に相談するようにしましょう。
妊娠4週未満ではそもそも薬の影響がほとんどないとされている期間(無影響期)であり、この期間に飲んでしまった場合はあまり心配はいりません。
また、花粉症に使われる薬は、主に抗ヒスタミン薬をはじめとする、抗アレルギー薬に分類されるものが主になります。これらの薬は妊娠中の使用について注意喚起されている薬でも、明確にお腹の赤ちゃんへの悪影響があると確認されているものはほとんどありません4)。危険性がはっきりとわかっていないために、注意喚起をされているものが多いと言えます。
ただし、中には動物実験での悪影響が確認されているものもあるため、妊娠がわかったら自己判断で薬を飲むのは避け、医師の指示に従うようにしましょう。
Q:花粉症は妊婦になると悪化しやすくなる?
花粉症は妊婦になると悪化しやすくなることがあります。その原因として、妊娠中は体の水分量やホルモンバランスが変化することなどが挙げられます。
妊娠中は花粉症でない場合でも、妊娠性鼻炎という妊娠中特有の鼻炎症状が出るケースがあります。妊娠性鼻炎では、ホルモンバランスの変化により、鼻粘膜が反応して鼻詰まりや鼻水などの症状が出ることがあります。
上記のような点から、妊娠中の花粉症は普段よりもさらにつらいと感じることがあるため、必ずしも無理に我慢する必要はありません。医師の指示により薬が処方された場合は正しい使い方を守って対処するようにしましょう。
Q:花粉症の妊婦が症状緩和のために市販薬や漢方薬を使用しても問題ない?
妊娠中は市販薬やドラッグストアの漢方薬に関して、自己判断での使用はなるべく避けましょう。
市販で販売されている薬は、病院で処方される薬よりも効き目がおだやかなものが一般的であり、赤ちゃんへの影響も少ないものが多いです。しかし、中には妊婦は避けた方が良いとされている薬や、使い方・使用量を間違えると悪影響をおよぼす可能性がある成分もあります。
自分が花粉症とわかっている場合は、事前にどうするか相談しておいたり、症状が出たら次の受診時に相談したりするなど、医師の判断を確認しておくようにしましょう。
Q:妊婦でも花粉症の治療で舌下免疫療法を受けられる?
花粉症治療のひとつである舌下免疫療法は、妊娠中に開始することは推奨されていません。ガイドラインでは妊娠中の導入は禁忌とされ、この時期に開始するのは避けるのが安全です。
ただし、すでに治療を開始している場合は医師の判断で継続されることもあるため、自分の判断で中止するのは避け、必ず相談するようにしましょう。
現在、舌下免疫療法で使われる薬としてシダキュアがあります。シダキュアは1日1回1錠を舌下(ベロの下)に1分間置いてから飲み込むという使い方をします5)。花粉症を根本から治療できる可能性があるものですが、使用期間は短くても3年程度毎日継続する必要があるため、妊娠期間と重なる可能性も十分あります。
花粉症に対して舌下免疫療法を試してみたい場合は、自身の妊娠・出産等のライフプランも合わせて検討し、その内容を医師にも共有しておくのが良いでしょう。
Q:妊婦でも花粉症治療としてレーザー療法を受けられる?
花粉症に対するレーザー療法は、妊婦でも受けられる可能性がある治療法です。下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術は鼻の粘膜にレーザー光線を当てることで腫れやアレルギー症状を和らげて、鼻水や鼻詰まり、くしゃみなどを改善する方法です。
体への負担が比較的少なく、妊婦にも実施しやすい治療法とされています。ただし、実際に実施できるかは医師の判断となるため、自分の状況をしっかり伝えて適切なアドバイスを受けるようにしましょう。
Q:授乳中に花粉症の薬を飲んでもよい?
授乳中も妊娠中と同様に使用の制限がある薬があるため、あらかじめ医師と相談して判断してもらうのが安全と言えます。
妊娠中は自分のお腹に赤ちゃんがいるため、飲んだ薬が直接赤ちゃんにも影響する可能性があります。一方、授乳中は母乳を介して薬の成分が影響する可能性があります。花粉症で使われることが多い抗ヒスタミン薬は、ほとんどのものが授乳中でも使用できると考えられています。
花粉症はあらかじめ症状が出ることをわかっている場合が多いため、授乳期間中の対処法を決めておくと良いでしょう。目薬や点鼻薬ももちろん選択肢となります。
授乳中の薬の使用に関して参考になるWebサイトとして、規模が大きい公的な小児の医療機関である「国立生育医療研究センター」の公式サイトがあります。「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」の一覧が掲載されており、花粉症にも使われる「抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)」の欄では4種類の薬(ジフェンヒドラミン、デスロラタジン、フェキソフェナジン、ロラタジン)が紹介されています。
原則は医師に直接相談するのが最も安全ですが、必要に応じてこのようなサイトの情報も参考にするようにしましょう。
おわりに
参考文献
1)村島温子. 妊娠・授乳中における薬剤の安全性. アレルギー. 2023;72(3):229-232.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/72/3/72_229/_pdf
2)愛知県薬剤師会. 「妊娠・授乳と薬」 対応基本手引き(改訂 2 版) . あいち小児保健医療総合センターウェブサイト
https://www.achmc.pref.aichi.jp/sector/hoken/information/pdf/drugtaioutebikikaitei%20.pdf
3)環境省・厚生労働省. 花粉症対策 スギ花粉症について日常生活でできること. 厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001291431.pdf
4)米倉修二, 岡本美孝. 妊娠とアレルギー性鼻炎. アレルギー. 2014;63(5):661-668.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/63/5/63_KJ00009327661/_pdf
5)鳥居薬品株式会社. シダキュアスギ花粉舌下錠 添付文書. PMDA
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4490035F1027_1_08/?view=frame&style=XML&lang=ja