2022年4月から、体外受精を含む生殖補助医療技術(ART)の基本治療が保険適用になり、不妊治療の費用負担が軽減されることになりました。本記事では、これまでの適法範囲との違いや適用回数、制度変更後の保険適用、自費治療の内容や費用について解説します。
ART(生殖補助医療技術)の費用は保険適用される
少子化対策の一つとして、不妊治療における経済的な負担軽減を目的に、2022年4月から、体外受精・顕微授精を含む生殖補助医療技術(ART*)が保険適用(自己負担3割)になりました。
これまでは一般不妊治療が保険適用の対象でした。一般不妊治療には、不妊に関する検査や、タイミング法、人工授精などが含まれます。人工授精は、精子を体外で処理し女性の子宮内に直接注入する方法で、比較的侵襲性が低く、これまでも保険適用で実施されてきました。
<人工受精>
ARTの基本治療が保険適用となったことで、採卵、採精、体外受精(c-IVF*)、顕微授精(ICSI*)など、一般不妊治療よりも侵襲性が高く、高度な治療の費用負担も軽減されました。
<体外受精(c-IVF)>
<顕微受精(ICSI)>
また、保険と自費の混合治療は禁止されていますが、先進医療として認められたものは、保険適用のARTと併用することができます。
婚姻しているカップルはもちろん、事実婚の場合も対象となります。
体外受精が保険適用になる条件(年齢・回数等の制限)について、次の項で詳しく解説しますので、参考にして下さい。
*ART: Assisted Reproductive Technology(生殖補助医療技術)
c-IVF: Conventional-IVF(標準体外受精)
ICSI: Intra Cytoplasmic Sperm Injection(顕微授精)
IVF(体外受精)・ICSI(顕微授精)が保険適用になる条件
保険適用には、年齢と回数に関する条件があります。
IVF(体外受精)・ICSI(顕微授精)の治療開始と、胚移植回数(1子ごと)について、次のように年齢による条件があります。
・治療開始時の年齢: IVF・ICSIは、治療開始時に女性の年齢が満43才未満であることが条件
・ 初めての治療開始時の女性の年齢 による胚移植回数の条件
保険適用となる通算回数に上限があるのは、胚移植のみになります。採卵などの他の基本治療に回数の上限はありません。
また、保険診療における回数制限は、保険診療で行った回数のみをカウントしますので、他院で行った胚移植の回数は通算されますが、過去に自費で行った胚移植の治療実績や助成金は加味されません。
治療開始の前には、治療方針の検討や治療計画にも日数を要するので、すぐに治療開始とはなりません。
初めての治療開始時の女性の年齢が条件になっているので、ライフプラン全体を見据えて、検査や治療の検討をおすすめします。
ART(生殖補助医療技術)にかかる費用(保険適用・自費)
ARTの保険適用は国の定めるルールに基づいており、どの医療機関でも原則として同じ条件が適用されます。
ただし、一部の治療法や薬剤については、医療機関によって取り扱いが異なる場合があります。自費診療の費用は医療機関によって異なり、治療内容や使用する薬剤によっても変動します。
この記事では、保険適用の費用と、トーチクリニックで行っている自費診療の費用を、主要なステップごとに紹介します。ARTの保険適用の負担額がトータルでいくらなのか、治療の予算を立てる際の参考にしてください。
採卵にかかる費用
採卵にかかる保険適用の費用は、基本料と採卵の個数で計算されます。
自費の場合
保険適用に該当しない場合に自費となります。
IVF(体外受精)・ICSI(顕微授精)かかる費用
IVFは1回の治療サイクルでの費用、ICSIは授精卵の個数で費用を計算します。
IVF(体外受精): 採取した卵子に精子をふりかけて体外で受精させる方法
ICSI(顕微授精): 精子を卵子に直接注入して授精させる方法
受精卵培養にかかる費用
受精卵の培養は、赤ちゃんを育むための最初のステップです。
受精卵培養とは、受精卵が細胞分裂を繰り返し、子宮に移植可能な状態(胚)になるまで、適切な環境で育てることを指します。どこまで育てるかによって値段が異なります。
胚凍結保存にかかる費用
胚凍結保存とは、採卵術後に体外で受精・発育した受精卵(胚)を凍結保存する方法です。
胚移植を実施するまで、受精卵の生存性を損なうことなく長期間保存します。
受精卵が複数個得られた場合には、凍結保存しておくことで再度採卵を行うことなく、胚移植が可能となります。
胚移植にかかる費用
胚移植は、体外受精や顕微授精によって得られた受精卵を、子宮に戻す処置です。
ART(生殖補助医療技術)の費用負担が軽くなる制度
保険適用だけでなく、ARTの費用負担を軽くするための制度があります。
地方自治体が少子化対策として行っている助成事業や、高額の医療費全般を軽減する制度をまとめたので、参考にしてください。
地方自治体の助成事業
さまざまな自治体が、不妊治療に取り組むカップルを支援する助成事業を行っています。
お住まいの都道府県のホームページや市区町村の保健センターを調べて、対象となる場合には活用してください。
ここでは東京都の先進医療の助成の事例を紹介します。
■東京都特定不妊治療費(先進医療)助成事業の概要
東京都では不妊治療における経済的負担を軽減するため、体外受精及び顕微授精を行う際に、保険適用された治療と併用して自費で実施される「先進医療」に係る費用の一部が助成されています。
1回の特定不妊治療(保険診療)と併せて実施した先進医療が対象です。
※ 保険診療とは別に、単独で先進医療を実施した場合は、対象となりません。
2024年10月時点で、対象となる先進医療は以下の通りです。
○ SEET法
○ タイムラプス
○ 子宮内膜スクラッチ
○ PICSI
○ ERA / ERPeak
○ 子宮内細菌叢検査(EMMA / ALICE)
○ IMSI
○ 二段階胚移植法
○ 子宮内細菌叢検査(子宮内フローラ検査)
○ 不妊症患者に対するタクロリムス投与療法
○ 膜構造を用いた生理学的精子選択術 (マイクロ流体技術を用いた精子選別)
○ 着床前胚異数性検査(PGT-A)
助成回数: 保険診療と同じ条件の回数が助成されます。
助成金額上限: 先進医療にかかった費用の10分の7についてが助成金額です。15万円を上限とするので、10分の7が15万円をこえる場合には、15万円が助成されます。
高額療養費制度
医療機関や薬局の窓口で支払った額(保健適応内)が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。
上限額は、年齢と所得によって異なります。
世帯合算(同一の医療保険に加入している場合)や、上限金額を超えた回数が複数回(12ヶ月以内に4回目以降)など、負担が軽減される場合があります。
加入している公的医療保険(健康保険組合、国民健康保険など)に、申請・手続きを行います。
医療費控除
医療費控除は、世帯で支払った医療費が1年間(1月1日〜12月31日)で10万円もしくは総所得金額等の5パーセント(総所得金額200万円以下の場合)を超えた場合に、確定申告で所得控除を受けることができる制度です。
総所得金額に応じて税金が控除されます。
対象となるのは、病院や薬局で支払った医療費、通院費用などです。確定申告の際に領収書が必要なので、なくさずに保管しておきましょう。
また、助成金や高額療養費制度、生命保険等の支給額を引いた金額が対象となります。
民間の医療保険
2022年4月の公的保険の適用に伴い、民間の医療保険で給付金を受け取ることができるケースが増えました。
手術、入院、各種検査や治療などで給付金を受け取ることができます。
各保険商品の給付条件や給付回数は異なり、商品ごとに内容をよく確認することが重要です。
不妊治療に医療保険で備えたい方は関連サイトなどで詳しく調べて検討してください。
ART(生殖補助医療技術)の方法とスケジュール
治療のステップとスケジュールについて解説します。
診察①:月経1〜3日目
月経1〜3日目に病院で下記の検査を行います。
血液検査:E2、LH、FSH**(ホルモンの基礎値)を確認
血液検査:AMH(卵巣予備能検査)を確認(医師の指示がある場合)
超音波検査:原始卵胞数(卵子の入っている袋の数)の確認
検査結果と年齢、挙児希望数から総合的に判断して、それぞれの方に合った治療法を決定します。
**
E2: エストラジオール(卵胞ホルモン)
LH: 黄体形成ホルモン(排卵を促すホルモン)
FSH: 卵胞刺激ホルモン(卵胞を刺激して成長させるホルモン)
卵巣刺激:月経3日目〜
当院では、月経3日目から内服薬や注射を使用して卵巣刺激を開始します。
自然な周期では通常1つの卵子が成熟しますが、当院のARTでは、主に、同時に複数の卵子を採取できる方法を採用しています。
診察②:月経8〜9日目
採血と超音波検査で卵胞の状態を確認します。
血液検査:E2、LH、P4***の評価(卵胞の成熟、卵巣過剰刺激症候群のリスク)
超音波検査:卵胞の大きさと数の評価
卵胞発育が不十分である場合は数日後に再度診察や採血を行い、十分発育するまで繰り返します。
***
P4:プロゲステロン(黄体から分泌されるホルモン)
排卵誘発:採卵約36時間前
血液検査や超音波検査により卵胞が十分に発育しているのを確認したら、採卵日を決定します。
採卵予定時刻の約36時間前に排卵を促す薬剤(注射、点鼻薬)を投与します。
採卵
排卵誘発から約36時間後に採卵を行い、同日に、卵子と精子を受精させます。受精の方法は以下の2つがあります。
体外受精:採卵した卵子を培養液に置き、一定量の精子と一緒にして、受精するのを待ちます。
顕微授精:1つの精子を直接卵子に注入して授精させます(精子の運動性が低い場合、精子の数が少ない場合、受精障害がある場合など)。
ART(生殖補助医療技術)の妊娠率
日本産婦人科学会の統計によると、2021年の移植周期1回あたりの妊娠率は34.9%です。
新鮮胚移植周期21.2%、凍結融解胚移植周期36.9%と、凍結した受精卵を融解して移植した場合が高くなっています。
参照: 2021年体外受精・胚移植等の臨床実施成績(日本産婦人科学会) p4,5,29
ART(生殖補助医療技術)での妊娠率を上げるためのポイント
ARTでの妊娠率を上げるために意識して実施したいポイントを紹介します。
こちらの記事でも、詳しく紹介しているので、関心のある方は参考にしてください。
参考:体外受精の成功率を上げる方法は?生活改善や食べ物について解説
ストレスを溜めない
ストレスは、妊娠に関わるホルモンのバランスに影響を与えることがあります。
ホルモンバランスが乱れると、女性は卵子の質や月経周期、男性は精子の質や量に影響を与える可能性があります。
ストレスを感じやすい状況を把握して避ける、自分なりのリラックスや解消法で対処するなどの工夫をしてみましょう。
適度な運動をおこなう
ウォーキングやストレッチなど、適度に運動することをおすすめします。
肥満や自律神経の乱れは、流産率に影響を与えると考えられています。適度に運動することで、体重を管理したり、自律神経を整えることが大切です。。また、血流をよくすることは、女性の場合、子宮内膜に好影響を与えることも期待されます。
早めに不妊治療をおこなう
早めに不妊治療をはじめることは、妊娠率を上げる重要なポイントです。
加齢による卵子の質の低下によって、女性の妊娠率は20代後半をピークに低下し、35歳を過ぎるとそのスピードが加速、40歳を過ぎると急激に低下します。
妊娠を希望しているのになかなか妊娠できないという不安を感じたら、早めにパートナーと一緒に病院で検査を受けることをおすすめします。
h2 体外受精に関連したよくある質問
Q:不妊症とは?
不妊症とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものをいいます。
世界保健機構(World HealthOrganization: WHO)では 2009 年から不妊症を「1 年間の不妊期間を持つもの」と定義しています。
カップルの年齢が高い場合や、早めの妊娠を希望する際には、1年を待たずに早い段階で検査をすることも増えてきています。
Q:不妊症の治療の流れは?
不妊症の治療は、検査からスタートします。
検査結果をもとに、タイミング法や人工授精といった一般不妊治療から始めて、生殖補助医療である体外受精へと、段階的に高度な治療へステップアップするのが一般的です。
ただし、検査結果や年齢などの状況によっては、タイミング法をとばして人工授精やARTから治療をスタートする場合もあります。
不妊治療は、カップルそれぞれで治療法が異なります。まずは、カップルお二人で現状を把握し、いつ妊娠したいのか、こどもが何人ほしいのかをよく話し合ってください。そのうえで、どのような方針にするのか、医師とスケジュールを立てていきます。
正しい知識を持ち、自分たちで選択していくことで、納得のいく治療ができるのです。
Q:どれくらいの人が不妊治療をおこなっている?
2021年の統計によると、夫婦の39.2%(3組に1組)が不妊について心配した経験があって、22.7%(4.4組に1組)が実際に不妊治療の経験があります。
不妊治療を受けるカップルは増加傾向で、2022年以降は体外受精の保険適用によって、さらに増えることが推測されます。
参照: 国立社会保障人口問題研究所「第16回(2021年)出生動向基本調査」
Q:体外受精(ART:生殖補助医療技術)と人工授精の違いは?費用は?
人工授精は、精子を体外で処理し、女性の子宮内に直接注入する方法で、一般不妊治療の中の一つです。体外受精のように腟やおなかから針をさしたり(採卵手術)をしたり、受精卵を子宮に戻したりする工程は必要はありません。排卵直前期に、内診台で精子を子宮に注入する方法で、数分で終わります。性交渉の代わりに、チューブで子宮内に注入するだけなので、女性の身体への負担は少ない不妊治療です。
保険適用での人工授精の場合、自己負担額は1〜2万円程度です。自費で治療を行うと1回あたり5万円程度です。あくまでも目安で、治療内容や医療機関によって費用は変動します。
ART(IVF・ICSI)は、前述の通り、卵子を採取して、体外で受精した胚を子宮に移植します。費用はこの記事の上記の表を参照してください。
おわりに
トーチクリニックでは、将来妊娠を考えている方向けのブライダルチェックなども提供しています。ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。
トーチクリニックは恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週7日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。
医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。
ブライダルチェックにご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ブライダルチェックのご予約はウェブからも受け付けております。
また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考ください。