黄体機能不全とは
黄体機能不全は不妊の原因のひとつです。黄体は排卵後に卵胞から変化した組織で、妊娠継続に欠かせない黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌します。正常な量の黄体ホルモンが分泌されず、子宮内膜を妊娠に適した環境にできない状態のことを黄体機能不全といいます。
本来、黄体ホルモンは子宮内膜を厚くして受精卵を着床しやすくしたり、着床後に受精卵に必要な栄養を供給しやすくしたりする働きがあるのですが、黄体機能不全の状態だと子宮内膜の成熟が不十分になるため、月経異常や着床障害、流産のリスクが高まります。
黄体機能不全と不妊
黄体機能不全になると、子宮内膜が十分に厚くならず妊娠に適した環境を維持できなくなるため、受精卵が着床しにくくなったり、たとえ着床ができても受精卵に十分な栄養を供給できないため、不妊の原因になります。それと同時に、黄体ホルモンの分泌量が少ないことで子宮の収縮を抑えることが難しくなり、流産のリスクも高まります。
黄体機能不全の症状を詳しくチェック
不妊や不育症を引き起こす原因となる黄体機能不全になると、具体的にどのような症状が現れるのかについて解説します。黄体機能不全になった場合の主な症状は以下の通りです。
- 不妊や流産を繰り返す:子宮内膜が成熟しないため自然妊娠が難しくなり、妊娠しても早期流産のリスクが高くなります。
- 月経不順が起こる:黄体ホルモンが正常に分泌されないため、月経周期の乱れや無月経が起こりやすくなります。
- 不正出血が起こる:黄体ホルモンの分泌量が少ないことで、月経開始前に子宮内膜が剥がれて出血しやすくなります。また、通常時の月経よりも出血量が増えることもあります。
上記の症状に当てはまる場合、黄体機能不全のおそれがあるため、一度クリニックを受診することをおすすめします。
黄体機能不全の原因
黄体機能不全の原因は人によってさまざまですが、主な原因は以下の通りです。
- 遺伝的・身体的な要因:加齢や肥満、摂食障害、過度な運動など
- ホルモンバランスの乱れ:生活習慣の変化やストレス、栄養不足、体重の変動など
- 卵巣機能の低下:卵巣の機能が低下することで黄体ホルモンや卵胞ホルモンの分泌異常が起こる
- 卵胞の成熟不良:成熟しなかった卵胞が排卵をした場合、十分な黄体ホルモンが分泌されなくなる
- 薬剤や治療の影響:排卵誘発剤やホルモン療法などの影響でホルモンバランスが乱れることがある
- 高プロラクチン血症や甲状腺機能異常などの病気
特に高プロラクチン血症や甲状腺機能異常といった病気が原因の場合は、まず病気の治療を優先する必要があります。高プロラクチン血症と甲状腺機能異常がそれぞれどんな病気なのか、そしてなぜ黄体機能不全の原因となるのかについては以下で解説します。
高プロラクチン血症
高プロラクチン血症とは、母乳を分泌させるプロラクチンというホルモンが脳から過剰に分泌される病気です。プロラクチンは過剰に分泌されると黄体ホルモンや卵胞刺激ホルモンの作用を阻害する性質があるため、高プロラクチン血症を発症すると黄体機能不全になるリスクが高まります。
高プロラクチン血症について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
甲状腺機能異常
甲状腺機能異常とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されたり、逆に分泌量が不足したりする状態のことをいいます。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると頻脈や眼球の突出、疲れやすくなるなど多様な症状が、分泌量が不足するとむくみや体重の増加、慢性的な疲労感といった症状が現れます。
甲状腺ホルモンは卵胞の成長や黄体機能に必要なホルモンなため、分泌量が極端に少なくなる甲状腺機能低下症の状態になると、黄体機能不全が生じやすくなってしまうと考えられています。
甲状腺機能異常について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
黄体機能不全の検査と診断
黄体機能不全かどうかを判断するためにはどのような検査をして、どのようなことを見ているのかについて解説します。黄体機能不全の検査では主に「基礎体温」「血中黄体ホルモン濃度」「子宮内膜評価」3つの項目を確認します。
基礎体温
通常、正常な排卵周期の方の基礎体温の変化は、以下の図のように「低温相」と「高温相」の二相性を示し、「低温相」と「高温相」それぞれの期間における温度差は大体0.3℃以上です。
一方で、基礎体温が以下の状態を示すようであれば黄体機能不全を疑います。
- 基礎体温の高温期が10日間以下(通常は14日間程度)
- 低温相と高温相の平均温度差が0.3℃以下
- 低温相から高温相へ移行する期間が3日間以上
血中黄体ホルモン(プロゲステロン)濃度
血液中の黄体ホルモン(プロゲステロン)濃度を測定し、排卵後の血中プロゲステロン濃度が低い場合に黄体機能不全を疑います。具体的には、基礎体温が高温相であり、排卵後5日目から9日目くらいまでの黄体期中期の血中プロゲステロン濃度が10ng/ml未満の場合、黄体機能不全が考えられます。
子宮内膜評価(子宮内膜日付診)
高温相の中期頃に、子宮内膜組織を採取する子宮内膜生検や超音波検査によって子宮内膜の状態を評価し、黄体機能不全のおそれがあるかどうかを確認します。本来、黄体ホルモンが正常に分泌されていれば子宮内膜が厚くなりますが、検査によって子宮内膜の厚さや形態の異常が確認される場合、黄体機能不全を疑います。
黄体機能不全の診断基準
黄体機能不全の診断は、「基礎体温」「血中黄体ホルモン濃度」「子宮内膜評価」の検査結果を踏まえて総合的に判断をします。主な診断基準は以下の通りです。
血中黄体ホルモン(プロゲステロン)濃度が低い
血液検査の結果、排卵後5日目から9日目くらいまでの黄体期中期の血中プロゲステロン濃度が10ng/ml未満である場合、黄体機能不全と診断される可能性が高まります。
子宮内膜の異常
子宮内膜評価(子宮内膜日付診)の結果、子宮内膜が厚くなっていないなど、子宮内膜の厚さや形態の異常が確認される場合、黄体機能不全と診断される可能性が高まります。
黄体機能不全の治療
黄体機能不全と診断された場合の治療方法について解説します。妊娠の希望がある場合とない場合とで治療方法が変わるため、それぞれ分けて解説します。
妊娠の希望がある場合
妊娠を希望している場合は、黄体ホルモン補充療法を行います。排卵後に黄体ホルモンを投与することで、子宮内膜の成熟や着床を促進します。
また、黄体機能不全は、卵胞の発育・成熟過程に密接に関わっており、排卵障害や卵胞発育障害の症状が併発されるケースも少なくないため、排卵がない場合には排卵誘発剤を用いて排卵を促進することもあります。特に体外受精や胚移植といった不妊治療を行っている場合は、薬剤の影響により黄体ホルモンの分泌量が低下するため、黄体ホルモンの補充が必要不可欠になります。
妊娠の希望がない場合
現段階で妊娠を希望しておらず、月経不順や不正出血などの検査・治療を希望する場合は、低容量ピルや黄体ホルモン剤の内服、または漢方薬で治療を行います。なお、初経から1〜2年程の時期には、無排卵周期症という排卵を伴わない月経が起こることも多く、時間の経過により軽快するケースもあるため、基礎体温の計測のみで経過観察となることがあります。
黄体機能不全の改善
黄体機能不全を改善するためには、クリニックで治療を受けることが基本です。食生活やサプリメントの摂取のみで改善することは難しいです。一方で、黄体機能不全をはじめ、ホルモンバランスが乱れる原因として、急激なダイエットや肥満が挙げられます。特に、黄体機能不全がホルモンバランスの乱れによって起こっている場合は、生活習慣や食生活を見直すことによって改善できる可能性はあります。
例えば、急激なダイエットを行っていたり、体重がとても低い方の場合は栄養バランスの取れた食事を心がける、肥満の方の場合は食事の栄養バランスを見直したり、適度な運動を行うなどを検討されるといいですね。
よくあるご質問
黄体機能不全でも妊娠できますか?
黄体機能不全であっても妊娠できる可能性はあります。しかし、黄体機能不全になると、受精卵が着床しにくくなったり、着床後も受精卵に十分な栄養を供給できなくなったりするおそれが大きくなるため、妊娠できる確率は低くなります。また、流産のリスクも高まります。一方で、適切な治療を受けることで妊娠の確率を高めることができるため、なるべく早い段階で検査・治療に取り組むことが大切です。
黄体機能不全で不妊になる確率は?
黄体機能不全になることで不妊になる確率は明確にはわかっていません。一方で、不妊症患者における黄体機能不全の状態になっている人の割合は10〜50%程度という報告はあります。
おわりに
この記事を読んで、「もしかして私、黄体機能不全かも・・・?」と思った方や、妊活の前にブライダルチェックをしたい方は、ぜひ検査をお受けください。実際に治療が必要と判断された場合には、不妊検査として検査が保険適用となることもあります。
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