妊娠中に意識して摂りたい食べ物と避けたほうがよい食べ物|妊娠時期別の食事のポイントについても紹介

最終更新日時:
2024-10-16
市山 卓彦
市山 卓彦 医師
院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

妊娠中はどんな食べ物を食べて良いのか、避けたほうがよいものもあるか、迷うことも多いのではないでしょうか。

・どのような栄養素を摂ったほうがいいのか
・どんなことに気をつければよいのか
・妊娠の時期によって変わるのか

特に初めての妊娠ではわからないことも多く、「結局何を食べれば良いの?」と感じることもあるでしょう。ただ、ポイントさえ押さえれば妊娠中も楽しみながら食事を摂ることができます。

今回のコラムでは、妊娠中に積極的に摂取したい栄養素やその栄養素が含まれる食べ物のほか、避けるべきものや摂取量を控えたほうが良いものなどについて解説します。

このコラムを読んで、妊娠中の食事のポイントを知り、少しずつ大きく育つ赤ちゃんとともに楽しい食生活を送ってください。

妊娠中に意識して摂りたい食べ物

妊娠中は赤ちゃんへの影響も考えて、摂取する栄養素を意識した食生活を送ることが重要です。

特に、葉酸やビタミンB12は胎児の発育に不可欠であり、鉄分、ビタミンC、動物性タンパク質も成長や貧血予防に重要です。他にも、骨格形成に重要なカルシウム、ビタミンD、体の調子を整える面から食物繊維、乳酸菌なども積極的に摂取しましょう。

・葉酸・ビタミンB12
・鉄分・ビタミンC・動物性タンパク質
・カルシウム・ビタミンD
・食物繊維・乳酸菌

上記の栄養素を含む食べ物について、それぞれ解説しましょう。

葉酸・ビタミンB12

妊娠中の食事で特に意識したい栄養素として、葉酸とビタミンB12が挙げられます。これらは、赤ちゃんの健やかな発育に欠かせません。

葉酸は、妊娠初期の胎児の神経管閉鎖障害リスクを低減させる効果があります。赤ちゃんの初期の成長期間には特に重要な栄養素で、妊活期間や妊娠初期においては、「通常の食品以外の食品に含まれる葉酸(狭義の葉酸)を 400μg/日摂取することが望まれる」とされており1)、いわゆるサプリメント等からの摂取も推奨されています。

葉酸を含む代表的な食材として、ブロッコリーやほうれん草、納豆などが挙げられます。

一方、ビタミンB12は葉酸と協力して造血をサポートし、神経機能の維持に重要です。ビタミンB12が多く含まれる主な食べ物は、レバーや赤身肉、魚介類、卵などがあります。

葉酸とビタミンB12は、いずれも母体と赤ちゃんの健康を支える上で重要な栄養素です。日々の食事やサプリメントから十分な量を取り入れるように心がけましょう。

鉄分・ビタミンC・動物性タンパク質

妊娠中は、鉄分・ビタミンC・動物性タンパク質を意識して摂取することが重要です。これらの栄養素も意識して摂取できる食材を、積極的に食事にも取り入れましょう。

鉄分は胎児の発育と貧血予防に不可欠です。赤ちゃんの脳の発達にも重要な役割を果たしています。

鉄分を豊富に含む食材として、レバーや赤身肉、ほうれん草などの緑黄色野菜が挙げられます。

ビタミンCは鉄分の吸収を促進し、免疫力を高めるため欠かせない栄養素の一つです。ビタミンCを摂取できる食材の例として、柑橘類やイチゴ、ブロッコリーなどがあります。

動物性タンパク質は体をつくる上で重要な栄養素であり、赤ちゃんの成長にも必要不可欠です。妊娠中にも、肉、魚、卵、乳製品などを積極的に摂取しましょう。

これらの栄養素は赤ちゃんの体を作り上げる上でも重要なものです。妊娠中に積極的に十分に摂取できるよう毎日の献立に取り入れるようにしましょう。

カルシウム・ビタミンD

カルシウムとビタミンDは、赤ちゃんの骨格形成や母体の健康維持のために接種する必要があります。

カルシウムは赤ちゃんの骨や歯の発達に不可欠です。不足すると赤ちゃんへの影響だけでなく母体の骨粗鬆症などを引き起こす可能性もあるため、しっかりと意識して摂取することが必要です。

カルシウムを含む食材として乳製品、小魚、緑黄色野菜などがあります。ただし、乳製品の中でもチーズを摂取する際は少し注意が必要です。リステリア菌に感染の恐れがあるナチュラルチーズ(未加熱処理のモッツァレチーズやカマンベールチーズなど)は避け、加熱処理をしてあるプロセスチーズを選ぶようにしましょう。

ビタミンDはカルシウムの吸収を促進して、赤ちゃんの骨量を増やすことに貢献します。カルシウムとセットで摂取することを心がけましょう。

ビタミンDを含む食材は、鮭やさんまなどの魚類、きのこ類が挙げられます。また、ビタミンDは紫外線を皮膚に浴びることでも生成されます。適度に外出し日光浴も取り入れるようにしましょう。

食物繊維・乳酸菌

妊娠中は食物繊維や乳酸菌も意識的に摂取することが重要です。

食物繊維は便秘予防や腸内環境の改善にも影響があり、妊娠中によく見られる便秘の解消に役立ちます。食物繊維が豊富なものとして、ごぼうやレンコン、アスパラガスなどの野菜、さつまいもやこんにゃくなどの芋類、玄米など穀物、わかめやひじきなどの海藻類がおすすめです。

また、乳酸菌は腸内の善玉菌を増やすことで、腸内環境の改善や免疫力の向上にも影響があるとされています。ヨーグルトなどから摂取すると良いでしょう。

妊娠中に意識して摂りたい食べ物の一覧

栄養素特徴食材
葉酸神経管閉鎖障害のリスク低減に重要ほうれん草、ブロッコリー、納豆、鶏卵
ビタミンB12造血サポートや神経機能の維持レバーや赤身肉、魚介類、卵
鉄分貧血予防に重要レバー、赤身肉、ほうれん草
ビタミンC鉄分の吸収を促進柑橘類、イチゴ、キウイ、ブロッコリー
動物性タンパク質胎児の成長に必要肉類、魚介類、卵、乳製品
カルシウム骨や歯の形成に重要小魚、牛乳、ヨーグルト、豆腐、小松菜
ビタミンDカルシウムの吸収を促進サケ、サンマ、シイタケ、卵黄
食物繊維便秘予防に効果的玄米、レンコン、さつまいも、きのこ類、海藻類
乳酸菌腸内環境を整えるヨーグルト、納豆、キムチ、味噌

妊娠中に避けたほうがよいダメな食べ物・飲み物

妊娠中は、アルコール摂取、リステリア感染、トキソプラズマ感染にも注意が必要です。

これらは胎児の発育や健康に深刻な影響を与える可能性があります。リスクのある食品は避け、十分な加熱や衛生管理を心がけなければなりません。

・アルコール
・リステリアが付着している食べ物
・トキソプラズマに感染した食べ物

上記について、それぞれ解説しましょう。

アルコール

アルコールは妊娠中に避けるべき成分の代表例です。胎児の発育に悪影響を及ぼす可能性があるため避けるようにしましょう。

妊婦が飲酒すると、アルコールは胎盤を通過して胎児の血液中に入ります。胎児はアルコールを代謝する能力が未発達なため、母体以上に影響を受けやすい状態です。大量飲酒はもちろん、少量でも胎児に影響を与える可能性があり、安全な飲酒量の基準はありません。そのため、妊娠中は完全に飲酒を避けることが推奨されているのです。

飲酒による胎児への影響は、胎児性アルコール症候群(FAS)やその他の先天性異常など多岐にわたります。低体重、発育遅延、顔面の奇形、中枢神経障害などが生じる可能性があり、 知的障害やADHDなどの精神的問題も後年明らかになることがあります。

妊娠中の飲酒による胎児への悪影響を防ぐには、妊娠判明後はもちろん、妊娠を計画している段階から飲酒を避けることが最善です。妊娠初期に気づかずに飲酒してしまった場合でも、以後は飲酒を控えるよう心がけましょう。

リステリアが付着している食べ物

リステリア菌は妊娠中は特に気をつけたい細菌の一つです。

妊娠中は免疫機能が低下しているため、普段は影響が少ない菌でも重大な影響を及ぼす場合はあります。その代表的な菌の一つがリステリア菌です。

妊婦がリステリアに感染すると、胎盤を通過して赤ちゃんに感染する可能性があり、流産や早産、死産のリスクが高まります。また、新生児が肺炎や敗血症、髄膜炎などの重篤な感染症を発症する危険性もあります。

リステリア菌は冷蔵庫の中でも増殖できる能力があり、特に冷蔵庫などで長期に保存する食品や加熱されてない食品には注意が必要です。

そのほか、避けるべき食品として、加熱殺菌されていないナチュラルチーズ、生ハム、スモークサーモン、肉や魚のパテなどがあります。野菜や果物も注意が必要です。食材をよく洗うことや加熱調理された食品を選ぶことで、リステリア感染のリスクを軽減できます。

その他の食材に関しても、冷蔵庫の保存を過信せず、食べる前に十分加熱することが重要です。

トキソプラズマに感染した食べ物

トキソプラズマ症も妊娠中には注意したい疾患であり、トキソプラズマが寄生している食べ物にも注意が必要です。

妊婦が初めてトキソプラズマに感染すると、胎盤を通して赤ちゃんに感染し、先天性トキソプラズマ症を引き起こす可能性があります。流産、死産、脳や眼の障害など、赤ちゃんの健康に深刻な影響を及ぼすことがあります。

トキソプラズマを避けるためには、加熱不十分の肉類、生ハム、ユッケ、レバ刺しなどを控えることが重要です。

また、トキソプラズマは猫の糞便にも含まれることがあります。猫のトイレ掃除やガーデニングなどの作業は、できるだけ他の人に任せるようにしましょう。

妊娠中に避けたほうがよいダメな食べ物・飲み物の一覧

食べ物・飲み物等特徴
アルコール類(お酒、ビール、酒粕の甘酒など)胎児性アルコール症候群(FAS)や赤ちゃんの成長、発達を妨げる恐れがある
ナチュラルチーズ、生ハム、スモークサーモン、肉や魚のパテなど、コールスローなどのサラダリステリア菌に感染する可能性があり、早産や流産の原因になる場合がある
加熱不十分の肉類、生ハム、ユッケ、レバ刺し、猫の排せつ物トキソプラズマに感染する可能性があり、流産や死産、先天性トキソプラズマ症になる場合がある

妊娠中に摂取量を控えたほうがよい食べ物・飲み物

妊娠中は、摂取量に注意が必要な成分もあります。

これらの成分は摂取を完全に控える必要はないものの、過剰摂取は赤ちゃんの発育に悪影響を及ぼす可能性があります。適切な摂取量を守り、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。

・カフェイン
・塩分
・水銀を含む食べ物
・ヨウ素を含む食べ物
・ビタミンAを含む食べ物

上記についてそれぞれ解説しましょう。

カフェイン

カフェインは妊娠中に摂取する量を控えたほうがよい成分の代表例です。コーヒーや紅茶、緑茶、エナジードリンク、チョコレートなど、日常的に口にする食品に含まれています。

妊娠中の過剰なカフェイン摂取は、赤ちゃんと母体の両方に悪影響を及ぼす可能性があるため、摂取量には注意する必要があります。

赤ちゃんへの影響として、発育不全や低体重のリスクがあります。カフェインは胎盤を通過し、赤ちゃんの体内に蓄積します。赤ちゃんの肝臓は未発達なため、カフェインを分解するのに時間がかかり、高濃度のカフェインに長時間さらされてしまいます。これにより、胎児の発育不全や低体重のリスクが高まると考えられているのです。

カフェインは母体への影響もあり、不眠、イライラ、脱水などの症状が現れる場合があります。カフェインの利尿作用により、体内の水分が失われ、脱水のリスクもあります。妊娠中は体調管理が特に重要なため、これらの症状は避けるようにしましょう。

ただし、カフェインを完全に避ける必要はありません。内閣府食品安全委員会の資料でも具体的な摂取量の上限数値はなく、「カフェイン摂取量をゼロにする必要はありませんが、妊娠中はいつも以上にカフェインの摂り過ぎに注意しましょう。」という注意喚起に留めています2)

カフェインを含まない麦茶やルイボスティーなどもうまく取り入れつつ、カフェインの摂取量を控えめに調節するようにしましょう。

塩分

妊娠中は塩分の摂りすぎにも注意が必要です。

塩分の過剰摂取は体内に水分がたまり、むくみがひどくなるだけでなく、妊娠高血圧症候群のリスクも高まります。重症化すると、子宮や胎盤での血液の流れが悪くなり、赤ちゃんへの栄養や酸素が不足してしまう可能性があります。

妊婦さんの1日の塩分摂取量の目安は、成人女性と同じ「6.5g/日未満)とされています1)

妊娠すると食事量が増えたり、濃いめの味を好むようになることもあるため、普段以上に薄味を心がけ、塩分控えめの食事を心がけることが大切です。例えば、旬の野菜で天然の旨味を活用したり、香辛料や酸味で味付けを工夫したりすると、おいしく減塩できるでしょう。加工食品や外食も控えめにし、自炊で塩分量をコントロールするのがおすすめです。

水銀を含む食べ物

水銀を含む魚介類についても妊娠中は注意が必要です。

水銀は自然界に存在し、食物連鎖で魚に蓄積されます。マグロ、カジキ、サメ、クジラなどの大型魚は水銀濃度が高くなる傾向にあります。

妊婦が水銀を過剰に摂取すると、胎盤を通じて赤ちゃんに水銀が移行し、胎児の中枢神経の発達に影響を与える可能性があります。

一方、妊娠に気づく前に食べた水銀は、胎盤ができる4ヶ月頃までには体外に排出されるため、それほど心配する必要はありません。

妊娠中は、水銀含有量の少ない魚を選んで食生活に取り入れ、赤ちゃんの発育を支えましょう。

厚生労働省の指針では、妊婦はキンメダイ、メカジキ、クロマグロ、メバチマグロなどの水銀濃度が高い魚は「1回約80gとして妊婦は週に1回まで」とされています3)。一方、キハダマグロ、ビンナガマグロ、メジマグロ、ツナ缶などは比較的水銀が少ないため、特別な制限はありません。

魚は良質なタンパク質やDHA、EPAなどの重要な栄養素を含むので、妊娠中も上手に取り入れつつ、バランスの取れた食生活を心がけましょう。

ヨウ素を含む食べ物

ヨウ素も妊娠中は過剰摂取に注意したい成分です。

ヨウ素自体は甲状腺ホルモンの合成に必要であり欠かせない栄養素である反面、摂りすぎると赤ちゃんの甲状腺機能低下や発達へのリスクが懸念されます。

ヨウ素を多く含む食品には、昆布やわかめなどの海藻類、魚介類があります。特に乾燥昆布や昆布だしなどはわずかな量でも推奨量を超えてしまうため、毎日大量に食べるのは避け、バランスの取れた食事を心がけましょう。

なお、昆布だしなら「1日汁椀1杯程度、刻み昆布で1g程度が摂取の目安です。」とされています4)。わかめは乾燥わかめでなく、生わかめであれば茹でこぼしするなど調理を工夫することで、ヨウ素を減らすこともできます。

ビタミンAを含む食べ物

ビタミンAも妊娠中は摂取量に注意が必要です。

ビタミンA自体は目や皮膚・粘膜を健康に保つ上で重要な成分です。一方で妊娠中に過剰摂取すると赤ちゃんの形態異常のリスクが知られています。

ビタミンAを多く含む食べ物には、鶏レバーや豚レバー、うなぎ、あんこうの肝などがあります。摂取量の上限量は「2,700µgRAE/日」とされています1)。例としてうなぎの蒲焼きが100gあたり「1,500µg」とされているので5)、控え目に摂取するなど適量を心がけましょう。

緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンは、体内で必要な分だけビタミンAに変換されるプロビタミンAと言われ、過剰になる心配がありません。ほうれん草やにんじん、かぼちゃなどを積極的に取り入れると良いでしょう。

妊娠中に摂取量を控えたほうがよい食べ物・飲み物の一覧

食べ物・飲み物・成分特徴
コーヒー、紅茶、緑茶カフェインの過剰摂取にならないよう注意
エナジードリンクカフェインを多く含むため控えめにする
塩分の多い食品(漬物、加工食品、外食など)むくみや高血圧のリスクがあるため、摂りすぎに注意する
クロマグロ、キンメダイなどの大型魚メチル水銀を蓄積しやすく、胎児に悪影響を及ぼす可能性がある
昆布、わかめ、ひじきなど海藻類ヨウ素の過剰摂取により、胎児の甲状腺機能低下のリスクがある
レバー(豚レバー、鶏レバー)過剰摂取によりビタミンAの取りすぎとなり、胎児の形成異常のリスクがある
うなぎビタミンAを多く含み、過剰摂取は避けるべき
あんこうの肝ビタミンAを非常に多く含む

妊娠時期別の食べ物の摂り方のポイント

妊娠中は妊娠初期、妊娠中期、妊娠後期によって食事の気をつける点も少しずつ変わります。

厚生労働省から公表されている「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、妊娠前と比べて必要なエネルギー量は、

・妊娠初期(0〜13週)+50kcal/日
・妊娠中期(14〜27週)+250kcal/日
・妊娠後期(28週〜)+450kcal/日

とされています1)

それぞれの期間におけるポイントについて解説しましょう。なお、各栄養素の必要量は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の数値を参考としています。

妊娠初期(0〜13週)

妊娠初期は、つわりの症状が出やすい時期です。症状がひどいときは無理に食べようとせず、食べられるものを少しずつ食べるようにしましょう。

妊娠初期の妊娠前と比べた推定エネルギー必要量は+50kcal/日であり、極端な食事量の変化が必要なわけではありません。しかし、葉酸やB12を含む水溶性ビタミン類、鉄分は、妊娠初期でも摂取量を増やすことが推奨されているため、意識して摂取するようにしましょう。

特に、妊娠初期に意識して摂取したいものとして葉酸があげられます。葉酸は、赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクを下げるのに重要な栄養素であり、ほうれん草、ブロッコリー、納豆などに多く含まれます。妊娠中は食事摂取の必要量として+200μg/日、推奨料が+240μg/日とされています。

葉酸とあわせて意識して摂取したいのが、ビタミンB12です。ビタミンB12は赤身肉、魚介類、卵などに多く含まれており、葉酸と協力して造血をサポートし、神経機能の維持にも重要な役目を果たします。妊娠中は+0.3μg/日が必要量、 +0.4μg/日が推奨量です。

鉄分も妊娠中は妊娠前よりも摂取が必要となります。特に妊娠中は血液量が増えるため、鉄分が多く必要となり、貧血となると赤ちゃんの発育にも影響する可能性があります。妊娠初期では+2.0mg/日が必要量、+2.5mg/日が目標量であり、赤身肉やほうれん草などからの摂取がおすすめです。

妊娠初期は食欲がなくなることもある時期ですが、主食・主菜・副菜のそろったバランスの良い食事を心がけましょう。無理のない範囲で、野菜や果物もプラスし、水分補給も忘れないようにしましょう。つわりが辛くて食事が進まない場合などは、サプリメントの活用もおすすめです。

妊娠中期(14〜27週)

妊娠中期は、胎盤が完成し赤ちゃんの発育が本格化する時期です。この時期の食事は、赤ちゃんの健やかな成長に大きな影響を与えます。

妊娠前と比べた推定エネルギー必要量は+250kcal/日であり、妊娠初期よりも必要なエネルギー量が増えます。

栄養素別では、葉酸などを含む水溶性ビタミン類や鉄分に加え、たんぱく質の摂取量も増やすことが推奨されます。

葉酸を含むビタミンB群やビタミンCの水溶性ビタミンは引き続き摂取しつつ、鉄分は妊娠初期よりもさらに多くの摂取が必要となります。必要量は+8.0mg/日、推奨量+9.5mg/日となるため、より意識して食事を摂るようにしましょう。

たんぱく質は、妊娠中期では目標量と推奨量が共に+5g/日となります。赤ちゃんの体を作る上でもベースとなる重要な栄養素と言えます。肉や魚、卵などから良質なたんぱく質をしっかり摂るようにしましょう。

この時期はつわりも落ち着いている場合が多いため、主食・主菜・副菜を組み合わせ、さまざまな食品から幅広い栄養を摂取するよう努めましょう。一方で食べ過ぎは要注意です。間食は控えめにし、満腹感を得るために食物繊維の多い食材を取り入れるなど、工夫してみましょう。

妊娠後期(28週〜)

妊娠後期は、推定エネルギー必要量も+450kcalとされ、しっかりと食事の量を増やすことも大事になる時期です。お腹も大きくなり胃が圧迫され、一度に食べられる量が減ることもあるため、食事の回数を増やすなどで対処するようにしましょう。

妊娠後期は、妊娠中期と比較するとたんぱく質の目標量と推奨量が増え、それぞれ+20g/日、+25g/日となります。また、ビタミンAは妊娠前より必要となり、必要量が+60μgRAE/日、推奨料が+80μgRAE/日とされています。

ビタミンAは器官の成長などに重要な役割を果たすビタミンですが、脂溶性ビタミンに分類され、過剰摂取にも注意が必要となります。レバーやバター、卵黄などに多く含まれるので、過剰摂取に注意しつつ意識的に摂るようにしましょう。

また、体内に入ってからビタミンAになるβ-カロテンとして、ほうれんそう、小松菜、ブロッコリーを摂取するのもおすすめです。

なお、妊娠後期は、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクも高まる期間であるため、塩分や糖分、脂肪分の極端な量の摂取は控えるようにしましょう。

関連してよくある質問

妊娠中の食事に関して疑問に思うことも多くあるのではないでしょうか。食べ物のバランスやダイエットをして良いのかなど、妊婦さんが疑問に感じやすい以下の内容についてまとめました。

・妊娠中に推奨されている食べ物のバランスやポイントは?
・妊娠中にダイエットをしてもいい?
・妊娠中にお菓子を食べてもいい?
・妊娠中に摂取した食べ物が赤ちゃんに影響するのはいつから?
上記の内容についてそれぞれ確認していきましょう。

妊娠中に推奨されている食べ物のバランスやポイントは?

妊娠中の食事は、さまざまな種類の食べ物を適量摂取することが重要です。制限される食べ物は避けつつ、推奨される食べ物をバランスよく摂るようにしましょう。

ただし、推奨される食べ物の中でも、摂取量に注意が必要な食べ物もあります。

例えば、レバーは鉄分やビタミンB12を豊富に含むため、これらの栄養素を補充する場合には良い食材ですが、一方でビタミンAも多く含みます。ビタミンAは適量必要であるものの、過剰に摂取すると赤ちゃんへの悪影響も懸念されます。内閣府食品安全委員会の資料では妊娠中は「鶏や豚のレバーを食べるのはなるべく控えましょう」としているため2)、積極的に食べるのは避けるのが良いでしょう。

大豆食品も妊娠中は少しバランスを心がけたい食べ物です。例として納豆はたんぱく質や葉酸、鉄分など妊婦にとって、摂取したい栄養素を豊富に含んでいます。ただし、大量に食べると、大豆イソフラボンや納豆の味付けで使うダシやお醤油などに含まれる塩分を過剰に摂取してしまう可能性もあるため、適量を心がけるようにしましょう。

このように推奨されている食べ物でも過剰に摂取するとリスクになるものもあるため、多くの食材の中からバランスよく摂取することが重要と言えます。

妊娠中の食事について不安なことがあったら、受診している産科の医師やスタッフへの相談や、自治体の相談窓口なども利用するようにしましょう。

妊娠中にダイエットをしてもいい?

妊娠中のダイエットは基本的にNGです。妊娠中は、赤ちゃんの成長のために適度な体重増加が必要だからです。

妊娠前のBMIによって、妊娠中の推奨体重増加量は異なります。例えば妊娠前のBMIが「18.5 ≦ ~ <25 」の普通体重の場合、「10〜13kg」の体重増加が目安とされています6)

一方で、妊娠前から肥満気味の妊婦さんは、妊娠糖尿病などのリスクもあるため、医師と相談の上、食事管理と適度な運動で体重コントロールを行うことが大切です。

基本的に妊娠中は栄養バランスの取れた食事を心がけ、体調と相談しながら軽い運動を取り入れるのがおすすめです。

妊娠中にお菓子を食べてもいい?

妊娠中のお菓子は適量なら問題ありませんが、食べ過ぎには注意が必要です。

厚生労働省の資料である「食事バランスガイド」では、菓子・嗜好飲料は「一日あたり200kcalくらいまでを目安」とされています7)。200kcalの目安は、ショートケーキ小1個やシュークリーム小1小、どらやき1個などがあります。

食事でしっかり栄養を取った上で、気分転換のような位置付けでお菓子を食べるのが良いでしょう。

妊娠中に摂取した食べ物が赤ちゃんに影響するのはいつから?

妊娠中に摂取した食べ物が赤ちゃんに影響するのは、妊娠中期以降が目安です。

妊娠初期は、赤ちゃんは卵黄嚢から栄養を得ているため、妊婦の食べ物が直接大きな影響を与えることは少ないと考えられています。

一方、胎盤が完成すると妊婦が食事から摂取した栄養素が、胎盤を通して赤ちゃんに送られるようになります。そのため、妊娠中期以降は食生活により一層気をつける必要があるのです。

おわりに

トーチクリニックでは、将来妊娠を考えている方向けのブライダルチェックなども提供しています。ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。

トーチクリニックは恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週7日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。

医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。

ブライダルチェックにご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ブライダルチェックのご予約はウェブからも受け付けております。

また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考ください。

参考文献

1)「日本人の食事摂取基準」策定検討会. “日本人の食事摂取基準(2020 年版)”. 厚生労働省. 2019. https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf , (参照 2024-09-22)

2)内閣府食品安全委員会. “ お母さんになるあなたと周りの人たちへ”. 内閣府食品安全委員会. 2023. https://www.fsc.go.jp/okaasan.html , (参照 2024-09-22)

3)薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 乳肉水産食品部会. “ 妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項”. 厚生労働省. 2010. https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/index-a.pdf , (参照 2024-09-22)

4)太田百合子 “妊娠中の気がかり(体重・食事・病気・体調など)”. 公益財団法人母子衛生研究会. 2021. https://www.mcfh.or.jp/netsoudan/article.php?id=1690 , (参照 2024-09-22)

5)科学技術・学術政策局政策課資源室. “日本食品標準成分表2020年版(八訂)”. 文部科学省. 2020. https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html , (参照 2024-09-22)

6)公益社団法人日本産科婦人科学会. “妊娠中の体重増加の目安について ”. 公益社団法人日本産科婦人科学会. 2021. https://www.jsog.or.jp/news/pdf/20210616_shuuchi.pdf , (参照 2024-09-22)

7)消費・安全局消費者行政・食育課. “実践食育ナビ フードビジネス現場での活用 料理区分が難しいもの”. 農林水産省. https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/zissen_navi/use/concept.html , (参照 2024-09-22)