双子や三つ子など、一度に2人以上の子供を授かることを多胎妊娠といいます。多胎妊娠がおこる要因は様々ですが、不妊治療によって、多胎妊娠が起こる確率が上昇することがあります。
本記事では不妊治療によって多胎妊娠が増える理由や多胎妊娠だと判明する時期、多胎妊娠のリスクなどを解説します。
不妊治療では双子を授かる確率が上がる
不妊治療を行うと、自然妊娠と比較して、双子を授かる確率が高くなると報告されています。
日本人では自然の双胎(双子)妊娠は150〜160組に1組であり、自然の品胎(三つ子)は2万〜3万組に1組と考えられています。現在は不妊治療の多胎妊娠が増えてきており、2004年の日本の統計では、双胎妊娠は80〜90組に1組、品胎妊娠は3,000組に1組の割合となっています。
排卵誘発法や体外受精によって双子を授かる確率が上がる理由
排卵誘発法をおこなうことで双子を授かる確率が上がる理由
排卵誘発法とは、内服薬や注射薬によって卵巣を刺激して排卵を起こさせる方法です。通常、排卵のない方や 排卵が起こりにくい方に行いますが、人工授精の妊娠率を高めるために、あるいは体外受精などの生殖補助医療の際に使用されます。
排卵誘発法による多胎は、卵胞の成熟・排卵を促すホルモン(ゴナドトロビン等)を投与することによって、多数の卵胞が同時に成熟・排卵し、複数組の精子と卵子が受精することによって生じます。
体外受精・胚移植をおこなうと双子を授かる確率が上がる理由
体外受精による多胎は、妊娠率を高めることを目的として、複数個の受精卵を子宮に移植したときに、それらが複数個着床することによって生じます。
かつては妊娠の確率を上げるために複数の受精卵を移植することが多くありましたが、現在は多胎妊娠のリスクを考慮して、「移植する胚は原則として単一とする」という方針が採用されています。
双子は一卵性と二卵性にわけられる
双子の赤ちゃんでも、受精卵の数により、一卵性か二卵性かに分かれます。もともと一つの受精卵が二つに分かれると一卵性、二つの受精卵があってそれぞれが着床した場合が二卵性となります。
一卵性の特徴
一卵性の双子を授かる仕組みとしては、まず一つの卵子と一匹の精子から受精卵が作られます。この受精卵が細胞分裂を繰り返している最中に二つに分裂してしまったのが、一卵性の双子です。一つの卵子に二匹の精子が受精したわけではありません。
一卵性の双子は元をたどれば一つの受精卵ですから基本的な遺伝情報は同じです。そのため、よく似ています。血液型も同じですし、性別も同じです。それでも、性格までは完全に同じにはなりません。
二卵性の特徴
ふたつの卵子とふたつの精子それぞれが受精し、一緒に子宮の中で大きくなり、生まれてくるのが二卵性の双子です。つまり、遺伝子情報の観点では、一緒にお母さんの子宮の中で仲良く大きくなり同じ日に生まれた兄弟姉妹ということになります。
そのため、よく似ていたり、似ていない場合もあります。また、血液型などが同じなこともありますが異なることもあります。
双子は3つの膜性にわけられる
双胎妊娠では絨毛膜(将来の胎盤)の数、あるいは羊膜(胎児が成長していく部屋)の数が妊娠経過に大きく影響します。多胎妊娠は絨毛膜や羊膜の数によって三つのパターンに分けられます。
その種類によって妊娠のリスクや管理方法が異なるため、通常は膜性診断をおこないます。しかし、妊娠14週を超えて初診された場合で胎児同士の性別が同じ場合は、膜性の診断が困難になることがあるため、妊娠初期(〜10週まで)に行うことが重要です。
二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎)
二絨毛膜二羊膜双胎(絨毛が2つで羊膜も2つ)は約8割が二卵性で、約2割は一卵性です。(一卵性の1/3が二絨毛膜になると報告されています)。それぞれの胎児が個別に占有できる胎盤を持っているため、双胎間輸血症候群(Twin to Twin Transfusion Syndrome; TTTS)は起こりません。
一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎)
一絨毛膜二羊膜双胎(絨毛が1つで羊膜は2つ)は基本的に一卵性でみられます。胎児が成長する部屋である羊膜は二つですが、一つの胎盤を二人で共有しています。これにより双胎間輸血症候群やどちらかの赤ちゃんの発育不全(selective Fetal Growth Restriction; selective FGR)を起こす場合があります。しかし羊膜によって両児の部屋が分かれているので、それぞれの赤ちゃんの臍の緒が絡まる臍帯相互巻絡は起こりません。
一絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)
一絨毛膜一羊膜双胎(絨毛が1つで羊膜も1つ)は双胎の中では最も稀なタイプです。一絨毛膜二羊膜双胎と同様に双胎間輸血症候群やどちらかの赤ちゃんの一児発育不全を起こす可能性があります。また赤ちゃんのいる部屋が羊膜によって分かれていないため、それぞれの赤ちゃんの臍の緒が互いに絡まってしまう、臍帯(さいたい)相互巻絡(そうごけんらく)が起こってしまう可能性があります。
双子の妊娠がわかる時期
妊娠してから、双子を授かったとわかるまでには時間が必要ですが、現在の経腟超音波であれば妊娠5〜6週で分かる場合もあります。詳しい膜性診断までですと妊娠7〜8週頃になります。
二卵性の場合、まず5〜6週で赤ちゃんの袋(羊膜)が2個確認できます。7〜8週でそれぞれの袋内に赤ちゃんを確認できるようになります。一卵性の場合は赤ちゃんの袋自体は一つなので5〜6週ではまだ分かりにくいです。7〜8週になると同じ袋内に二人の赤ちゃんが確認できるようになります。
双子を妊娠した場合に起こりうるリスク
早産
双胎妊娠ではもともと一人用にできている子宮の中にふたりの子どもが一緒に育つため、 早産(未熟児の出産)となるリスクがかなり高くなります。
一般的に正期産といって、赤ちゃんが生まれてくるのに望ましい時期は妊娠37週から41週ですが、37週前後で分娩となることが多く、 予定日(40週)近くで分娩となることは少なくなります。36週以下の早産は45〜50%と報告されています。また、人工呼吸器が必要となる32 週未満の早産も11%前後存在します。
早産で産まれた赤ちゃんは、NICU(新生児の集中治療室)に入院となり、さまざまなサポートを必要とします。そのため、多胎妊娠では流産や早産の対策が重要となります。
妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群は高血圧をはじめ、尿にタンパクがでたり、むくみなどの症状が発生します。双胎での頻度はひとりの赤ちゃんの妊娠と比較して妊娠高血圧症候群になるリスクは3倍程度で、日本産科婦人科学会が集計している周産期登録のデータ(2006〜2016年)によると、双胎妊娠での妊娠高血圧腎症の発症率は3%程度と報告されています。
妊娠高血圧症に類似する妊娠高血腎圧症という病態があり、二つを合わせて妊娠高血圧症候群と呼ばれ、双胎妊娠では約10%弱に発生すると言われています。重症化すると、子癇発作(けいれん)、常位胎盤早期剥離などをおこし、母子ともに危険な状態になることがあるため、状況により分娩を誘発したり、帝王切開分娩を選択することがあります。
双胎間輸血症候群(TTTS)
一絨毛膜双胎(MD)は、胎盤の中でお互いの血管が吻合し、血流が行ったり来たりしています。これが一絨毛膜双胎特有の注意点につながります。二人の血流のバランスが崩れると、ときに注意を要する状態になります。
双胎間輸血症候群(TTTS) は一児は羊水過多(羊水が多い)、もう一児は羊水過少(羊水が少ない)となっている状態によって診断されます。MD 双胎の約 1 割に発症し、 一方の児(供血児)から、もう一方の児(受血児)に、胎盤の吻合血管を通じて血液が流入することが原因です。
供血児は血液が足りないため 循環不全となり、尿を作ることができず羊水過少になります。受血児は全身をめぐる血液が多すぎるため、尿量が過剰になり羊水過多になりま す。
供血児は発育不全、低酸素状態に至り、受血児は心不全や胎児水腫に至り、放置すれば二人とも死亡や後遺症のリスクが高まります。
診断は超音波検査で行い、自覚症状が何もないこともあれば、 “急におなかが大きくなった”や“おなかが張りやすくなった”という症状を認める場合もあります。
Selective FGR
Selective FGR (一児の胎児発育不全)とは、双胎間輸血症候群ではないものの、一方の胎児が標準より小さい状態です。特に、小さい胎児の血流異常や羊水過少がある場合にはリスクが高くなります。
二人の胎盤の占有率が不均等であることが関係していると考えられています。胎児の今後の状態を予測するにあたり、臍帯(へその緒)中の血液の流れ方が重要です。小さい胎児の羊水過少に加え、臍帯の血流に異常がある場合は、胎児鏡下吻合血管レーザー凝固術の適応になる場合があります。
双子の妊娠を希望する方が知っておくべき補助金・支援制度
出産育児一時金
出産育児一時金は、被保険者及びその被扶養者が出産された時に協会けんぽヘ申請されると法定給付額が支給されます。また、多胎児を出産したときは、胎児数分だけ支給されます。
条件は被保険者または家族(被扶養者)が、妊娠4か月(85日)以上で出産をしたことです。
(早産、死産、流産、人工妊娠中絶(経済的理由によるものも含む)も支給対象として含まれます)
出産育児一時金の支給方法について、出産にかかる費用に出産育児一時金を充てることができるよう、協会けんぽから出産育児一時金を医療機関等に直接支払う仕組み(直接支払制度)がありますので、その場合、出産費用としてまとまった額を事前にご用意いただく必要はありません。
また、出産費用に充てるため、出産育児一時金(家族出産育児一時金)の支給までの間、出産育児一時金の8割相当額を限度に資金を無利子で貸し付ける制度があります。
高額医療費制度
高額な医療費を支払ったときは高額療養費制度で払い戻しが受けられます。
高額療養費とは、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻される制度です。
月をまたいだ場合は月ごとにそれぞれ自己負担額を計算します。
例えば、1月10日から2月10日まで診療を受けた場合、1月10日~1月31日と2月1日~2月10日までで自己負担額をそれぞれ分けて、自己負担限度額を超えた分が払い戻しされます。(それぞれの月の分の申請が必要です)
高額医療費貸付制度とは、高額な医療費の支払いに充てるための費用が必要である場合に、高額療養費が支給されるまでの間の無利子の貸付制度です。
高額療養費は同一月に支払った医療費が、一定の自己負担限度額を超えた場合に本人の申請により支給されますが、医療機関等から提出された診療報酬明細書(レセプト)の審査を経て行いますので、決定に約3ヶ月かかります。
そのため当座の医療費の支払いに充てる資金として、高額療養費支給見込額の8割相当額を無利子で貸付を行う制度です。
産前産後休業
産前休業は出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から、請求すれば取得できます。
予定日よりも遅れて出産した場合、予定日から出産当日までの期間は産前休業に含まれます。なお、実際の出産が予定日より遅れて産前休業が延びたとしても、産後8週間は「産後休業」として確保されます。
産後休業として、出産の翌日から8週間は就業することができません。ただし、産後6週間を経過後に本人が請求し、医師が認めた場合は就業することができます。
母性健康管理措置として、産後1年を経過しない女性は、主治医から指示があったときは、健康診査に必要な時間の確保を申し出ることができます。また、指導を受けた場合には、必要な措置を受けることができます。
育児時間として、生後1年に達しない子を育てる女性は、1日2回各々少なくとも30分間の育児時間を請求できます。
産後1年を経過しない女性には、妊娠中と同様に、時間外労働、休日労働、深夜業の制限、変形労働時間の適用制限、危険有害業務の就業制限が適用となります。
産前・産後ヘルパー派遣事業
産前・産後ヘルパー派遣事業は、育児への不安や負担が生じやすい妊娠中及び産後の子育て家庭に対し、ヘルパーを派遣し、家事や育児の負担を軽減したり、産前産後の生活をサポートするサービスです。市から委託を受けた事業所のスタッフが自宅へ訪問し、援助を行います。
自治体からの委託になるため、居住している自治体によって細かい規定が異なります。(下記参照)
おわりに
トーチクリニックでは、医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。
恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週7日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。
不妊治療にご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ご予約はウェブからも受け付けております。
また、すでに不妊治療を受けている方々のお悩みやセカンドオピニオンにも対応しております。セカンドオピニオンを含めたクリニックへのよくあるご質問はこちらをご参考ください。