双子(双胎)や三つ子(品胎)など、一度に2人以上の子供を授かることを多胎妊娠といいます。多胎妊娠がおこる要因は様々ですが、不妊治療によって、多胎妊娠が起こる確率が上昇することがあります。
本記事では不妊治療によって多胎妊娠が増える理由や多胎妊娠だと判明する時期、多胎妊娠のリスクなどを解説します。
不妊治療では双子を授かる確率が上がる
国内における多胎児の分娩件数は、近年横ばい〜微減傾向にあります。分娩件数に対して多胎児が占める割合は、2005年の1.18%をピークとして2011年には0.96%にまで下がりました1)。その後は再び微増に転じ、2022年には約1.12%2)となっています。
排卵誘発剤として使用されるクロミフェンにより75%の女性が排卵し、35%に妊娠が成立、そのうち8〜10%が多胎妊娠となる3)と言われています。また、日本産婦人科学会によるARTデータブックでは、2022年のART(生殖補助医療)による妊娠の多胎率が平均3.09%4)となっていますので、不妊治療における多胎妊娠率は概ね高いことがわかります。
排卵誘発法や体外受精によって双子を授かる確率が上がる理由
排卵誘発法をおこなうことで双子を授かる確率が上がる理由
排卵誘発法とは、内服薬や注射薬によって卵巣を刺激して排卵を起こさせる方法です。通常、排卵のない方や排卵が起こりにくい方に行いますが、人工授精での妊娠率を高めるために、あるいは体外受精などの生殖補助医療の際に使用されます。
排卵誘発法による多胎は、卵胞の成熟・排卵を促すホルモン(ゴナドトロビン等)を投与することによって、多数の卵胞が同時に成熟・排卵し、複数組の精子と卵子が受精することによって生じます。
体外受精・胚移植をおこなうと双子を授かる確率が上がる理由
体外受精による多胎は、妊娠率を高めることを目的として、複数個の受精卵を子宮に移植したときに、それらが複数個着床することによって生じます。
かつては妊娠の確率を上げるために複数の受精卵を移植することが多くありましたが、現在は多胎妊娠のリスクを考慮して、「移植する胚は原則として単一とする」という方針が推奨されています。
双子は一卵性と二卵性にわけられる
双子の赤ちゃんでも、受精卵の数により、一卵性か二卵性かに分かれます。もともと1つの受精卵が2つに分かれると一卵性、2つの受精卵があってそれぞれが着床した場合は二卵性となります。
一卵性の特徴
1つの卵子に1つの精子が受精したあと、その受精卵が細胞分裂の過程で2つに分かれ、各々が胎児として成長し生まれたものが一卵性です。産まれてくる双子の赤ちゃんは基本的には同じ遺伝子情報を持っており、性別・血液型ともに同じになります。
二卵性の特徴
通常の妊娠の場合、1つの卵子に1つの精子が受精し細胞分裂を繰り返しながら成長していきます。この受精が2つ同時に起こり、一緒に成長し生まれてくるのが二卵性の双胎です。同じ日に生まれてくるものの、元の受精卵は別であり、遺伝学的には通常の兄弟姉妹と同じで約50%同じ遺伝子を持っています。そのため、性別や血液型は、同じ場合も異なる場合もあります。
双子は3つの膜性にわけられる
双胎妊娠では絨毛膜(将来の胎盤)の数、あるいは羊膜(胎児が成長していく部屋)の数が妊娠経過に大きく影響します。多胎妊娠は絨毛膜や羊膜の数によって3つのパターンに分けられます。
その種類によって妊娠のリスクや管理方法が異なるため、通常は膜性診断をおこないます。しかし、妊娠14週を超えて初診された場合で胎児同士の性別が同じ場合は、膜性の診断が困難になることがあるため、妊娠初期(〜10週まで)に行うことが重要です。
二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎)
胎児はそれぞれに胎盤をもち、絨毛膜、羊膜という2層の膜に包まれています。お互いの血流が影響しあうことはないため、双胎間輸血症候群(TTTS)は起こりません。二卵性の場合は必ずDD双胎となります。一卵性の3分の1程度がDD双胎になると報告されています5)。
一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎)
胎児は1つの胎盤を共有し、胎児同士の間は羊膜で仕切られています。一絨毛膜双胎では、双胎間輸血症候群(TTTS)、一児発育不全(selective FGR)などの特徴的な疾患があります。
一絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)
胎児はMD双胎と同じように1つの胎盤を共有していますが、その間を隔てる羊膜での仕切りがなく同じ部屋にいる状態です。MM双胎では、胎児死亡のリスクが高いとされ、妊娠24週以降では約 6%6)であると報告されています。そのため、妊娠中期以降は管理入院が考慮され、妊娠32〜34週頃の帝王切開が推奨されています6)。
双子の妊娠がわかる時期
妊娠してから、双子を授かったとわかるまでには時間が必要ですが、現在の経腟超音波であれば妊娠5〜6週で分かる場合もあります。詳しい膜性診断までですと妊娠7〜8週頃になります。
双子を妊娠した場合に起こりうるリスク
早産
双胎妊娠では、単胎妊娠に比べて産科合併症の発生率が高く、早産のリスクも高くなります。日本産科婦人科学会が集計している周産期登録のデータ(2006~2016年)によると、双胎妊娠での妊娠37週未満の早産は約50%、妊娠32週未満の早産は約6%、妊娠28週未満の早産は約2%5)と報告されています。
妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群は高血圧をはじめ、尿にタンパクがでたり、むくみなどの症状が発生します。日本産科婦人科学会が集計している周産期登録のデータ(2006〜2016年)によると、双胎妊娠での妊娠高血圧症候群の発生率は約10%弱、その中でも妊娠高血圧腎症の発症率は約3%と報告されています5)。
重症化すると、子癇発作(けいれん)、常位胎盤早期剥離などをおこし、母子ともに危険な状態になることがあるため、状況により分娩を誘発したり、帝王切開分娩を選択することがあります。
双胎間輸血症候群(TTTS)
双胎間輸血症候群(TTTS)とは、一絨毛膜双胎の特徴的な疾患です。一絨毛膜二羊膜 (MD双胎)において、約9%起こる6)と言われています。診断は超音波検査で行い、一絨毛膜二羊膜双胎で羊水過多と羊水過少を同時に満たすことで診断されます7)。
一絨毛膜双胎では、胎児同士で1つの胎盤を共有しており、それぞれの胎児の血管が胎盤の中でつながっています(吻合血管)。その血管を通じて、お互いの血液が行き来して流れており、通常はバランスがとれているため問題がありませんが、このバランスが崩れ、血液の流れが一方向に偏ったときにTTTSを発症します。
TTTSを発症すると、血液を受けとる方の胎児(受血児)は全身がむくみ、心不全、胎児水腫という状態になります。一方、血液を送り出している胎児(供血児)は、発育不全で小さくなり、尿量が少なくなるため腎不全や羊水過少となります7)。
母体の自覚症状としては、腹囲や子宮底の急激な増大や、それに伴う上腹部の圧迫感、子宮収縮、急激な体重増加などが見られることがあります。
TTTSは妊娠16週以降によく発症しますが、早期の介入(胎児治療)を行うことで 予後の改善が見込まれます6)。妊娠26週未満のTTTSでは胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(fetoscopic laser photocoagulation of communicating vessels:FLP)が児の予後を改善する有効な治療法であると言われており、FLP が実施困難な場合や要約を満たさない場合には、経過観察や羊水除去が選択されることがあります6)。
Selective FGR(Selective Fetal Growth Restriction)
Selective FGRとは、一絨毛膜二羊膜双胎において、羊水量の差はあるがTTTSの診断基準を満たさず、一児の発育不全のみを認める状態であり、一絨毛膜双胎の約15%に起こる6)と言われています。
なお、診断基準は国際的に統一されていません。日本国内では、一児の推定体重が <-1.5SD、または推定体重差>25%という基準が広く用いられており6)、超音波検査での臍帯動脈血流波形と羊水量を参考にします。妊娠26週未満で、発育不全児において臍帯動脈血流異常(拡張期途絶・ 逆流)と羊水過少を両方呈する場合は、FLPの適応となります6)。
双子を出産する方が知っておくべき補助金・支援制度
出産育児一時金
出産育児一時金とは、健康保険や国民健康保険などの被保険者またはその被扶養者が出産したとき、一定の金額が支給される制度です。原則50万円(産科医療補償制度の対象出産ではない場合は48万8000円)が支給されます。
出産数に応じて支給されますので、双胎を出産した場合は、100万円支給されます。妊娠満12週(85日)以降の死産、流産及び人工妊娠中絶の場合でも支給の対象となります。
出産育児一時金の受取方法として、直接支払制度があります。これは、出産予定の医療機関で事前に契約を行うことで利用できます。出産育児一時金が医療機関へ直接支給されるため、退院時の支払いは出産費用と出産育児一時金との差額のみとなり、出産時に用意する費用の負担が軽減される制度です。
出産育児一時金の支給前に一時的な費用が必要な場合には、出産費貸付制度を利用することができます。これは、出産後に支給される出産育児一時金の一部を、出産前に貸し付けるものです。貸付金額は、加入している保険により異なります。
高額医療費制度
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です8)。妊娠・出産でかかった医療費には健康保険が使えませんが、切迫流産や切迫早産の治療や帝王切開など、保険適用になった場合は適用される場合があります。
注 1つの医療機関等での自己負担(院外処方代を含みます)では上限額を超えないときでも、同じ月の別の医療機関等での自己負担(69歳以下の場合は2万1千円以上であることが必要です)を合算することができます。この合算額が上限額を超えれば、高額療養費の支給対象となります。
出典:厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへ https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf を参考に作成
高額療養費を申請後、支給までに少なくとも3か月程度かかるため、その間の経済的負担を軽減する制度として高額医療費貸付制度が設けられています。貸付金額は加入している保険により異なります。
また、切迫早産などで入院期間が長期化する場合には、「限度額適用認定証」または「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受け、医療機関で提示すると自己負担限度額以上の支払いは不要です。
産前産後休業
産前産後休業は、労働基準法によって定められています。
産前休業は、出産予定日の6週間前(双子以上の場合は 14週間前)から、請求することで取得できます。出産当日は産前休業に含まれます。出産日の翌日から8週間と定められており、この期間は就業することができません。
ただし、産後6週間を経過後に、本人が請求し、医師が支障がないと認めた業務には就業できます。
また、流産・死産( 人工妊娠中絶を含む)した場合でも、妊娠4か月以上での流産・死産については産後休業の対象となります。
産後休業後に復職するときに適用される制度には以下のようなものがあります。
出典:厚生労働省:働きながらお母さんになるあなたへ(パンフレット)(令和6年11月)https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001343776.pdf を参考に作成
産前・産後ヘルパー派遣事業
産前・産後ヘルパー派遣事業は、育児への不安や負担が生じやすい妊娠中及び産後の子育て家庭に対し、ヘルパーを派遣し、家事や育児の負担を軽減したり、産前産後の生活をサポートするサービスです。市から委託を受けた事業所のスタッフが自宅へ訪問し、援助を行います。
自治体からの委託になるため、居住している自治体によって細かい規定が異なります。お住まいの自治体の公式ホームページなどで確認してみてください。

出典:下記を参考に作成
横浜市:産前産後ヘルパー派遣事業
https://www.city.yokohama.lg.jp/kosodate-kyoiku/oyakokenko/ninshin/sanzensango.html
福岡市:福岡市産前・産後ヘルパー派遣事業のご案内
https://www.city.fukuoka.lg.jp/kodomo-mirai/k-sukoyaka/child/sangohelper.html
春日井市:産前・産後ヘルパー派遣事業
https://www.city.kasugai.lg.jp/kenko/iryo/bosihoken/1031420.html
おわりに
トーチクリニックでは、医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。
恵比寿駅・上野駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、土曜日も開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。
不妊治療にご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ご予約はウェブからも受け付けております。
また、すでに不妊治療を受けている方々のお悩みやセカンドオピニオンにも対応しております。セカンドオピニオンを含めたクリニックへのよくあるご質問はこちらをご参考ください。
参考文献
1))みずほ情報総研株式会社 小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査 研究会:多胎児支援のポイントふたご・みつご等の赤ちゃんの地域支援. 2019.
Accessed Dec.,2024.https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000592915.pdf
2)政府統計の総合窓口(e-Stat):人口動態調査 人口動態統計 確定数 出生,単産-複産(複産の種類)別にみた都道府県別分娩件数
Accessed Dec.,2024 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411625
3)日本産婦人科学会,日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編 2023.
Accessed Dec.,2024.https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2023.pdf
4)日本産科婦人科学会:ARTデータブック,2022PDF版
Accessed Dec.,2024.https://www.jsog.or.jp/activity/art/2022_JSOG-ART.pdf
5)国立成育医療研究センター:多胎妊娠外来
Accessed Dec.,2024.https://www.ncchd.go.jp/hospital/pregnancy/senmon/tatai.html
6)日本産婦人科学会,日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドラインー産科編 2023.
Accessed Dec.,2024.https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2023.pdf
7)日本胎児治療学会:胎児治療可能な疾患と治療法 双胎間輸血症候群TTTS.
Accessed Dec.,2024.https://jsft.org/general/method/disease-1/
8)厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへ
Accessed Dec.,2024.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html