人工授精で妊娠しない原因は?

最終更新日時:
2024-04-06
市山 卓彦
市山 卓彦 医師
院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

人工授精(AIH)とは

人工授精は受精の場である卵管膨大部に受精に必要十分な精子を届けるため子宮腔内に精子を注入する治療法です。

精液を直接注入すると感染症を引き起こしたり、精液中に含まれるプロスタグランディンという物質により子宮が収縮して痛みを伴うこともあるため、普通は精液を洗浄してプロスタグランディンなどを除去し、運動性の良い精子を選んで0.2-0.5ml程度を子宮に注入します。
乏精子症(精子濃度1,500万/ml以下)、精子無力症(運動率40%以下)、性交障害、精子頸管粘液不適合(フーナーテスト不良)、抗精子抗体保有症例、原因不明不妊症例が適応となります。

しかし、調整後の総運動精子数が100万から500万が人工授精の限界とされており、それに満たない場合は体外受精がすすめられます。
人工授精では授精のタイミングが排卵日と一緒になることが重要で、基礎体温、頸管粘液、超音波により卵胞の大きさを測ったり、尿や血液のホルモンの値を参考にして排卵日を見つけて行います。実際には尿中のホルモンが測定できた日の翌日、hCGを投与する場合は投与後36時間頃までに行います。
排卵誘発剤などを使わないで行う場合のほか、クロミフェンやゴナドトロピンによる排卵誘発と併用する場合があります。原因不明不妊の妊娠率は人工授精のみに比べ排卵誘発を併用した人工授精の方が高く、クロミフェンやレトロゾールを使うことがすすめられていますが、ゴナドトロピンを併用する場合は複数個の卵胞が発育することによって、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群に対する注意が必要です。
人工授精での妊娠率は3~6回程度で頭打ちとなりますので、それまでに妊娠に至らない場合は体外受精を考えた方が良いと思います。人工授精の副作用として出血や腹痛、熱が出たりすることがあり、2-3日間抗菌剤を投与することもあります。

人工授精が向いているケース・向いていないケース

人工授精の適応について

<向いているケース>

・精子減少症や精子無力症で、精子にやや問題がある場合

・勃起ができず挿入できない勃起障害(ED)があるの場合

・勃起はするが射精がうまくいかない射精障害がある場合

・精子が膣から子宮に入ることができない進入障害がある場合

・原因不明(精子に問題はないがタイミング療法を6周期以上行っても妊娠が成立しない等)

人工授精での妊娠率

人工授精は配偶者から採取した精子を調整し子宮内に注入する方法であるため、自然に近い不妊治療法です。しかし、1周期あたりの妊娠率は5〜10%となっており、決して高くはありません。

ただし、先にも書いたとおり性交障害や頸管粘液不適合症、排卵障害などの人工授精が適応となる不妊原因がある場合は治療効果が期待できます。

不妊患者に人工授精を4周期以上行った累積妊娠率は、40歳未満で約20%、40歳以上で10〜15%です。つまり、80%以上の不妊患者が人工授精では妊娠が困難です。また人工授精によって妊娠した人の88.0%が4周期以内に妊娠しています。人工授精を4周期実施しても妊娠しないケースでは、5周期以上続けた場合、若年女性であってもわずか3〜5%しか妊娠を期待できないのが現状です。そのため3〜4周期人工授精を行っても妊娠しない場合は体外受精を検討する必要があります。

なお、原因不明不妊症と考えられている受精障害や卵子のピックアップ障害などの不妊原因には人工授精は効果がありません。そのため、ある一定の治療回数を行って妊娠しない場合には、体外受精などの積極的な不妊治療へ進んだ方が良いでしょう。

人工授精で妊娠しない原因

卵管のピックアップ障害

ピックアップ障害とは、なんらかの原因で排卵された卵子が卵管采に吸い上げられない状態のことです。

本来、排卵された卵子は卵管の先にある卵管采という器官に吸い上げられ卵管内で精子と受精しますが、この機能がうまく機能していないと卵子は精子と出会うことができず、妊娠に至らないことがあります。ピックアップ障害の原因は、明確には分かっていませんが、クラミジアなどの性感染症の既往や、子宮内膜症、卵管采の機能低下などが原因として考えられています。

ピックアップ障害は、卵巣の機能や子宮などの検査をしても異常が見つからない場合に疑われますが、原因がはっきりしないピックアップ障害は病院で検査する方法がなく、治療法も存在しないため、体外受精が適応となります。

卵子の質の低下

不妊と年齢の関係性を表すとき「卵子の質」という言葉をよく聞くと思います。、女性の卵子は、細胞の性質上増えることはなく、年齢とともに質が低下していきます。そのため、年齢が高い方の場合は人工授精を行っても、妊娠に至らないことがあります。

精子の受精障害

精子が原因となる受精障害については以下の原因が考えられます。

①数、運動率が低い

精子は膣内で射精された後、子宮頚管粘液を通過し、子宮、卵管を通ってその先の卵管膨大部で排卵した卵子と受精します。しかし、そもそもの数や運動率が低いと卵子までたどり着くことができず、受精する確率は大幅に下がります。

②抗精子抗体がある

男性側に自分の精子に対する抗体ができることで、精子の運動性が低下して子宮頚管粘液を通過できない、卵管内に進むことができない、などがあります。また、卵子の透明帯を通過できない原因となることがあります。

③精子が卵子活性化を起こせない

通常、精子が透明帯を通過後すると、精子が卵子を活性化する因子を放出することで受精が起こります。その因子がうまく放出できなかったり、そもそもその因子がない等で卵を活性化できず受精が起こらないことがあります。

人工授精で妊娠できない場合

人工授精で妊娠ができなかった場合、体外受精へのステップアップも考慮されます。。体外受精とは、採卵手術により排卵直前に体内から取り出した卵子を体外で精子と受精させる治療です。受精が正常に起こり細胞分裂を順調に繰り返して発育した良好胚を体内に移植すると妊娠率がより高くなることから、一般的には2-5日間の体外培養後胚を選んで腟から子宮内に胚移植します。

「体外受精は最後の手段」と言われていたのは20年くらい前の話です。現在17人に1人は体外受精で生まれてきた子供です。現代では、体外受精は一般的な治療であるといえます。

よくある質問

人工授精による治療回数は何回ですか?

人工授精の1回あたりの妊娠率は通常5~10%で、人工授精を4周期以上行った累積妊娠率は、40歳未満で約20%、40歳以上で10〜15%です。つまり、80%以上の不妊患者が人工授精では妊娠が困難となっています。

また、人工授精によって妊娠した人の妊娠例については、88.0%が4周期以内に妊娠しています。

そのため3〜4周期人工授精を行っても妊娠しない場合は体外受精を検討することをおすすめしています。

人工授精を受ける回数の上限は決まっていませんが、その効果を考慮すると、最大でも6-7回程度と一般的には考えられています。

人工授精の成功はいつわかりますか?

人工授精からおよそ2週間後、尿検査による妊娠判定を行い、陽性であれば妊娠したと考えられますので、クリニックへの受診を相談してください。