エストラーナテープは、皮膚からエストロゲン(エストラジオール)を補充する貼り薬です。不妊治療では、主に胚移植時に子宮内膜を厚くして着床を助ける目的で使用されます。この記事では、エストラーナテープの正しい使い方や効果、副作用について解説します。
不妊治療で使うエストラーナテープの効果とは?
エストラーナテープはエストロゲン製剤のひとつであり、女性ホルモンのエストラジオールを補う効果がある貼り薬です。
不妊治療でエストラーナテープを使用する場合、主に赤ちゃんを迎える準備として子宮内膜を厚く整える(凍結融解胚移植におけるホルモン補充周期)効果を期待して使われます。その他、ホルモンバランスを調整し、卵子を取り出す治療の開始日を調節する(生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整)効果もありますが、現在はこの目的で使われることは多くありません。
ホルモン補充周期の効果について以下で詳しく解説します。
子宮内膜を厚く整える(ホルモン補充周期)
エストラーナテープは、子宮内膜を厚くする効果がある薬です。不妊治療で凍結融解胚移植(凍結した受精卵を子宮内に戻す治療)を行う際には、自然な周期に合わせて移植する方法と、ホルモンを補充して着床しやすい状態を人工的に整える「ホルモン補充周期」の方法があります。
ホルモン補充周期では、エストロゲン製剤によって子宮内膜の増殖を促しますが、その際によく使用される薬のひとつがエストラーナテープです。受精卵が着床しやすい環境を整えるためには、子宮内膜を十分に厚くする必要があり、そのためには体内でエストロゲン(特にエストラジオール)が十分に分泌されていることが重要なのです。
エストラーナテープは貼り薬ですが、エストロゲン製剤にはゲル状の塗り薬や飲み薬もあり、体の状態や先生の方針によりどの薬が使われるかが決められます。
エストラーナテープの効果が出るまでの時間は?
エストラジオールを含む貼り薬を不妊治療ではなく更年期障害の症状に対して使った調査では、効果が出るまでの期間は1~2週間以内としています1)。
一方で、不妊治療でエストラーナテープを使用する場合の使い方は、ホルモン補充周期では妊娠8週まで継続するとされています。
いずれの目的でも即効性を期待するような使い方でなく、正しく継続することで効果があるため、決められた期間をしっかり使うようにしましょう。
エストラーナテープの使用のタイミングと貼り方
エストラーナテープは、不妊治療のさまざまなタイミングで使用されます。主な目的は、子宮内膜を整え、ホルモンバランスをサポートすることです。エストラーナテープを正しいタイミングで適切な場所に貼ると、効果を最大限に発揮できるでしょう。ここでは、エストラーナテープを使うタイミングと基本的な貼り方について解説します。
使用のタイミング
エストラーナテープを不妊治療で使用する場合は、主に移植周期で受精卵が着床しやすいように子宮内膜を整えたりする目的で使用されます。
この目的で使用する場合は、胚移植を予定する周期の開始時(生理開始後)から使用を開始します。エストロゲン製剤によって子宮内膜の厚みを十分に整えた後、黄体ホルモン製剤(プロゲステロン)を追加し、胚の移植日が決定されます。
ホルモン補充には、エストラーナテープ単独で行う方法のほか、経口のエストロゲン製剤との併用、または経口薬のみを用いる方法もあります。いずれの方法でも、子宮内膜の適切な状態を作ることが目的です。
これまでの研究では、ホルモン補充周期での胚移植は、自然周期での移植と比較して妊娠率・出生率に差は認められなかったという報告もあり2)、スケジューリングの柔軟性もあるホルモン補充周期を選択する施設が増えています。
2日に1回貼り替えて、お尻や下腹部に貼る
エストラーナテープは、通常2日に1回、下腹部やお尻に貼りましょう。シワがあると剥がれてしまう原因となるため、しっかりと押さえてください。また、エストラーナテープを貼る際に手に薬剤がつく可能性があるため、貼り終わった後は流水で手をよく洗いましょう。
エストラーナテープを同じ場所に貼り続けると、皮膚トラブルの原因になります。2日ごとに貼り替えるときは、貼る位置をずらしてください。
貼り忘れた・剥がれた場合の対処法
エストラーナテープが剥がれた場合、すぐに新しいテープに貼り直してください。シワがよると剥がれやすくなるため、シワがないように貼りましょう。また、貼り忘れた場合は気が付いたときに新しいエストラーナテープを貼ってください。もし、どのように対処すべきか迷う場合は、自己判断せず主治医や看護師に相談しましょう。
一度に貼る枚数は個々で異なる
エストラーナテープを一度に何枚貼るかは、患者さんのホルモン値や子宮内膜の状態、治療計画によって一人ひとり異なります。ホルモン補充周期の目的で使う場合は、1回あたり0.72~5.76mgとされており、0.72mgのテープを使う場合は1〜8枚貼ることになります。医師が最適な効果が得られるよう考慮しているため、効果を高めたいからといって自己判断で貼る枚数を増やしたり、逆に減らしたりすることは避けましょう。
日常生活の過ごし方
エストラーナテープを貼っている間も、基本的には普段通りの生活を送れますが、いくつか注意点があります。特に入浴時や運動で汗をかいた際は、テープが剥がれやすくなります。剥がれてしまわないよう、優しく洗い、タオルで押さえるように拭きましょう。
また、皮膚が乾燥していると、かぶれや赤みなど皮膚トラブルの原因になります。入浴後や乾燥が気になったときは、保湿をこまめに行い、皮膚トラブルを防ぎましょう。
使い方について
1.エストラーナテープを手で剥がします。
2.清潔で乾燥した皮膚に貼り付けます。
貼る場所は一般的に下腹部を選択します。貼り付ける前に使用する部位をよく清潔にして、皮膚が完全に乾いていることを確認してください。また、貼り付ける部位を定期的に変えることで、皮膚への刺激を軽減することができます。
3.テープを貼り付けた後、手でしっかりと押さえ、はがれないように確認してください。
※皮膚に異常が現れた場合、または他の医薬品と併用する場合は、医師に相談してください。
不妊治療においてエストラーナテープを使用する場合、月経中に貼り始めて2日毎に張り替えて使用することが多いですが、患者さんの経腟エコーの所見やホルモン値、不妊症の原因によって変わることがあるため、医師の指示に従って行ってください。
エストラーナテープの副作用
エストラーナテープは、ホルモン製剤であるため、副作用が生じる場合があります。ここでは、エストラーナテープの使用中に起こる可能性がある一般的な副作用と注意が必要な重大な副作用について解説します。
一般的な副作用
- 貼った場所が赤くなる・かゆくなる(かぶれなども含む)
- 腟からの出血
- 胸の張りや痛み
- 外陰部のかゆみ・おりもの(おりものの量が増えるなども含む)
- 下腹部の痛み
などが挙げられます。
上記のうち、貼った場所が赤くなる・かゆくなる、腟からの出血、胸の張りや痛みに関しては5%以上の頻度が報告されており、比較的よくみられる副作用と言えます3)。その他の副作用も報告されているため、気になる症状が出た場合は、医師に相談しましょう。
重大な副作用
- アナフィラキシー
- 静脈血栓塞栓症
- 血栓性静脈炎
それぞれ以下のような自覚症状があるため、いくつかの症状が同時に現れた場合はすぐに医師に相談しましょう4)。
いずれも頻度は不明とされており、頻繁に起こるような副作用ではありませんが、もし起きてしまった場合は重い症状がでる可能性があるため注意が必要です。副作用を防ぐには正しい使い方をすることが重要であり、しっかりと用法用量を守って使うようにしましょう。
エストラーナテープの使用期間
エストラーナテープをいつまで貼るかは、使用する目的によって異なりますが、ホルモン補充周期で使用する場合は、原則として妊娠8週頃まで継続します。これは、胚移植後も子宮内膜を良好な状態に保つために必要な処置であり、エストロゲン補充を継続することで着床環境を維持する目的があります。
厳密にいつまで使用するかは個人の状態によって異なる場合もあるため、医師の指示に従って正しく使用することが重要です。なお、1枚あたりの使用期間はいずれの場合も2日間となります。2日経ったら忘れずに張り替える点、間違って1日で張り替えないようにする点を注意するようにしましょう。
おわりに
参考文献
1)Gordon SF. Clinical experience with a seven-day estradiol transdermal system for estrogen replacement therapy. Am J Obstet Gynecol. 1995;173(3 Pt 2):998–1004.
https://www.ajog.org/article/0002-9378(95)90250-3/abstract
2)Kalem Z, Kalem MN, Bakirarar B, Kent E, Gurgan T. Natural cycle versus hormone replacement therapy cycle in frozen-thawed embryo transfer. Saudi Med J. 2018;39(11):1102–1108.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6274666/
3)久光製薬株式会社. エストラーナテープ添付文書. 医薬品医療機器総合機構ウェブサイト
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2473700S2076_1_22/
4)久光製薬株式会社. エストラーナテープ患者向医薬品ガイド. 医薬品医療機器総合機構ウェブサイト
https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/guide/ph/650034_2473700S2076_1_00G.pdf