卵子凍結(未受精卵子凍結)
日本の婚姻件数は1972年をピークに減少傾向にあり、2020年の人口動態統計月報年計によると、平均初婚年齢は男性31.0歳、女性29.4歳と晩婚化が顕著に進んできております。
加齢に伴い、卵子は数も質も低下していき、妊孕性(妊娠する能力)は低下していきます。卵子の数は、お母さんのお腹の中にいる時(胎生期)に最多になり、その数は約700万個とされています。胎生期が終わり、出生時には100~200万個の卵子を持って生まれてきますが、毎月1回おこる排卵の際には約1000個が消費されています。その後も卵子は減少は進み、月経が始まる思春期頃には、20〜30万個まで減少します。
一生で排卵する卵子の数(妊娠のチャンス)は400個~500個と推定され、20代では10万個、30代で2~3万個と減少していきます。
卵子凍結(未受精卵子凍結)とは
「将来の妊娠に備え、あらかじめ良質な卵子を凍結保存しておくこと」を言います。凍結した卵子は半永久的に保存可能です。
卵子凍結は、もともと抗がん剤や放射線の治療によって妊孕性が低下する前に、卵子を凍結保存する目的で行われてきました(医学的適応の卵子凍結)。近年、健康な女性が将来の妊娠・出産の可能性を保ちながら、キャリアアップなどのライフプランを実現するために卵子を凍結保存する需要が高まってきています(社会的適応の卵子凍結)。
当院では日本生殖医学会の「未受精卵子 あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン」に基づき、原則として40歳未満の女性を対象とし社会的適応の未受精卵子凍結を実施しております。40歳以上で卵子凍結を希望される場合、超高齢出産のリスクを考慮しお受けできるかを慎重に検討させていただきます。凍結卵子の使用は生殖医学会ガイドラインに則り、生殖可能年齢(46歳未満)までとさせていただいております。
学会のガイドライン
日本生殖医学会のガイドラインでは未受精卵子凍結と年齢に関して以下の内容が記載されています
未受精卵子等の採取は40歳まで
未受精卵子等の使用は45歳まで
社会的適応の卵子凍結をおこなう目的
- 加齢に伴う妊孕性の低下を回避するため
- 加齢に伴う胚の染色体異常の発生率を低下させるため
- 子宮内膜症など、女性特有の疾患に伴う妊孕性の低下を回避するため
卵子凍結を選択される際はそのメリットとデメリットを知り、自身の妊孕性とライフプランを照らし合わせ、本当に必要な治療なのか十分検討しましょう。
卵子凍結のメリット
- 将来の妊娠、出産の可能性を保ちながらライフプランを練ることが可能
- パートナー不在で凍結が可能
- 自身の凍結物であるため、受精卵(胚)と異なりパートナーが変わっても柔軟に使用可能
卵子凍結のデメリット
- 妊娠・出産が確約されるものではない
- 受精卵(胚)凍結に比べて保存の安全性が未解明
- 自由診療であるため保険が適用されず、凍結した卵子を使用した不妊治療時も保険が適用されない
- 体外受精同様、健康な女性への薬剤の使用、採卵術を行うため合併症のリスクがある
当院の卵子凍結の特徴
- 複数個の卵胞発育を目指す高刺激による卵巣刺激法が選択可能
- 静脈麻酔による鎮静下での採卵術が選択可能
- 採卵の前周期から採卵周期の月経調整が可能
月経調整を行うことにより、採卵術の日程を予め計画することが可能です。
※経過によって変動する可能性があるため日程を確約するものではありません。 - 休診日がなく土日祝日も対応可能
- 院内処方と後日のアプリ決済によって診察後すぐ帰宅可能
- 専門のカウンセラーが在籍
※ご希望の方はカウンセラーによるカウンセリングをご案内致します。
卵子凍結のスケジュール
卵子凍結を行う際は、良好な卵子を複数個獲得するための厳密な調整が必要となります。1ヶ月のうちに4-5回程度の受診が必要となります。
卵子凍結をする場合、凍結保存は通常の体外受精と同じ方法で行われますが、受精前の未受精卵子を凍結する点が大きな違いとなります。卵子凍結の流れは以下の通りです。
月経期の診察から採卵まで
① 卵巣刺激
未受精卵子凍結を目指す際は、複数個の卵子を獲得するために、体外受精と同様に排卵誘発剤を用いて多数の卵胞を発育させます。
診察①
月経1-3日目に来院していただきます。
- 血液検査でE2、LH、FSH(ホルモンの基礎値)を確認
- 血液検査でAMH(採卵数と相関)を確認
- 超音波検査で卵胞数(卵子の入っている袋の数)の確認
上記とご年齢、挙児希望の数からテーラーメイドの排卵誘発方法を決定します。
一般的に1回の月経周期で排卵される卵子は1個です。torch clinicでは、原則として採卵1周期で複数個の成熟卵子を回収することを目的とし、内服薬や注射を使用します。
主席卵胞(リーダーとなる卵胞)が発育しはじめる前の、月経3日目から卵巣刺激を開始します。
月経時のホルモンの基礎値はFSH:15以内、E2:30-50以内、超音波検査では前の月経周期の卵(15mm以上)が残っていないこと、複数個の胞状卵胞が確認できることが望ましいです。
診察②-④
内服薬や注射で複数の卵胞を育て、月経8-9日目に来院していただきます。
- 血液検査でE2、LH、P4(卵胞の成熟、卵巣過剰刺激症候群リスク)の評価
- 超音波検査で卵胞の大きさと数の評価
ホルモン採血及び超音波検査で卵胞の状態を確認します。卵胞の発育状態によって再度診察③-④が必要になる場合があります。
② 採卵術
採卵
複数の卵子を発育させた後、通常の体外受精でも実施される採卵を行います。
排卵を促す薬剤を投与(注射、点鼻薬)から約36-38時間後に採卵を行います。経腟超音波により卵巣内の卵胞の位置を確認しながら、採卵専用の針を使用して卵胞液と共に卵子を吸引してきます。
採卵術後5日目に術後の経過をみるために診察を行います。
③ 卵子凍結
回収した卵子を同日凍結致します。卵子凍結では採取した卵子を精子とかけ合わせることなく、未受精の状態で凍結保存します。卵子凍結の方法は受精卵の凍結と同様の超急速ガラス化法により行います。
一度凍結保存した未受精卵子は液体窒素中にある限り、半永久的に卵子の保存が可能です。また、凍結した卵子の融解後の生存率は80〜90%とされています。
卵子融解の流れ
卵子凍結後、ご結婚された場合やパートナーができた場合は、凍結した卵子を融解し受精卵にして胚移植を行います。卵子融解のご希望がでてきたタイミングでご来院ください。具体的な治療スケジュールについては下記のような流れになります。
① 卵子融解
液体窒素中(-196℃)にある凍結卵子を一気に加温(37℃)し融解します。この方法は受精卵の融解時と同様の方法になります。
② 顕微授精
融解した卵子の受精方法は精子所見に関わらず顕微授精になります。
体外受精では卵子の周りの顆粒膜細胞内を精子が進むことで、精子が卵子内に侵入し受精できるようになります。卵子凍結ではこの顆粒膜細胞を除去しているため通常の体外受精は実施できません。
③ 胚移植
正常に受精した受精卵は数日間培養を行います。培養後に妊娠の可能性が高い良好な受精卵を選択し胚移植を行います。胚移植後に妊娠反応検査を行い、妊娠しているか確認を行います。
妊娠・出産するまでどのくらいの数の未受精卵子が必要か?
子どもを1人を得るには、
35歳未満の方では、20個程度
36〜39歳の方でしたら、30〜50個程度の未受精卵子が必要と報告されています。(下図参照)
当院の見解
卵子凍結の技術は急速に進歩して、凍結による妊孕性温存は現実的なものとなりました。
晩婚化に伴い、不妊症に悩むカップルは5.5組に1組にものぼると言われています。不妊の原因のなかでも加齢による卵子の質の低下は防ぐ方法がありません。体外受精をはじめとする高度生殖医療を選択される患者様の多くは39-41歳ですが、治療の成績は女性の年齢、つまり卵子の質に依存し多くのカップルが卵巣性不妊症に悩んでいます。
妊孕性についての正しい知識を持たないままですと、性と生殖についての権利(Reproductive Health &Rights)を行使することが出来ません。torch clinicは適切に患者様の選択についてサポートが出来るよう努めております。どうぞご相談ください。