卵巣腫瘍とは?主な症状や治療方法について

最終更新日時:
2024-01-30
市山 卓彦
市山 卓彦 医師
院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

「沈黙の臓器」といわれる卵巣。骨盤内深くに位置し、卵巣腫瘍はある程度の大きさになるまでは痛みがほとんどなく、気がつかないことが多いです。初期症状は腹部膨満感や頻尿など「卵巣腫瘍」に結びつかないことも。卵巣腫瘍は良性であることが多いとされる一方、悪性が疑われる場合には大がかりな手術や抗がん剤治療が必要になることもあります。気がついた時には卵巣がすごく大きい腫瘍になっていることも。年に一回の婦人科検診に加え、気になることがあれば受診を急ぎましょう。

卵巣腫瘍とは

卵巣とは子宮の左右に1つずつあり、通常は2~4cmぐらいの大きさです。卵子の生成、成熟、排卵を行う生殖器官であると同時に、女性ホルモンを分泌する臓器です。この卵巣に発生した腫瘍が卵巣腫瘍であり、大きいものでは20cmを超えることもあります。

種類

卵巣腫瘍には卵巣のどの部分にできるかによって種類が分けられ、またその中で良性、悪性(卵巣癌など)、境界悪性と呼ばれる悪性度の低い癌という分類に分けられます。

特徴

卵巣は骨盤の奥にあり、腫れても気づきにくい場所にあるだけでなく、初期の頃にはほとんど自覚症状がありません。「下腹部がふくらんできた」など一見、卵巣腫瘍とは結び付かないことで婦人科の受診が遅れることもあります。また種類にもよりますが早ければ10代後半から、20〜60歳代でみられるためどの年代の女性も卵巣腫瘍が生じる可能性があります。痛みはもちろん、身体の異変を感じた際には早めの受診が大切です。

特徴的な症状

卵巣腫瘍では以下のような症状があります。

・腹部膨満感(お腹が張って苦しい)

・腹囲の増大

・下腹部痛、腰痛

・頻尿 など

卵巣腫瘍が小さいうちは無症状で経過することが多く、卵巣が腫れていても月経は順調であることが多いため、卵巣腫瘍は自覚症状に乏しい疾患です。

痛みなどの自覚症状は、すでに卵巣が大きく腫れることで下腹部も大きくふくらんだり、腹水がたまったりしていることが多いです。自覚症状の他、卵巣腫瘍が破裂したり、茎捻転といって卵巣腫瘍がお腹の中でねじれてしまうと突然の強い下腹部痛が出現することもあります。

診断方法

診断は以下の手順で進められます。

問診・内診

自覚症状の有無、下腹部痛・腹部膨満感の有無、腹囲の増大などを確認します。

超音波検査

基本的な婦人科検診で行われているように、卵巣腫瘍でも超音波検査(経膣エコー)を行います。卵巣腫瘍はこの超音波検査によって、良性・悪性の判断がつきやすい疾患です。

腫瘍が嚢胞性(ふくろ状)の場合の多くは良性腫瘍ですが、充実性部分(かたまりの部分)と嚢胞性部分が混在する場合や、腫瘍全体が充実性の場合などでは悪性腫瘍や境界悪性腫瘍を疑います。

MRI検査

MRIでは良性、境界悪性、悪性腫瘍のどれらしいかを検討するため、また大きさの把握や、周りの臓器とくっついていそうかなどを確認のため行います。

血液検査

腫瘍マーカーという項目を採取します。基準値より高い場合は悪性なことが多いですが、基準値内でも悪性だったり、値が高くても良性のこともありあくまでも指標となります。

病理検査

卵巣腫瘍は超音波検査やMRI検査で良性・悪性のおおよその判別をつけます。しかし実際に手術をして卵巣腫瘍を病理検査で細胞を確認しないと確定診断には至りません。捻転のリスクがあるため腫瘍が5〜6cm以上と大きい場合や、悪性が疑われる治療では原則的に手術が必要となるため、手術で腫瘍を摘出し、病理検査により腫瘍細胞を調べて最終的な診断が確定されます。

治療方法

卵巣腫瘍の治療法は、良性・境界悪性・悪性かによって大きく分けられますが、いずれの場合においても原則的には手術が必要となることが多いです。

良性腫瘍の場合

卵巣腫瘍が小さく良性と思われるものは経過観察できる場合もあります。

しかし基本的には6cm以上になると捻転のリスクがあるため手術をします。

良性腫瘍の手術では卵巣と卵管を取る手術(付属器切除)、もしくは卵巣を全部取らずに病変部だけを切除する温存術式(卵巣嚢腫摘出術)が選択されます。卵巣はホルモンを出す臓器ですが、閉経している場合卵巣はもう機能していません。そのため卵巣を取る手術をお勧めしています。年齢、挙児希望などを考慮しどちらの手術につるかは相談して決めていきます。また近年では腹腔鏡によって、手術によってかかる身体への負担を少なくし、傷も小さく済む手術も可能になっています。

境界悪性腫瘍の場合

境界悪性腫瘍の場合、開腹して「両側の卵巣」「卵管」を切除することが基本となります。また、手術の際に摘出した卵巣を病理検査にかけ最終的な診断を確定させ手術でとる範囲を決めます。

悪性腫瘍の場合

悪性腫瘍の診断がついた場合、卵巣・卵管の摘出に加え、「子宮」「大網(胃と大腸の間の膜)」の他、リンパ節の摘出や腫瘍の拡がりによっては腸管や腹膜などの合併切除が必要となることがあります。また、悪性腫瘍の手術後には多くの場合、化学療法として抗がん剤治療が必要になります。

ただし、境界悪性腫瘍や悪性腫瘍であっても、その種類や進行度合によって問題のない側の卵巣・卵管や子宮を温存することが可能な場合もあります。手術・抗がん剤治療以降の妊娠・出産を希望している方は、担当医とよくご相談下さい。