妊娠初期は女性の心身の変化が大きく、仕事への影響も大きい時期です。近年は妊娠しても仕事を続ける人も多いですが、妊娠中の症状は個人差も大きく、休んだ方が良いケースもあります。本記事では妊娠初期の仕事中に起こりやすいトラブルや、妊婦を守ってくれる法律などについて解説します。
妊娠初期における心身の変化と仕事への影響
妊娠初期(〜15週)には、つわり(吐き気や嘔吐)、臭いへの敏感さ、頻尿など、さまざまな身体の変化が現れます。また、場合によっては流産リスクが懸念されることもあります。これにより、作業効率や集中力が低下し、休養が必要になる可能性も否定できません。
特に立ち仕事や重い物を扱う業務では、長時間の立ち仕事や重い物を持つ作業を避ける配慮が必要です。
職場では、休憩場所の確保や業務内容、勤務時間の調整を申し出ることが大切です。妊娠中の女性が安心して働ける環境づくりには、職場全体の理解とサポートが欠かせません。
妊娠初期とわかった場合の仕事場への報告のタイミング
妊娠が判明した際、職場への報告タイミングは慎重に検討する必要があります。つわりなどの体調変化がある場合は業務への影響を考慮し、妊娠初期の段階で上司に報告しておくと安心です。早めに伝えることで無理をすることなく、時差出勤や負担の少ない業務への変更ができる場合があります。
一方で、後述のように、妊娠初期は流産する可能性があるので、妊娠初期には報告せず、12週以降など状態が落ち着き始めてから伝えるという選択もあります。
また、報告の際は、上司に直接伝えることが望ましく、今後の業務内容や勤務時間の調整、休憩場所の確保など、必要な配慮を相談することが重要です。職場全体の理解とサポートを得るため、同僚への適切なタイミングでの報告も検討すると良いでしょう。
妊娠初期の仕事中に起こりやすいトラブルへの対策
妊娠初期は、身体的・精神的な変化が大きく、仕事中にさまざまなトラブルが生じることがあります。特に流産(妊娠22週未満に妊娠が終了してしまう状態)のリスクが高まる時期であり、無理な働き方は体調悪化につながる可能性があります。また、つわりによる体調不良は、集中力や作業効率の低下を招くこともあります。
以下では、これらのトラブルが起こりやすい状況やその対策法をご紹介します。
流産対策
妊娠初期(〜12週程度)は全妊娠のうち約10〜15%で流産が起こる可能性があります。1)。妊娠初期の流産の原因の半数以上は胎児側の染色体異常などによるものです。一方、母体側の原因としては、子宮や内分泌疾患、感染症などが影響することもあります。。
また、長時間の立ち仕事や重い物を持つことが母体に負担をかけ、子宮の収縮を引き起こして切迫症状を招く恐れがあります。
流産を予防するためには、自分の体調をよく観察し、無理をしないことが大切です。もし業務の調整が必要な場合は、早めに職場に申し出るようにしましょう。出血や強い腹痛などの異常を感じた場合は、自己判断せず、すぐに医療機関を受診することが重要です。
つわり対策
つわりは、妊娠初期に多くの女性が経験する症状で、吐き気や嘔吐、食欲不振、強い眠気などがよく見られます。特に空腹時や疲れが溜まったとき、または特定のにおいを感じると症状が悪化することがあります。さらに、朝夕の通勤時間帯の人混みで気分が悪くなることもよくあります。
仕事中のつわり対策としては、少量の食事をこまめに摂る、あめを持ち歩く、体調が優れないときは休憩を取れるようにするなどの工夫が効果的です。また、ラッシュ時間を避けて時差通勤をするために、職場に相談することもひとつの方法です。
妊娠初期で仕事を休んだほうがよいケース
妊娠初期は体調の変化が大きく、無理をせず休むことが必要な場合があります。特に、以下のようなケースでは注意が必要です。
・妊娠悪阻(おそ):つわりが重く、強い吐き気や嘔吐が続き、体重減少や脱水、栄養不足のリスクがある状態です。早めに医療機関を受診し、必要に応じて点滴などの治療を受けましょう。
・流産や切迫流産の兆候:出血や強い腹痛がある場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
・めまい、極度の疲労、強い眠気:転倒や体調悪化の恐れがあるため、無理せずしっかり休息を取ることが大切です。
体調に不安を感じたら、早めに医師に相談し、必要に応じて職場にも状況を伝えましょう。
心身の不調で仕事がつらいときは母健連絡カードを活用しよう
母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)は、妊娠中や出産後の女性労働者が安心して働き続けるための大切なツールです。母子手帳に様式が記載されており、コピーして使えるほか、厚生労働省のホームページなどからもダウンロードできます2)。
このカードは、働く妊産婦が医師から通勤負担の軽減や休憩の取り方、勤務時間短縮などの指導を受けた際に、その内容を正確に事業主へ伝えるために使用します。
母健連絡カードの使い方
1. 女性労働者が医師の診察を受けます。
2. 医師が必要と判断した場合、カードに指導内容を記載して本人に渡します。
3. 女性労働者がカードを事業主に提出し、必要な対応を申し出ます。
4. 事業主はカードの内容にそって、必要な対応を行います。
仕事をしている妊娠初期の方を守ってくれる法律
妊娠初期は体調が不安定になりやすく、働く妊婦には無理のない環境が必要です。日本では、男女雇用機会均等法や労働基準法により、妊婦の健康管理や勤務の配慮が義務付けられています。
また、事業主が妊娠を理由とした解雇や不利益な扱いをおこなうことを禁止し、妊婦が安心して働けるように法律で定めています。このように妊娠初期の女性も働き続けやすい環境が整えられているのです。
妊婦が働くうえでマイナスとなる対応を禁止する法律
男女雇用機会均等法第9条第3項では、妊娠・出産を理由に女性労働者への不利益な取り扱いを禁止しています3)。
具体的には、妊娠を理由とした解雇や契約の打ち切り、降格、減給、契約更新の拒否などが該当します。また、正社員から非正規社員への変更の強要、仕事を与えず放置する、単純な雑務のみを任せる、不当な自宅待機命令なども違法です。
さらに、昇進や昇格の際に不公平な評価を受ける、希望しない異動を命じられることも不利益な取り扱いにあたります。
妊娠を理由とした不当な解雇を禁止する法律
男女雇用機会均等法第9条第4項では、妊娠・出産を理由に女性労働者を妊娠中や産後1年以内に解雇することを禁止しています。また、企業が解雇する場合、妊娠・出産・産休を取得したことが理由でないことを証明しなければなりません3)。
さらに、労働基準法第19条では、産前産後休業中とその後30日間の解雇も原則として禁止されています4)。これにより、女性が妊娠や出産を理由に不当な扱いを受けることなく、安心して働き続けられる環境が守られています。
検診時間の確保を目的とした法律
男女雇用機会均等法第12条では、妊娠中や産後1年以内の女性労働者が、医師の指導に基づき必要な妊婦健診を受ける時間を確保できるよう、企業に配慮を求めています5)。
妊婦健診を受ける際は、会社に申請し、勤務時間内でも受診できるよう対応してもらえます。これにより、妊娠中の女性が無理なく働きながら適切な医療を受けられる環境が整えられています。なお、健診時間の給与支給の有無は、企業の規定によります。
通勤の負担の緩和や休憩時間の延長等の確保を目的とした法律
男女雇用機会均等法第13条では、妊娠中や産後1年以内の女性労働者が、医師の指導に基づき必要な措置を受けられるよう、企業に配慮を求めています5)。
具体的には、通勤負担の軽減(時差出勤・通勤経路の変更)、休憩時間の延長、勤務時間の短縮、作業の制限や環境の変更、必要に応じた休業などが含まれます。
事業主は、妊産婦が申し出た場合、医師の指導に従い適切な対応を行わなければなりません。この制度により、妊娠中の女性が体調を考慮しながら、無理なく働ける環境が守られています。
危険な仕事や心身への負担が大きい仕事の制限をする法律
労働基準法では、妊娠中や産後1年以内の女性が安心して働けるよう、危険な業務や体への負担が大きい仕事を制限しています5)。具体的には以下のとおりです。
第64条の2:妊娠中や希望する産後1年未満の女性は、炭鉱や鉱山など危険な場所での仕事が禁止されています。
第64条の3第1項:重い物の運搬や有害なガスがある環境での業務など、体に悪影響を与える仕事は禁止されています。
第65条第3項:妊娠中の女性が希望すれば、負担の少ない業務への変更が義務付けられています。
時間外労働や休日労働等の制限をする法律
労働基準法第66条では、妊娠中や産後1年以内の女性の負担を減らすため、時間外労働や休日労働、深夜労働の制限を定めています5)。
妊産婦が希望すれば、残業・休日労働・深夜労働(22時~5時)を免除しなければなりません。また、変形労働時間制の場合でも、法定労働時間を超えないよう求めることができます。
事業主は、妊産婦の申し出に応じ、適切な対応を行う必要があります。これにより、妊娠中や産後の女性が無理なく働ける環境が守られます。
産前産後休業の取得を目的とした法律
労働基準法第65条では、妊娠・出産をする女性労働者が安心して出産・育児に備えられるよう、産前産後休業の取得を定めています3)。
産前休業:出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から、女性労働者が希望すれば取得できます。
産後休業:出産翌日から8週間は働くことが禁止されています。ただし、本人の希望と医師の許可があれば、6週間経過後から就業可能です。
この制度は、妊産婦の健康を守り、出産後の回復を促すために重要です。事業主は、法律に従い、女性労働者が適切に休業を取得できるよう配慮する義務があります。
妊娠初期に関連するよくある質問
Q:妊娠中期になるとどのような心身の変化が起こる?
妊娠中期(16週〜27週)は、つわりが落ち着き、体調が安定しやすい時期ですが、お腹が大きくなり、さまざまな変化が現れます。
身体の変化
子宮の拡大により腰痛やお腹の張り、足のつり、貧血、むくみ、動悸が起こりやすくなります。また、胎動を感じ始め、赤ちゃんの成長を実感できる時期です。
心の変化
体調が落ち着く一方で、出産や育児への不安を感じることもあります。ホルモンの影響で気分が不安定になりやすいため、無理をせずリラックスする時間を大切にしましょう。
適度な運動やバランスの良い食事を心がけ、体調の変化に注意しながら快適に過ごしましょう。
Q:妊娠後期になるとどのような心身の変化が起こる?
妊娠後期(28週〜出産まで)に入ると、お腹がさらに大きくなり、出産に向けた準備が始まります。
身体の変化
子宮が胃を圧迫するため、胃もたれやつわりのような症状を感じることがあります。また、腰痛、頻尿、むくみ、足のつり、動悸や息切れが起こりやすくなります。お腹の張りが続く場合は、早産の兆候となることがあるので、早めに受診することが大切です。
心の変化
出産が近づくにつれて、不安や緊張が高まりやすく、ホルモンの影響で情緒が不安定になったり、眠りが浅くなることもあります。
無理をせず、十分な休息を取ることが重要です。リラックスできる時間を持ち、家族や周囲のサポートを受けながら、出産に向けた心と体の準備を整えましょう。
おわりに
参考文献
1)厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト 妊娠出産・母性健康管理サポート 職場における母性健康管理パンフレット 働きながら安心して妊娠・出産を迎えるために
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/document/data/pamphlet_2019_02.pdf
2)厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト 妊娠出産・母性健康管理サポート 母健連絡カードについて
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/renraku_card/#card_kaisei
3)内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室 働くみんなのマタハラ手帳
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_29/pdf/s4_2.pdf
4)広島県 働く女性応援よくばりハンドブック 第2章 仕事と家庭の両立
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki_file/womanjob/handbook/2_yokubari_handbook.pdf
5)厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト 妊娠出産・母性健康管理サポート 妊娠・出産期に知っておくべき法律や制度
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/kensetsu/pdf/guidebook05.pdf