クラミジアとは?
クラミジアは、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)という細菌で、「性器クラミジア感染症」という性感染症(STD)を引き起こします。STDの中でも感染者数が最も多い疾患ですが、無症状の場合が多く、気づかないうちに感染していることが多くあります。そのため、多くの人が感染していることに気づかず、知らぬ間にパートナーにうつしてしまうことも少なくありません。
また、自然治癒することはなく、感染すると不妊症や早産、新生児への感染リスクがあります。クラミジア感染自体は抗生物質の服用で治療することができるので、定期的な検査と適切な治療による予防と早期対応が重要です。
この記事では、クラミジアの感染経路や早期対応についてまとめているので参考にしてください。
性器クラミジア感染症の患者数の推移
国立感染症研究所の調査によると、2022年の年間報告件数は約3万件です。(調査対象の約1000件の医療機関)
調査をベースにした日本国内の患者数は推計で約35〜40万人以上といわれています。無症状の患者が多いことなどを背景に幅のある推計となっています。
患者数の推移については、2000年代初めをピークに減少して2007年以降は横ばい傾向でしたが、2016年以降に増加傾向に転じています。年代別に見ると、20代での増加が顕著です。
クラミジアの感染経路
クラミジアの感染経路は、性行為を通じたパートナー間の接触感染が主です。また、感染した母親の産道通過時に新生児が感染する経路もあります。
精液や腟分泌液、感染部位の粘膜に含まれるクラミジアが、相手の粘膜と接触することで感染します。
コンドームを使用しない性行為での感染リスクは高く、1回で約30〜50%が感染するといわれています。
また、口での性交渉を通じて、咽頭(のど)などにも感染します。
咽頭クラミジアに感染しているパートナーとのキスやオーラルセックスなどは、感染リスクがあります。
ただ、主な感染経路はヒトからヒトへの接触感染であり、食べ物を共有することによる経口感染については論文などで報告されていません。
また、お風呂や温泉などでの感染も今のところ報告されていません。
クラミジアの潜伏期間について
クラミジアに感染してから発症までの潜伏期間は、性行為から約1〜3週間ですが、個人差があり、数ヶ月経ってから発症する場合もあります。
特に、女性では90%以上が無症状であり、感染に気づかず無治療のまま放置されることが多いです。
自分は無症状でも、パートナーに症状が出たときは、すぐ検査を受けましょう。
クラミジアの症状【女性】
女性の場合、下腹部痛や膣のかゆみ、おりものの変化、不正出血、排尿時や性交渉時の痛みなどの症状が現れます。
普段よりもおりものの量が増えたり、色やにおいが違うなどの軽微な症状のため、クラミジアに感染したと気づかないことがほとんどです。
くり返しになりますが、多くの場合無症状であることがこの感染症の特徴です。
特に、妊活中の方は定期的な検査を受けることをおすすめします。
クラミジア感染で起こる病気
性器クラミジア感染に気づかずに過ごしてしまうと、次のような病気になる可能性があります。
- 子宮頸管炎
- 子宮内膜炎、卵管炎、卵巣炎、骨盤腹膜炎
- 肝周囲炎
- 子宮外妊娠、不妊症
性器クラミジア感染症は軽症のうちに治療すれば早期に治癒する病気ですが、放っておくと他の深刻な病気になるリスクがあります。
子宮頸管炎
子宮頸管炎(子宮の入口の炎症)は、クラミジアによる主な疾患のです。
症状は、おりものの変化、不正出血、排尿時や性行為時の痛みなどです。
症状が軽く、自分では気づかないまま感染が広がり、骨盤内炎症性疾患(PID)に至るリスクがあります。
性器クラミジア感染症を放置しておくと、腟から腹腔内上へ感染が広がることがあります(上行性感染)。
子宮内膜炎、卵管炎、卵巣炎、骨盤腹膜炎
クラミジアは、上行性感染により、子宮や卵管、卵巣、腹膜に炎症を起こし、子宮内膜炎、卵管炎、卵巣炎、骨盤腹膜炎などPIDを引き起こします。
症状としては、おりものの増加、不正出血、下腹部痛、性交痛がでたり、クラミジアの菌量が多い場合には、激しい下腹部痛や倦怠感を伴うこともあります。
骨盤腹膜炎は症状が強く、上部腹痛や発熱、吐き気などの症状も出ます。
肝周囲炎
クラミジアが肝臓の周囲まで上がっていき、肝周囲炎に至る可能性もあります。
肝周囲炎は、PIDと一緒に発症する場合が多く、次のような症状が出ます。
- 右上腹部や胸部の痛み:肋骨の下あたりに鋭い痛みや鈍痛を感じることがあります。肝臓付近の炎症が原因です。
- 肩への放散痛:炎症が横隔膜に広がることで、肩や背中に痛みが出ます。
- 発熱:感染や炎症に伴い、微熱や高熱が出ます。
- 吐き気や嘔吐:腹部の痛みに伴って起きます。
子宮外妊娠、不妊症
PIDを適切に治療しないと、子宮外妊娠や不妊症の原因となります。
卵管が炎症を起こした結果癒着が生じ、卵管が狭くなったり、閉塞します。卵管は、精子と卵子の出会いの場ですので、卵管が閉塞すれば受精できなくなりますし、卵管が狭くなれば受精卵が子宮内に到達できず卵管内で着床(子宮外妊娠)することがあります。
子宮外妊娠は進行すると、卵管が破裂し、性器出血、下腹部痛、めまいや失神、重症の場合は命にかかわる大出血を引き起こすため非常に危険で、緊急手術が必要な場合があります。
性器クラミジア感染症は、無症状の場合が多く、1年以上妊活しても妊娠に至らない場合には、検査を受けることをおすすめします。
クラミジアの症状【男性】
男性では、陰部のかゆみや痛み、排尿時痛、尿道からの分泌物などの症状が見られます。
無症状である場合も多いため、パートナーと妊活中の男性には、クラミジアなどのSTD検査を定期的に受けることをおすすめします。
クラミジア感染を放置すると、精巣上体炎や前立腺炎に至ることもあり、発熱、腹痛、腰痛といった症状が現れます。
クラミジア感染で起こる病気
クラミジア感染が陰部から尿道へと上行して、他の生殖器官や周辺組織に感染が広がり、尿道炎、精巣上体炎、前立腺炎などの病気になることがあります(上行性感染)。このような合併症に至ると、痛みや発熱を伴う症状が出て、治療にかかる期間も長引きます。
また、クラミジアが精巣や前立腺に広がることで、精子の機能が低下して、不妊の原因にもなります。
男性の場合の、クラミジア感染による合併症を次の項にまとめているので、参考にしてください。
尿道炎
クラミジア感染が尿道に広がると、クラミジア性尿道炎を引き起こすことがあります。
以下のような症状が出たら、診断を受けて早期に治療しましょう。
- 排尿時痛:排尿の初めや終わりに痛みや灼熱感が出ます。
- 尿道からの異常なおりもの:透明や白っぽい、粘り気のある分泌物が見られます。朝起きたときに症状が強く出ることがあります。
- 頻尿や排尿困難:尿意を感じる頻度が増えたり、尿を出しにくくなります。
- 尿道の軽度のかゆみや不快感:尿道周辺に軽いかゆみや違和感を感じます。
感染していても軽症や無症状であることが多いので、軽度であっても上記のような症状を自覚した場合には、早期に検査を受けてください。
精巣上体炎
クラミジアが上行して精巣上体(精巣の後ろにある管)に感染すると、精巣上体炎を引き起こして、次のような症状が現れます。
- 陰嚢の腫れや痛み:片側の精巣が腫れ、強い痛みを伴います。
- 発熱:感染が進行すると発熱することがあります。
- 排尿時や性交時の痛み:尿道炎の症状も継続することがあります。
精巣上体炎になると、抗生物質の服用期間も長くなり、痛みを緩和する治療や安静が必要です。
咽頭(のど)の症状【男女】
口腔性交を介して、咽頭(のど)にも感染しますが、しばしば無症状で、自覚しないまま感染を広げるリスクがあるため注意が必要です。
次のような症状が出る場合もあります。
- 咽頭の違和感や痛み、赤みや腫れ、:咽頭が炎症を起こし、軽い赤みや腫れが起きて、違和感や痛みを感じますが、症状は比較的軽微です。
- 膿(うみ)状の分泌物:まれですが、喉に膿(うみ)のような分泌物が見られることもあります。細菌性の咽頭炎と区別が難しいことがあります。
- 長引く咳、声のかすれ、息苦しさ。
- 耳のつまり、聞こえにくさ。
クラミジアの感染から、直接的に耳のつまりや中耳炎など、耳鼻咽喉系の疾患になることは、ごくまれで、他の病原体の感染とともに発症することが主です。
直腸の症状【男女】
直腸に感染した場合も、約7割で無症状です。
症状が現れる場合、肛門や直腸に痛みや不快感を感じます。肛門周辺にかゆみや腫れが出ることもあります。
また、排便時に痛みを感じることや、出血することもあります。血のまじった便が出たり、トイレットペーパーに血がついていたりします。
腸の働きが乱れて便秘や下痢になったり、便に粘液がまじることもあります。
目の症状【男女】
クラミジアに感染している人の体液がついた手で目を触ると、結膜炎になることがあります。
結膜炎になると、目の充血や目やに、かゆみや腫れなどの症状が現れます。
出産時の母子感染で、赤ちゃんが新生児結膜炎を発症することもあります。
クラミジアの検査について
クラミジアに現在感染しているかどうかは、分泌物を採取して検査をします。
採血では、過去にかかっていたかどうかを知ることができます。過去の感染は不妊の原因となりうるため、不妊外来では、採血をします。
女性の場合:
子宮頸管分泌物:内診を行い、子宮頸管からの分泌物を採取します。
男性の場合:
尿道分泌物:尿を採取します。
男女共通:
咽頭分泌物:咽頭をぬぐったり、うがい液を採取します。
これらの分泌物を用いて、主にPCR検査を行います。
採取をする際に、圧迫感や痛みなどを感じることがあります。
採血では、クラミジア抗体(IgA,IgG)を確認します。
簡易キットなどでの検査も可能ですが、妊活中の方は婦人科や泌尿器科での検査、診断を早期に受けることをおすすめします。
クラミジアの治療について
クラミジア感染症の治療には、マクロライド系抗菌薬、キノロン系抗菌薬のうち抗菌力のあるもの、あるいは、テトラサイクリン系抗菌薬といった抗生物質を用います。
経口薬の服用が主ですが、症状が強い場合などでは注射や点滴を用いることもあります。
アジスロマイシン : 単回投与 (妊婦さんも内服可能)
クラリスロマイシン : 1日2回、7日間服用 (妊婦さんも内服可能)
ミノサイクリン : 1日2回、7日間服用
レボフロキサシ : 1日3回、7日間
クラミジアはカップルで同時に治すことがとても重要です。無症状の場合が多く、どちらが先に感染していたかを知ることはできません。
自分だけが治療をしても、パートナーが未治療の状態で性行為を持つと、繰り返し何度でも感染します。この反復感染をピンポン感染と呼びます。
クラミジアは感染力が強いため、一方が感染していたら、相手も感染しているリスクが高いので、必ずパートナーにも検査や治療をしてもらいましょう。
クラミジアの予防について
クラミジアの予防には、コンドームの使用が必要です。
妊娠を希望するカップルは、ブライダルチェック、STD検査などを受けることをおすすめします。
また、クラミジア感染が疑われるような場合や症状がある場合には、早期に検査をして治療を受けることが大切です。
よくある質問
クラミジアと淋病の違いはなんですか?
クラミジアと淋病は、どちらも性行為を通して感染しますが、感染の原因である細菌が異なります。淋病は淋菌が原因です。
排尿時の痛み、女性はおりものの変化、男性は尿道炎の発症と、両者の症状は似ています。淋病の方が、男性の尿道炎の症状が強く出る傾向があります。
症状には個人差があるので、症状からの判断は難しく、検査によって診断を行います。
また、クラミジアと淋病の両方に感染しているケースも2〜3割あるので、感染が疑われる際には両方の検査をおすすめします。
淋病の治療には、注射や点滴を用います。
クラミジアは自然治癒しますか?
クラミジア感染症は自然治癒しません。放置すると、症状が軽くても感染が進行し、深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
ご夫婦やパートナーで検査を受けて、一方だけが陽性の場合、疑問や不安を感じるケースがあるかもしれません。
どちらかが、他の感染症の治療で抗生物質を服用して、クラミジアもたまたま一緒に治療されたという可能性もあります。
大切なのは、パートナー両方が完治した状態になることです。
妊娠を希望する場合には、STD検査を含むブライダルチェックなどを受けることをおすすめします。
おわりに
トーチクリニックでは、将来妊娠を考えている方向けのブライダルチェックなども提供しています。ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。
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また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考ください。