近年、晩婚化や女性の社会進出が進む中で、高齢での妊娠・出産が増加しています。高齢出産におけるリスク、妊活に備えたポイントなどについて解説します。
高齢出産は何歳から?増加している理由は?
高齢出産とは、明確な定義はありませんが、一般的に35歳以上で出産することを指します。
近年、晩婚化や女性の社会進出を背景に、高齢での妊娠・出産が増加傾向にあるといえます。これは、若年層の経済的不安が結婚や出産の時期を遅らせていることが、妊娠・出産の高年齢化につながっている要因のひとつと考えられるためです。
高齢出産によって起こりうるリスク
近年、「卵子の老化」に関する報道や記事について目にすることが増えてきました。実際、女性の卵子の数は生まれた時点で一生分が決まっており、加齢とともに数が減少し、質も低下します。
そのため、妊娠可能な時期には限りがあり、特に35歳を過ぎると妊娠率が低下し、40歳以降はさらに難しくなります。さらに、以下のようなリスクがあると言われています。
- 流産率の上昇
加齢は流産の最も大きな要因であり、流産の確率は20代では約10%ですが、40代になると40%以上に上昇します1)。
- 染色体異常
妊婦さんの年齢が上昇すると、染色体異常をもつ赤ちゃんの出生頻度が高くなることが知られています。
- 妊娠・出産における合併症
加齢に伴い妊娠・出産に対する身体の予備能力が低下するため、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症のリスクも上昇します。分娩時には産道の柔軟性が低下し、分娩が長引くことで難産になり、帝王切開が必要になるケースも増える傾向にあります。
高齢妊娠では母体への負担が大きくなるため、妊娠初期から⼗分な管理が必要です。
将来の出産(高齢出産)に備えた妊活のポイント
高齢出産の場合、妊娠率の低下や妊娠・出産におけるリスクを考慮し、より計画的に妊活を進める必要があります。将来の妊娠・出産に備えて、正しい知識を得て、今からできることを実践し、健康的な生活を送ることが大切です。
以下のポイントを意識しながら、妊活に備えた体づくりを進めていきましょう。
適正体重を心がける
やせ過ぎも肥満も、不妊や妊娠・出産のリスクを高める要因となります。BMIが18.5未満は低体重(やせ)、25.0以上は肥満と定義されています。
※BMI(Body Mass Index):[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出される体格の指数のこと。
美容やダイエットによる過度な食事制限により、低体重の女性が増加傾向にあります。やせ過ぎると、貧血や栄養状態の悪化、月経不順などの月経異常が起こりやすくなる上、精神的・心理的な要因による過度なやせは、女性ホルモンだけでなく他のホルモンにも影響を及ぼし、無月経の原因となる場合もあります。無月経によって女性ホルモンの分泌が減少すると、不妊症につながる可能性もあります。
一方、肥満の場合も、無月経や過少月経などの月経異常が頻発します。これは、卵巣から分泌される女性ホルモンに加え、他の臓器や組織からの分泌によるホルモンの乱れが影響するためで、結果として月経不順や排卵障害につながり、不妊症の原因となるとされています。
BMIが18.5 以上25.0未満となる適正体重を維持していきましょう。
食生活や生活習慣の見直しをおこなう
バランスの良い食事の基本は、主食・主菜・副菜を揃えた食事を摂ることです。1日にこれらが揃った食事を2食以上摂ることで、栄養素の摂取量が適正になりやすいと報告されています。
特に日本人女性は、葉酸や鉄の摂取量が不足しがちです。葉酸は赤ちゃんの先天異常である神経管閉鎖障害を予防するため、妊娠前から十分に摂取することが重要です。鉄は酸素の運搬に必須のミネラルであり、妊娠期には胎児の成長や鉄貯蔵、循環血液量の増加に伴い、より多くの摂取が求められます。そのため、日本産科婦人科学会では妊娠前からの葉酸サプリメントの服用を推奨しています。
また、喫煙は妊娠中の早産や低出生体重、赤ちゃんの発育不全のリスクを高めることが知られています。受動喫煙も影響を及ぼし、出生時体重の低下や乳幼児突然死症候群のリスクを増加させる可能性がありますので、パートナーや家族の禁煙も重要です。妊婦さんや赤ちゃんが受動喫煙を避けられるよう、家庭の環境を整えましょう。
妊娠を考える段階から禁煙を心がけることで、妊娠中や授乳期の健康リスクを低減し、胎児の健やかな成長を促すことができます。禁煙が難しい場合は、専門の医療機関のサポートを活用しましょう。
食生活や生活習慣を見直すことは、健康の維持や将来の妊娠・出産にも良い影響を与えます。できることから、日々の食事や生活習慣を整え、健康的な生活を送りましょう。
自身の月経周期を理解する
妊娠を希望する場合、自身の月経周期を理解することが大切です。排卵のタイミングが合っていても、20代前半で約30%、30歳で約20%、35歳では約10%程度といわれています2)。そのため、まずは自分の身体のリズムを知ることが重要です。
基礎体温を記録することで、月経周期や排卵の有無を把握できます。2か月間続けることで自身のリズムを知る手がかりになります。適切な方法で基礎体温の記録をつけていても、実際に排卵する日を正確に見極めるのは簡単ではありません。しかし、基礎体温が低くなる時期の低温相と高くなる時期の高温相が観察できれば、排卵していると判断でき、おおよその排卵日も把握できます。さらに4〜6か月程度記録すると、より高い精度で排卵の傾向がつかめてきます。
基礎体温とは、生命維持に必要な最小限のエネルギーしか使っていないときの体温です。朝、起床後すぐに測ることで、月経周期や妊娠の可能性を予測できます。基礎体温の変化を知ることは、自身のホルモンバランスや健康状態を把握するうえでも役立ちますので、何か気になることがあれば婦人科の受診を検討しましょう。
ブライダルチェックをおこなう
ブライダルチェックとは、将来の妊娠に備えることを目的として、出産や妊娠に関わる病気の有無や健康状態を確認するための検査です。婦人科検診や感染症、男性の精液検査などを行い、妊娠に影響を及ぼす可能性のある要因について調べます。
子宮や卵巣の状態、ホルモンバランス、感染症の有無などを確認することで、万が一問題があった場合でも、適切な対策や治療を早めに開始できます。
また、パートナーと共に受診することで、お互いの健康状態を共有し、将来の家族計画について話し合う良い機会となります。ブライダルチェックは、妊娠を希望する方々にとって、安心して未来を迎えるための大切なステップです。
*ブライダルチェックについては、下記記事もご覧ください。
参考:ブライダルチェックは何をする?ブライダルチェックの内容について
不妊症の検査を受ける
不妊とは、生殖可能な男女が避妊せず性交渉を行っても一定期間妊娠しない状態を指します。一般的に1年間妊娠しない場合を不妊としますが、年齢や状況に応じて早期に検査や治療を行うこともあり、ケースバイケースで判断されます。
不妊症の検査は、妊娠しにくい原因を特定するために行われる検査です。妊娠には、女性の排卵や子宮の状態、男性の精子の質や量など、多くの要素が関わります。そのため、不妊症の原因を明確にするためには、女性・男性ともに検査を受けることが重要です。
検査は主に以下のような項目がありますが、不妊の症状や状況により異なるため、医師の指示に従うことが重要です。
- 女性の検査:一般血液検査、ホルモン検査、超音波検査、子宮卵管造影検査、感染症検査など
- 男性の検査:一般血液検査、精液検査、ホルモン検査、感染症検査など
これらの検査で、排卵やホルモンの状態、卵管の通過性、子宮の環境、精子の数や運動率、免疫的な要因(抗精子抗体の有無)などを調べます。
*不妊症の検査については、下記記事もご覧ください。
参考:不妊検査の流れについて
高齢出産に関するよくある質問
Q:高齢出産の良い点はある?
高齢妊娠・出産では、経済的に安定した状況で育児に取り組める環境であったり、社会経験を積んだことにより、育児に対する冷静な判断力や精神的な安定を持ちやすい点などがメリットとして挙げられます。
Q:妊娠の適齢期はいつ?
妊娠に適した時期は、一般的に25~35歳前後と言われています。この時期は、ホルモンバランスが整い、子宮や卵巣の問題も少なく、心身ともに健康な状態であることが多いためです。また、卵巣機能や卵子も正常に機能していることが多く、妊娠しやすいと考えられています。
しかし、卵子は生まれた時から数が決まっており、年齢が上がるにつれてその数は減少し、質も低下していきます。そのため、妊娠する力は年齢とともに低下していくと言えるでしょう。特に35歳前後からは卵子の老化が進み、細胞自体が古くなり、染色体や遺伝子に異常が生じやすくなるため、受精しにくくなる、受精しても染色体異常が発生するリスクが高まる、妊娠が成立しても流産率が上昇するといった問題が起こりやすくなります。
女性だけでなく、男性も年齢の影響を受け、精子の数や運動性が低下していきます。そのため、妊娠に向けた準備は、できるだけ早期に始めることが望ましいでしょう。
Q:不妊の場合の検査・治療方法は?
不妊症の原因を特定するために、女性ではホルモン検査、超音波検査、子宮卵管造影検査、感染症検査などが行われ、男性では精液検査、ホルモン検査、感染症検査などが実施されます。不妊の原因に応じて、一般不妊治療とされるタイミング法や人工授精、生殖補助医療とされる体外受精や顕微授精など、さまざまな治療法があります。
治療の選択は、検査結果や年齢、状況、希望などを考慮しつつ、医師と相談しながら適切な方法を決定していきます。
*不妊症の検査については、下記記事もご覧ください。
参考:不妊症の検査はいつしたらいい?不妊治療に初めて行くタイミング
Q:出生前診断とはなに?
出生前診断とは、赤ちゃんが生まれる前に先天的な病気や身体のつくりの特徴、健康状態などを調べる検査です。すべての異常を診断できるわけではありませんが、一部の染色体異常や形態異常について診断することができます。
出生前診断には、遺伝学的検査と超音波検査の2種類があります。遺伝学的検査では、NIPT(無侵襲的出生前遺伝学的検査)や羊水検査などを行い、染色体の異常を調べます。一方、超音波検査には、一般的な妊婦健診での検査に加えて、専門医や検査技師が時間をかけて行う胎児超音波検査があり、赤ちゃんの臓器や骨、手足の形などを詳しく観察します。
出生前診断を考えるきっかけや理由は、ご夫婦やご家族によってさまざまです。検査を受けるかどうか、また検査結果をどのように受け止めるかに正解はありません。
また、出生前診断ではすべての病気や異常を発見できるわけではありません。検査の目的や種類などについて理解を深め、パートナーや家族とよく話し合い、十分な説明を受けた上で納得のいく選択をすることが大切です。
出⽣前診断について迷ったときは、専⾨家による遺伝カウンセリングなどを検討してみましょう。
*不妊症の検査については、下記記事もご覧ください。
参考:出生前診断とは?検査の種類や費用、特徴、いつまでにやるかなどを解説
おわりに
参考文献
1)日本産婦人科学会,日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドラインー産科編 2023. Accessed Feb.,2025.
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2023.pdf
2)日本産婦人科学会:HUMAN+女と男のディクショナリー,第三章 ~将来の妊娠のために~ 1.妊娠したいと思ったら,2018.Accessed Feb.,2025.
https://www.jsog.or.jp/public/human_plus_dictionary/pdf/3_1.pdf