高齢出産について
「高齢出産」は医学用語ではなく明確な定義がありませんが、一般的に35歳以上で出産することを高齢出産と呼びます。
高齢出産にはリスクが伴うことが知られていますが、35歳以上の場合、出産だけでなく妊娠に伴うリスクも高くなると考えられています。
この記事では、高齢出産・高齢妊娠のリスクと注意すべきポイントについて解説します。
高齢出産の割合
日本における高齢出産の割合は年々増加傾向にあります。実際に、厚生労働省の「令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況」をもとに、母親の年齢別の出生数と割合を算出してみても、1985年における35歳以上の母親からの出生数(出生割合)は101,970人(7.1%)だったのに対し、2023年時点では221,288人(30.4%)と大きく増加していることがわかります。(図表1、図表2参照)
図表1

図表2

※厚生労働省|「令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況」を元に作成
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei23/index.html
高齢妊娠・高齢出産のリスク
妊娠・出産に伴うリスクが高くなり始めるのは30歳を超えてからと考えられており、特に35歳以上になるとさらに高くなるといわれています。
ここでは、高齢妊娠・高齢出産に伴う母体・胎児、そして分娩時のリスクについて解説します。
高齢妊娠による母体へのリスク
流産・死産
高齢妊娠では若年時に比べて、妊娠中や出産中に流産・死産が起こりやすいとされています。一般的には一回の妊娠における流産の確率は15%程度ですが、母体の加齢と共に確率が増加し、40歳以上になると約50%程度が流産になると考えられています。
加齢に伴って流産・死産が起こりやすくなる主な原因は、胎児が持つ染色体にあります。母体の年齢が上がるにつれて卵子の染色体異常が生じやすくなるため、流産や死産の確率が増加してしまうのです。
子宮のトラブル
女性は加齢に伴って子宮の機能が低下するため、妊娠・出産時にトラブルが起こりやすくなります。具体的な原因は明らかになっていませんが、高齢出産では早産・頸管無力症・前置胎盤・常置胎盤早期剥離などが起こりやすいとされています。
また、分娩時の大量出血や、帝王切開が必要となる確率の増加といったトラブルも起こりやすくなると考えられています。
妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病
高齢妊娠では、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病といった合併症にかかりやすいことがわかっています。特に、妊娠高血圧症候群は妊婦の約20人に1人と、妊娠中に起こる合併症の中でも発生頻度が高く、母体と胎児へのリスクも大きいため、注意が必要な疾患のひとつです。
妊娠高血圧症候群が起こりやすい原因については、現時点では明確な結論が出ていませんが、最近の研究では、胎盤で作られるさまざまな物質が全身の血管に影響を及ぼしているためではないかと考えられています。
また、妊娠糖尿病が起こりやすい原因としては、そもそも妊娠中は胎盤から出るホルモンの影響によりインスリンの働きが抑えられ、血糖値が上がりやすくなるためです。特に、妊娠後半では高血糖になりやすいため注意が必要です。妊娠糖尿病を適切に治療すれば、妊娠高血圧症候群を合併することを防げる可能性があるという研究結果もあります。
多胎妊娠
高齢になると妊娠率が低くなるため、不妊治療において、複数の胚を移植する傾向があります。結果として、高齢妊娠では多胎妊娠が増加しやすくなります。
高齢女性の自然妊娠による多胎妊娠が増えているという研究も一部存在しますが、明確なエビデンスはなく、不妊治療による多胎妊娠が増えているのではと考えられています。
高齢出産による胎児へのリスク
染色体異常・先天奇形
高齢出産では、染色体異常や先天奇形のリスクが高まることが知られています。それらの中でも、先天奇形や発達異常をきたす染色体の数の異常に「トリソミー」と呼ばれるものがあります。トリソミーの中でも有名なものに、13トリソミー・18トリソミー・21トリソミーがあります。それぞれ13番染色体、18番染色体、21番染色体に異常があります。
13トリソミーと18トリソミーは、重度の発達の遅れや心臓・脳などの奇形といった症状が現れる要因となり、原因のほとんどが精子や卵子形成時の染色体不分離とされています。
21トリソミーは、ダウン症候群とも呼ばれ、発達の遅れや心臓・消化器奇形などの症状がみられます。妊娠時の母親の年齢の上昇に伴って頻度が増えると考えられていますが、父親の精子形成時の染色体不分離が原因となることもあります。
新生児合併症・周産期死亡
高齢妊娠では、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病といった合併症が起こりやすく、それらと併せて胎児発育不全や早産のリスクが高まることが知られています。
特に、妊娠糖尿病は代表的な合併症のひとつで、妊娠糖尿病になると胎児に必要以上の栄養を届けてしまい、出生時の体重が増加したり、新生児低血糖などの合併症を引き起こすことがあります。
周産期死亡とは、妊娠満22週以後の死産と生後1週間未満の早期新生児死亡を併せたものをいいます。周産期死亡は合併症を持つ母体で起こりやすく、周産期死亡率は母体の年齢の増加に伴って上昇し、45歳以上では20代と比較して約3倍もリスクが高まるため、早期発見と早期治療が大切になります。
高齢出産による分娩時のリスク
難産
高齢出産では難産が起こりやすい傾向にあります。高齢出産ではさまざまな要因が複雑に絡み合い、難産が起こりやすくなります。
一つは、子宮口や産道が硬くなることです。子宮口や産道は加齢とともに硬くなるため、年齢を重ねるほど難産のリスクが高まります。
また、高齢出産では分娩時に胎児を押し出す力が弱まっていることも理由のひとつと考えられています。
2017年10月に発表された研究結果でも、母体年齢が高いほど帝王切開の頻度が高くなる傾向にあると報告されていることからも、高齢出産による分娩時のリスクは年齢が高いほど高くなると考えられます。
産後のトラブル
高齢出産では、産後の子宮の収縮が悪くなりやすく、子宮が元の大きさに戻らないことがあります。このことを子宮復古不全といい、高齢出産における代表的な産後トラブルのひとつです。
高齢出産に限らず、産後は疲れが回復しないことから母乳が出なかったり、産後うつを発症したりといったことも起こる可能性がありますが、若い時と比べて体力が回復しにくい人もいるため、できるだけ無理をせず過ごすことが大切です。
高齢妊娠・高齢出産にむけた体の準備
栄養バランスのよい食事
高齢妊娠に限らず、妊娠中は栄養バランスの良い食事を心がけることが大切です。塩分や糖分を控えることも大切ですが、特に意識して摂取したい栄養素が葉酸です。
葉酸はビタミンの一種で、母体の体内で血を作るのを助けたり、赤ちゃんの体を作るためのDNA合成に使われたりと、妊娠中は欠かせない栄養素なため、意識的に摂取しましょう。
なお、葉酸は水溶性ビタミンのため調理によって溶け出してしまうことが多いため、サプリメントなどの栄養補助食品からも積極的に摂取することを意識しましょう。また、葉酸の摂取により胎児の神経管閉鎖障害のリスクを低減する効果があると報告されているため、葉酸は妊娠前から摂取することが推奨されます。
妊娠・出産に必要な栄養素は、葉酸の他にも鉄分・タンパク質・カルシウム・食物繊維などさまざまあるため、緑黄色野菜を積極的に食べたり、不足していると感じた栄養素はサプリメントで補うなどして、いろいろな栄養素をバランスよく摂取することを心がけましょう。
適度な運動
妊娠中に運動することは、出産・産後に向けた体力づくりや体重管理などに役立ちます。妊娠中に体重が大きく増加すると、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病を発症するリスクが高まるため、体重をコントロールすることを目的として運動をすることも良いでしょう。
しかし、合併症がある方など、運動を控えた方が良い場合があるため、運動をする場合は必ず主治医と相談の上で実施しましょう。
また、転びやすいスポーツやお腹を圧迫するような激しい運動は避けましょう。
妊婦健診の受診
定期的に妊婦健診を受けることは、赤ちゃんの発育・健康状態を見るためだけでなく、母体の異常や病気の早期発見のためにも大切です。妊娠期間中を心身ともに健康に過ごし、無事に出産するためには、日常生活や食生活、周りの環境などさまざまなことに気を配る必要があるため、より安心して妊娠期間を過ごすためにも妊婦健診を受診することをおすすめします。
受診する頻度としては、妊娠初期から妊娠23週までは4週間に1回、妊娠24週から妊娠35週までは2週間に1回、妊娠36週から出産までは週1回程度の受診が目安になります1)。
おわりに
高齢妊娠・高齢出産は、年齢が若い頃の妊娠・出産と比べてリスクが伴いますが、妊婦健診などでこまめに医師とコミュニケーションをとり、指示を仰ぎながらリスク管理をしていけば、母体と赤ちゃんに起こりうるリスクを最小限まで軽減することも可能です。
参考文献
1)厚生労働省. 母子健康手帳の解説. 厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken13/dl/02.pdf