人工授精(AIH・AID)とは
人工授精とは、女性の排卵時期に合わせて、洗浄・濃縮した精液を子宮内に直接注入して妊娠を図る不妊治療法です。主に夫側の精液の異常や性交障害などに用いられます。人工授精の中でも、精子提供者が配偶者である夫の場合はAIH(Artificial Insemination with Husband’s semen)、精子提供者が夫ではない第三者の場合はAID(Artificial Insemination with Donor’s semen、)と区別されています。
人工授精と自然妊娠の違いは精液が入る場所だけで、受精から着床・妊娠までの過程は同じなため、自然妊娠に近い方法といえます。唯一の違いとしては、自然妊娠は腟から精液が入ってそこから精子が子宮に向かうのに対して、人工授精は直接子宮内に精液・精子が注入されるため、人工授精の方が精子と卵子が出会う確率が高くなると考えられている点です。
人工授精が向いている場合・向いていない場合
人工授精は有効な不妊治療法ですが、人によって向いているケースと向いていないケースがあります。代表的な、人工授精が向いているケースと向いていないケースをまとめると以下の通りです。それぞれについてより詳しい内容は表の後で解説します。
人工授精が向いている場合
人工授精が向いている主なケースは以下の通りです。
精液に軽度の異常がある
精液検査の結果、精子濃度が1600万/mlを下回る軽度の乏精子症や、精子の運動率が42%を下回る軽度の精子無力症など、精子の受精能力が低い場合は自然妊娠が難しくなります。人工授精をする際は、精液を遠心処理することで精子濃度や運動率を多少改善することが期待できるため、軽度の乏精子症や精子無力症には人工授精が有効だと考えられます。
性交障害がある
男性が勃起障害(ED)や腟内射精障害、精神的事情などで性行為はできないが、自身で射精をすることができる場合は、人工授精が有効だと考えられます。また、お互いまたはいずれかに性交痛があり、性行為ができない場合も有効でしょう。
頸管粘液(おりもの)と精子の不適合
子宮の入り口である頸管の粘液(おりもの)の量が少なかったり、あるいは相性の問題で精子が頸管粘液をうまく進めずに子宮内に入り込めなかったりすることが原因で不妊になっている場合は、人工授精が向いています。人工授精の場合は、管を使って直接子宮内へ精液を届けることができるため有効だと考えられています。
原因不明の不妊症
自然妊娠で妊娠しない、あるいはタイミング療法を6周期以上行っても妊娠が成立しないなど、不妊の原因がわからない場合に、体外受精を行う前に人工授精を試してみることが有効な場合もあります。
人工授精が向いていない場合
人工授精が向いていない主なケースは以下の通りです。
精子に重度の異常がある
人工授精はあくまで精子を子宮に届けるまでをサポートする治療法のため、子宮に到着してから先に精子が自力で受精できる能力を有していることが前提条件になります。そのため、重度の乏精子症や精子無力症などで精子の状態が極端に悪い場合、人工授精は向いておらず、体外受精や顕微授精などによるアプローチを検討した方が良いでしょう。
卵管に癒着や閉塞がある
人工授精は精液を子宮内に直接注入して妊娠を図る治療法のため、受精以降の部分で問題がある場合は人工授精は向きません。よって、卵管に癒着や閉塞などがあり受精がしづらかったり、あるいは受精できても受精卵が子宮まで辿り着けなかったりするような状況には人工授精は向いていません。
人工授精を3~4回以上続けても妊娠しない
人工授精の1回あたりの妊娠率は通常5〜10%で、人工授精を4周期以上行った累積妊娠率は、40歳未満で約20%、40歳以上で10〜15%です。また、人工授精によって妊娠した人の妊娠例については、88.0%が4周期以内に妊娠しています。
4周期の人工授精を行っても妊娠しない方に、人工授精を5周期以上続けた場合は、若年女性であってもわずか3〜5%しか妊娠を期待できないのが現状です。そのため3〜4周期人工授精を行っても妊娠しない場合は体外受精を検討することをおすすめしています。
女性の年齢が高い
女性の年齢が高くなるにつれて、人工授精による妊娠の成功率が低くなる傾向にあります。目安としては40歳以上の場合は、人工授精ではなく体外受精を検討することをおすすめします。
人工授精のスケジュール
人工授精の大まかな流れとしては、月経が来た段階で医師と今後の方針を決め、検査を実施し排卵日を特定した後、排卵日の直前または当日に精子を子宮に注入するといった工程になります。月経開始日から数日後を目安に開始し、月経28日目以降で妊娠判定を実施するので、全体通して約4〜5週間程度かかります。全体の流れのイメージは以下の通りです。
次に、上記の画像に記載した人工授精のスケジュールの具体的な内容について解説します。
1.人工授精実施日を決めるための検査の実施
月経1日〜5日目くらいで最初に来院し、今の周期で人工授精を行うのか、どのタイミングで検査を実施するのかといった治療方針を決めます。場合によっては、この受診の際に超音波検査や血液検査を実施したり、排卵誘発剤が渡されたりすることもあります。
2.超音波検査の実施
月経10日目~14日目頃に、排卵日を正確に特定するための超音波検査を実施します。超音波検査では、卵胞の大きさや子宮内膜厚を計測し、卵胞が十分な大きさ(20mm前後)に発育していることが確認できたら、排卵誘発剤の注射と人工授精を行う日程を決めます。
3.排卵誘発の実施
自宅またはクリニックでhCG注射による排卵誘発を行います。hCG注射を打つと約36時間前後で排卵するとされています。
4.人工授精当日
■精子の準備
1.当日自宅で採精した精液を持参します。(凍結精子を使用する場合もあります)
2.精液の洗浄・濃縮を行います。(所要時間:約60〜90分)この間は、院内で待つことも院外で待つことも可能です。詳しくはクリニックの医療スタッフまで直接お声がけください。
■女性側の準備
1.外来診察室(内診台)にて、卵胞の状態や子宮の傾きを経腟超音波で確認します。
2.腟内に腟鏡(クスコ)を挿入します。
3.腟内を洗浄します。
4.子宮内に細いカテーテルを挿入し精液を注入します。細いカテーテルを使用するため痛みを伴うことはまれです。カテーテルが入りにくい場合は鉗子(かんし)と呼ばれる器具を使用することがあります。
5.人工授精後の排卵と黄体機能の確認
黄体ホルモンの分泌が低いと着床が阻害されやすくなるため、黄体機能が正常に働いているかの確認を実施します。黄体機能の改善が必要と判断された場合は、黄体補充療法と呼ばれるホルモン分泌を促す処置を行います。
6.妊娠判定
月経予定開始日を過ぎても月経が来ない場合は、血液検査でhCGホルモンを測定するなどして妊娠判定を実施します。
人工授精とタイミング法との併用は可能?
人工授精とタイミング法を併用することは問題ありません。人工授精によって精液を子宮に注入した後も特段安静にする必要はなく、普段通り性行為を行っても構いません。
ただし、男性によっては人工授精の前日に性行為を行うと精子の量や質に影響する可能性があるので、タイミング法の実施タイミングについては、一度主治医に相談することをおすすめします。
人工授精後の過ごし方
人工授精後にしてはいけないこと、しても問題ないことといった過ごし方について解説します。
入浴・シャワー
人工授精当日は、感染予防のために入浴・温泉は控えましょう。翌日以降の入浴は問題ありません。シャワーについては人工授精当日からでも大丈夫です。
運動
人工授精の処置後当日は、激しい運動は控えましょう。翌日以降は特に安静にする必要はなく、普段通り運動をしても問題ありません。なお、処置後すぐですと膣内から洗浄液などの液体が漏れ出てくることがあるため、その点に留意しましょう。
飲酒
人工授精当日の飲酒は、妊娠の結果に影響が出る可能性があるため控えてください。処置の翌日以降に飲酒する場合は、適度な量を心がけましょう。
仕事
仕事や日常生活については、人工授精当日から普段通り行って構いません。ただし、激しい運動を伴うような仕事は控えましょう。
性行為
人工授精後は当日から性行為をしても問題ありません。
日常生活で気をつけた方がよいことは?
人工授精後に日常生活で気をつけた方がよいことは特にありません。強いて挙げるとすれば、人工授精当日は傷がついている可能性も踏まえて感染予防のために、不特定多数の人が利用する温泉・プールなどを利用するのは控えることです。
よくある質問
人工授精での妊娠率はどれくらいですか?
人工授精の1回あたりの妊娠率は通常5〜10%で、人工授精を4周期以上行った累積妊娠率は、40歳未満で約20%、40歳以上で10〜15%です。また、人工授精によって妊娠した人の妊娠例については、88.0%が4周期以内に妊娠しています。そのため3〜4周期人工授精を行っても妊娠しない場合は体外受精を検討することをおすすめしています。
人工授精を受ける回数の上限は決まっていませんが、その効果を考慮すると、最大でも6〜7回程度と一般的には考えられています。
人工授精の成功率を上げる方法はありますか?
人工授精の成功率を上げる方法としては、ご夫婦ともに心身が良い状態で人工授精当日を迎えることが挙げられます。ストレスやホルモンバランスの影響で、男性は精子の質に、女性は受精卵の着床に影響を与えてしまう可能性があるためです。そのため、人工授精当日に向けて仕事量や生活リズムの調整を図ることは、人工授精の成功率を高める効果が期待できます。
また、細かいところでいうと、人工授精当日に採精した精液は精子の質を維持するために、なるべく早めに持参することを推奨します。
人工授精で痛みはありますか?
人工授精時は細いカテーテルを使用するため、痛みを伴うことはまれです。そのため、麻酔や鎮痛剤は使用しません。もし不安な気持ちがある場合は、主治医に事前にご相談ください。
おわりに
トーチクリニックでは、医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。
恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週7日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。
不妊治療にご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ご予約はウェブからも受け付けております。
また、すでに不妊治療を受けている方々のお悩みやセカンドオピニオンにも対応しております。セカンドオピニオンを含めたクリニックへのよくあるご質問はこちらをご参考ください。