クロミッド(成分名:クロミフェンクエン酸塩)は、ホルモンの分泌を促進して卵胞の成長を促し、排卵を誘発する薬です。不妊治療では、排卵誘発の最初の選択肢として投与されることの多い薬です。
本記事では、クロミッドの服用によるクロミフェン療法のメリットや副作用について解説します。
クロミッドの働き
クロミッドに含まれる成分には、体内でエストロゲン(女性ホルモン)の働きを抑える効果があります。これにより、脳の視床下部からエストロゲンがたくさん分泌され、卵胞発育を促進します。
クロミッドの作用で、視床下部からGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌され、これが下垂体を刺激して、LH(黄体形成ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌を増加させます。
これらのホルモンの分泌が促進されることによって、卵胞の発育が進み、充分に発育すると排卵が誘発されます。また、LHやFSHの増加により、複数の卵胞が発育することがあります。
クロミッドは、次のような症例や治療目的で使用されます。
・比較的軽度の排卵障害
・排卵があっても妊娠しないような症例
・人工授精の周期で適切な排卵日を設定するため
クロミッドの服用により起こる可能性のある副作用
クロミッドは不妊治療で排卵誘発の最初の選択肢として投与されることの多い薬ですが、主な副作用として以下のようなものが報告されています1)。
・目のかすみなどの視覚症状
・頭痛
・気分の浮き沈み、いらいら
・発疹
・吐き気や嘔吐、食欲がなくなるなど胃腸の不調
・肝機能への影響(AST上昇、ALT上昇、ビリルビン上昇、γ-GTP上昇)
・吹き出物
・脱毛
・顔面が赤くなる
・尿量の増加
・口の渇き
・疲労感
その他にまれに見られる重大な副作用として、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)があります。OHSSの初期症状として、下腹部痛、お腹が張る、吐き気があります。これらの症状が続く場合には、医師に相談しましょう。
目のかすみなどの副作用リスクがあるので、服用後には自動車の運転や複雑な機械の操作などはしないようにしてください。
クロミッドを服用するメリット
クロミッドを使用するクロミフェン療法による排卵誘発には、次のようなメリットがあります。
・薬の内服のみで、注射による治療法よりも身体への負担が少ない
・通院回数が比較的少なくてすむ
・治療費用が、他の排卵誘発法と比較して安価
・OHSSや多胎の発生の可能性が低く、副作用も少ない
上記のようなメリットがある一方で、薬による抗エストロゲン作用により、次のような症状が起きて、受精や着床に影響が出ることもあります。
・頸管粘液(子宮頸管から分泌される粘液)の減少
・子宮内膜が薄くなる
これらの懸念点を踏まえて、人工授精や、他の薬を併用した治療が行われることがあります。
クロミッドの服用方法
排卵誘発のためにクロミッドを服用する場合は、月経周期に合わせて一定期間服用します。
・服用開始:月経開始後5日後に開始。
・服用期間:一般的に5日間連続して服用。
・服用量 :通常は1日1回50mgの服用から始めますが、効果が不十分な場合、次の周期から医師の判断で、1日100mgに増量することもあります。100mgに増量した場合も1日1回で服用します。
この薬を用いた治療は最長で6クール(周期)まで行い、効果が得られない場合は、医師の判断で、次の治療法にステップアップします。
飲み忘れたときの対処法
飲み忘れたと気づいた場合、その日の内であればすぐに服用してください。
すでに、次の日になっている場合には、1回飛ばして、いつも服用する時間に決められた1回当りの量を服用してください。
一方、誤って多く服用してしまった場合、すでに服用したのに、また服用してしまったなどの場合は、医師や薬剤師に相談してください。
クロミッドに関連したよくある質問
クロミッドの服用や副作用について、よくある質問をまとめたので、参考にしてください。
Q:クロミッドを服用したらいつ排卵が起こる?
クロミッドの5日間の服用期間終了後の7〜10日後に排卵が起きることが多いです。
基礎体温を計って、排卵後の体温上昇のタイミングを把握するようにしましょう。そして、病院で排卵検査薬や超音波検査などで、排卵しているかを確認します。
Q:クロミッドを服用すると太ったりうつや眠気の副作用がでたりする?
クロミッドの副作用として、肥満、眠気などの症状は、薬の添付文書(厚生労働省の規定に基づいて、医薬品製造販売企業が作成する文書)にも記載されていません。
併用される治療薬によっては、そのような症状が出る可能性もわずかながらあります。
クロミッドと併用されることのある、ジドロゲステロン(製品名:デュファストン)は黄体ホルモンの分泌を補助する薬ですが、体重増加や眠気などの症状が、まれに起きることもあります。
そのほか、クロミッドでは頻度は高くないものの、精神変調や情動不安といった精神神経系の副作用が報告されています1)。うつのような症状は、これらの精神神経系の副作用である可能性もあるため、症状が見られた場合は医師に相談するようにしましょう。
Q:クロミッドは男性にも使用される?
クロミッドには、男性の乏精子症に対する治療として、クロミッドが使用される場合があります。
この治療の場合は、1日おきにクロミッドを服用します。
ホルモンの分泌を促し、精子の数や運動率の改善するために、クロミッドを治療薬として用います。
Q:クロミッド以外の排卵誘発剤にはなにがある?
不妊治療に用いられる排卵誘発剤には、その他に以下のようなものがあります。
クロミッドと同様の経口剤には、レトロゾール(製品名:フェマーラ、レトロゾール)、シクロフェニル(製品名:セキソビット)などがあります。
レトロゾールはアロマターゼ阻害剤と呼ばれる薬で、以前は乳がんの治療薬として使われていて、最近は不妊治療でも保険適用になりました。クロミッドと比較して、子宮内膜への影響や、多胎妊娠のリスクが少ない薬です。
シクロフェニルは、クロミッドに似た効果をもち、穏やかな効果を持つ薬です。
また、排卵誘発剤には注射薬や点鼻薬もあります。
注射薬には、卵胞の成長を促すゴナドトロピン製剤、卵胞が成長したタイミングで投与して排卵を促すhCG製剤などがあります。
GnRHアゴニスト製剤という点鼻薬は、成長が不十分な段階で卵胞が排卵しないよう、排卵のタイミングを調整します。
Q:妊娠しやすいタイミングはいつ?
妊娠しやすいのは、排卵した卵子が精子と出会うことのできるタイミングです。
排卵した卵子の受精可能なのは約24時間、精子は女性の体内に入ってから3〜5日間は受精可能です。そのタイミングの中でも、卵子の受精確率が高いのは約10数時間と限られています。
排卵日の5〜6日前から排卵日までに複数回の性交渉を持つことで妊娠の可能性があり、特に排卵日の1〜2日前の性交渉が妊娠しやすいタイミングと言われています。
Q:排卵日の予測をしたいときはどうすればよい?
まずは、月経周期、基礎体温、おりものの状態といった体調の変化から、排卵日はだいたいこの日あたりというのを予測してください。そして、排卵日予測検査薬の使用や、病院での超音波検査を受けるようにします。
月経周期が安定している場合、28日周期の場合は月経の開始から14日目ぐらい、30日周期の場合は16日目ぐらいが排卵日の目安です。
ただし、排卵日は変動しますし、月経が不安的な方もいるので、基礎体温を計って体温の変化のタイミングを捉えるようにしましょう。月経周期の安定、不安定に関わらず、妊活中には基礎体温の計測をしてください。排卵日後から高温期に入るので、2か月は基礎体温を計測してみて、体温の変化のタイミングを把握してください。
排卵日直前には、卵胞ホルモンの分泌がさかんになるので、おりものの色は透明に近く、伸びやすい状態で量も増えるようになります。
また、排卵日予測検査薬は、より正確に排卵日を予測できます。病院で処方してもらうか、市販の第一種医薬品の購入でも入手が可能です。尿の中の黄体形成ホルモン(LH)の濃度を測定して、排卵日を予測します。ただし、不妊治療中や月経不順の方の中には排卵日を正確に予測できない場合もあります。
Q:タイミング療法とは?
医師の指導のもとで、妊娠の確率の高いタイミングで性交渉を持つ治療法です。
タイミング療法では、排卵日前の妊娠しやすい数日間のタイミングに、性交渉を持って妊娠成立を待ちます。クロミッドのような排卵誘発剤の服用とタイミング療法を組み合わせて4〜6か月間継続して、妊娠が確認されない場合は、医師の診断によって次のステップの治療へと進みます。
タイミング療法については、こちらの記事で詳しく解説しているので、関心のある方は参考にしてください。
参考:タイミング療法 | 東京渋谷区の不妊治療専門クリニック torch clinic(トーチクリニック)
Q:人工授精とは?
人工授精は、パートナーから採取した精子を子宮腔内に注入する治療法です。タイミング法で妊娠が見られなかった次のステップとして行われる治療です。
排卵直前から排卵日のタイミングに精子をカテーテルで注入します。人工授精のタイミングに、成長した卵胞が排卵されるように、排卵誘発剤を使用することがあります。
性交障害など、不妊原因が明確な場合に向いている治療です。当院では、排卵のタイミングごとに3〜4周期実施して妊娠の効果が得られなかった場合に、次のステップに進みます。
人工授精についての記事もあるので、関心のある方はこちらも参考にお読みください。
参考:人工授精 | 東京渋谷区の不妊治療専門クリニック torch clinic(トーチクリニック)
おわりに
トーチクリニックでは、将来妊娠を考えている方向けのブライダルチェックなども提供しています。ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。
恵比寿駅・上野駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、土曜日も開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。
医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。
ブライダルチェックにご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ブライダルチェックのご予約はウェブからも受け付けております。
また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考ください。
参考文献
1)富士製薬工業株式会社 クロミッド錠50mg 添付文書
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2499009F1080_2_07/?view=frame&style=XML&lang=ja