妊婦が風邪をひいたときに薬は使える?|頭痛や咳止めの成分、妊娠初期に使えるかなど解説

最終更新日時:
2024-10-16
市山 卓彦
市山 卓彦 医師
院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

妊婦が風邪をひいたとき、使用できる薬はあります。ただし、成分によっては、赤ちゃんの発育に影響を及ぼす薬もあるため、自己判断での服用は避けた方がよいでしょう。特に、赤ちゃんの器官が形成される妊娠初期は、赤ちゃんへの影響が大きいことがあるため、注意しなければなりません。薬は、産婦人科医の診察を受けてから服用することが推奨されます。

妊婦が風邪をひいたら薬を飲んでいい?

結論としては、産婦人科医の診察を受け、指示や許可のもとであれば服用できます。

市販薬を安易に服用するのは避けてください。妊婦が使用できる薬には制限があり、胎児への影響を考慮する必要があるためです。妊娠週数や症状によって適切な薬も変わるため、しっかり状況を伝え、適切な薬を服用するようにしましょう。

妊娠中の赤ちゃんへの薬の影響

妊娠中の薬の影響は、妊娠の時期によって異なります。

4週未満は器官形成前です。妊娠に気づかずに薬を服用してしまっても、妊娠が継続できていれば大きな影響はないと考えられます。ただし、まったく気にせず服用してよいわけではありません。残留性のある薬には注意が必要です。

4〜7週の絶対過渡期、8〜15週の相対過渡期は赤ちゃんの器官が作られる重要な時期です。薬の影響を受けやすく、奇形のリスクが高まるため注意しなければなりません。

16週以降の潜在過渡期は、妊婦が飲んだ薬の成分を、胎盤を通じて赤ちゃんが吸収します。動脈管の収縮に影響を及ぼすとされる成分を含んだ痛み止めなどは、妊娠後期には避ける必要があります。

妊婦が風邪をひいたときの対処法

風邪をひいたときは、症状が軽ければまずは自宅で様子をみます。

食事は、消化がよく、栄養バランスのよいメニューを心がけましょう。食欲がない場合は、アイスやプリンなどもおすすめです。こまめに水分をとり、脱水にならないよう注意してください。睡眠も十分にとるようにしましょう。

部屋の温度や湿度管理も大事です。夏の室温は25〜28℃、冬の室温は17〜22℃が望ましいとされています。湿度は40〜60%を目安にするとよいでしょう。

水分や食事がほとんどとれない、高熱が続いている、症状が重くてつらいなどの場合は、受診をおすすめします。

妊婦が風邪のとき市販薬には注意

市販の風邪薬には複数の成分が含まれており、自己判断で服用するのはおすすめできません。胎児への影響が懸念される成分が含まれる薬もあるためです。市販薬は服用せず、必ず受診して医師の判断で薬を使うようにしましょう。

妊婦が使える症状別の薬の成分と注意する成分

妊娠中でも使用できる薬はあります。受診して医師の判断のもとであれば安心して服用できます。用法用量を守って使用するのが重要です。ここでは以下の項目別に、使用できる成分を解説します。

  • 熱や痛み
  • 咳・痰
  • 喉の炎症
  • 総合感冒薬
  • 吐き気止め
  • 抗生物質
  • 漢方薬
  • その他注意したい成分

一つずつ解説しますので、参考にしてください。

熱や痛み(頭痛など)

熱や頭痛で使用できる成分の代表例は、アセトアミノフェン(製品名:カロナールなど)です。アセトアミノフェンは胎盤を通過しますが、通常量を短期間使用するのは問題ないとされています。

一方注意が必要なのは、ロキソプロフェン(製品名:ロキソニン)、イブプロフェン(製品名:ブルフェンなど)、アスピリン(バファリンなど)です。28週以降に使用すると、赤ちゃんへの影響が考えられるため、禁忌とされています。

また、モーラステープなど痛みに使用される貼り薬も、28週以降は禁忌であるため、注意してください。

咳・痰

咳止めで使用できる成分の代表例は、デキストロメトルファン(製品名:メジコン)で、昔からよく使われている成分です。一方、コデイン(フスコデなど)を成分として含む薬剤は注意が必要とされています。

去痰薬のカルボシステイン(製品名:ムコダイン)やアンブロキソール(製品名:ムコソルバン)は、使用してもほぼ問題はありません。

喉の炎症

喉の炎症に使用される成分の代表例は、トラネキサム酸(製品名:トランサミン)です。炎症や止血で用いられることの多い薬です。人間の赤ちゃんへの影響は報告されていません。

総合感冒薬

総合感冒薬の成分でよく使用されるのは、以下の成分です。

  • アセトアミノフェン
  • サリチルアミド
  • 無水カフェイン
  • プロメタジン

これらの成分を含む薬の代表例がPL顆粒で、妊娠中の使用は問題ないとされています。

とはいえ、総合感冒薬の種類はさまざまです。上記以外の成分も含まれるため、自己判断での使用は避けるようにしてください。必ず医師に相談してから服用しましょう。

吐き気止め

風邪で吐き気を伴う場合、プリンペラン(製品名:メトクロプラミドなど)が使用されます。つわりでも使われる成分で、安全性が確認されています。

抗生物質

一般的な風邪に対して、抗生物質は使用されません。ただし、風邪の症状に似た細菌性の病気や肺炎など、悪化が懸念されるときに使われる場合もあります。

ペニシリン系(サワシリンなど)やセフェム系(フロモックスやメイアクトなど)、マクロライド系は比較的安全性が高いです。必要に応じて妊婦さんに使われます。

漢方薬

普通の風邪では香蘇散(こうそさん)、咳や鼻の症状が強い場合は参蘇飲(じんそいん)、乾いた咳が出るときは麦門冬湯(ばくもんどうとう)が使用される傾向です。

有名な葛根湯(かっこんとう)は、麻黄の成分を多く含み、子宮収縮のリスクがあるため、妊婦さんには推奨されません。

漢方薬は安心だと思われやすいですが、副作用のリスクもあるため、医師に相談するようにしてください。

その他に注意したい成分

その他妊婦さんの風邪で注意したいのは、うがい薬に含まれるポピドンヨード(製品名:イソジン)です。多用するとヨウ素の過剰摂取のリスクがあります。胎盤を通してお腹の赤ちゃんの甲状腺に蓄積し、甲状腺機能低下を引き起こす恐れがあります。通常の使用量では問題ありませんが、過度に使用することは避けましょう。

妊娠期間別の注意点

妊娠期間は初期・中期・後期に分類されます。薬の服用についてはすべての期間で注意が必要ですが、もっとも注意したいのは、妊娠初期です。赤ちゃんにとって大切な器官が形成される時期だからです。それぞれの時期の注意点をみていきましょう。

妊娠初期(〜13週)

妊娠初期(13週まで)はとくに注意したい時期です。無影響期(4週未満)、絶対過敏期(4〜7週)、相対過敏期(8〜15週)に分けられます。

妊娠超初期の無影響期(4週未満)に薬を飲んでしまっても、妊娠が継続していればさほど心配はありません。ただし、残留性のある薬には注意が必要です。たとえば、リバビリン(抗ウイルス薬)、レフルノミド(抗リウマチ薬)といった薬です。

絶対過敏期(4〜7週)は赤ちゃんの体の器官形成期であり、奇形の有無にも関わるため、薬の服用にはもっとも注意しなければなりません。相対過敏期(8〜15週)も引き続き注意が必要です。

妊娠中期(14~27週)

妊娠中期(14〜27週)は相対過敏期(8〜15週)と潜在過敏期(16週〜)に該当します。相対過渡期も注意が必要な時期です。

潜在過敏期では、奇形の心配はほぼなくなりますが、薬の成分は胎盤を通じて赤ちゃんにも移行します。成分によっては赤ちゃんの発育への影響が懸念されるため、慎重に薬を使用する必要があります。

市販の解熱鎮痛薬でも注意が必要な成分があるため、服用前は必ず医師に相談してください。

妊娠後期(28週〜)

妊娠後期(28週~)は引き続き潜在過敏期です。妊娠中期と同じように注意しましょう。

痛み止めの多くは、赤ちゃんにとって大切な「動脈管」を閉ざすように働いてしまいます。また、妊娠後期の羊水量を少なくし、赤ちゃんへ影響を及ぼす場合があります。そのため、妊娠後期には解熱鎮痛成分に注意が必要です。

アスピリン、イブプロフェン、モーラステープなどは、妊娠後期から禁忌となります。薬は自己判断で使用しないことが大事です。

風邪だと思ったら違う感染症だった場合

インフルエンザや新型コロナウイルス感染症は、熱や咳など、風邪と似たような症状がみられるため、風邪と間違われる場合も多いです。どちらも妊娠中に感染すると重症化のリスクがあるため、予防が大切です。

インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の特徴を解説します。

インフルエンザ

妊娠中は免疫力が低下している状態です。インフルエンザに感染すると重症化しやすいため、かからないように注意してください。

インフルエンザでみられる症状は以下のとおりです。

  • 38℃以上の高熱
  • 関節痛
  • 頭痛

普通の風邪症状に加え、38℃以上の高熱や関節痛がみられたら、インフルエンザの可能性があります。インフルエンザに感染した場合、抗インフルエンザ薬(タミフル・リレンザ)が処方されます。発症から48時間位内の服用が大事であるため、早めに受診するようにしてください。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

新型コロナウイルス感染症も妊娠中に感染した場合、重症化のリスクが高いとされています。

新型コロナウイルス感染症でみられる症状は以下のとおりです。

  • 喉の痛み
  • 全身の強いだるさ
  • 発熱
  • 味覚異常
  • 嗅覚異常

喉の痛みや強い倦怠感、37.5℃以上の発熱が数日続きます。オミクロン株以降は、新型コロナウイルスの特徴的な症状であった味覚異常や嗅覚異常は減少傾向です。新型コロナウイルスが疑われる場合は、かかりつけの産婦人科に連絡するようにしましょう。

妊婦は予防が大事

薬は安全性が高いといわれているものでも、100%とは言い切れない面があります。できる限り使わないようにするのが望ましいです。

風邪は普段からの予防が大事です。栄養バランスのとれた食事や十分な睡眠をとるなど生活習慣を整えましょう。うがいや手洗いをこまめに行い、予防に努めてください。

よくある質問

妊娠中の薬服用に関する質問をまとめました。

Q:妊娠中に風邪の市販薬を飲んでしまったけど大丈夫?

数回程度の使用であれば、過度な心配は不要です。市販の風邪薬は、病院の薬より成分の配合量が少なく、効き目がおだやかで、赤ちゃんへの影響は低いとされています。

妊娠したことに気づかず、無影響期(4週未満)に薬を飲んでしまっても、妊娠が継続していれば、心配ないでしょう。

妊娠がわかってから服用した場合は、必ず医師に報告し、自己判断で継続しないようにしてください。

Q:安全な成分であれば医師に確認せずに市販の薬を使ってもいい?

原則、医師の判断を仰ぐのが望ましいです。妊娠中に使用できるとされている薬でも、まったく影響がないとはいえないためです。

たとえば、安全性が高いといわれているアセトアミノフェンも、注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラムとの関連性の疑いが報告されています。長期の連用や高用量の使用は避ける必要があります。自己判断は難しいため、緊急でなければ医師に相談してから使用するようにしてください。

Q:妊娠中に風邪で飲んだ薬が赤ちゃんに影響するのはどの時期?

妊娠中は、どの時期でも影響が出る可能性があります。

無影響期(4週未満)はほぼ心配はありませんが、残留性のある薬は注意が必要です。

絶対過敏期(4〜7週)、相対過敏期(8〜15週)はとくに赤ちゃんの発育に影響を及ぼしやすく、奇形などに注意が必要です。

潜在過敏期(16週〜)でも赤ちゃんの発育に影響が出る可能性があります。

妊娠後期(28週〜)は、とくに解熱鎮痛剤の成分に注意しましょう。

おわりに

トーチクリニックでは、将来妊娠を考えている方向けのブライダルチェックなども提供しています。ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。

トーチクリニックは恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週7日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。

医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。

ブライダルチェックにご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ブライダルチェックのご予約はウェブからも受け付けております。

また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考ください。