男性不妊のうち、精子を作る機能の異常が原因として最も可能性が高いと言われています。男性不妊症の方のうち、10人に1人が診断されるという無精子症ですが、自覚症状はあるのでしょうか?
この記事では、2つの無精子症について、症状や原因、治療法をそれぞれ解説していきます。
無精子症とは
無精子症とは、射精できるにもかかわらず、精液中に精子が見つからない状態のことです。精液中の精子が基準値未満の場合は乏精子症、全く見つからない場合は無精子症と診断されます。射精ができない射精障害とは異なるため、注意が必要です。
男性100人に1人が無精子症であると報告されており、男性不妊症の患者さんのうち、約10人に1人が無精子症だと言われています。精液の見た目で判断することは難しいため、医療機関で精液検査を受ける必要があります。
精子が作られる仕組み
精子は精巣(睾丸)で約70日間かけて作られ、精巣の横にある精巣上体で成熟し、射精のタイミングまで蓄えられます。精巣上体は精管を通じて射精管とつながっており、性的刺激により脳から指令が出ると、精子は精管を通り、精囊液、前立腺液と混ざって尿道へ排出されます。

無精子症の検査と診断
精液検査を最低でも2回行い、精液中に精子が見つからない場合は無精子症と診断されます。
検査方法としては、2〜7日間の禁欲(射精を行わない)期間を過ごした後、マスターベーションにて精液全量を採取します。射精した翌日に採取した精液での検査は推奨されていません。これは、前回の射精から時間を空けていないと本来の精液を正しく評価できないためです。
なお、精子所見は日々変わるため、1回の精液検査の結果で全てを判断することはできません。1回目の検査結果が不良であっても、当院では3か月後の再検査を推奨しています。
無精子症の種類と原因・治療
無精子症は、大きく「閉塞性」無精子症と「非閉塞性」無精子症に分けられます。
症状や精巣の大きさ、ホルモンなどには、一般的に以下の表のような違いがあるとされています。非閉塞性無精子症の場合、FSHやLHは高値を示すことが多いですが、例外もあります。
閉塞性無精子症

閉塞性無精子症の症状
閉塞性無精子症は、精子を作る機能に問題がありません。精子は精巣で作られた後、精巣上体→精管→射精管→尿道の順に通って射精されますが、閉塞性無精子症の場合この経路のどこかに異常があるため、精液に精子が含まれません。
精巣の大きさは正常とされ、平均的な大きさは約4〜7cm、容積は20〜25mL程度です。また、血液検査にて調べるホルモン(テストステロン、FSH、LH)の値も正常範囲内です。
閉塞性無精子症の原因
原因としては、以下のような先天的な疾患、過去の炎症や手術歴によって経路の異常が見られることがあります。
- 先天性両側性精管欠損症
- 射精管の閉鎖
- 鼠径ヘルニアの手術
- パイプカット手術
- 精巣上体炎
- 前立腺炎
閉塞性無精子症の治療
薬物治療による改善は期待できないため、精路再建手術が第一選択となります。閉塞する経路によって手術方法が異なります。
通過障害が改善されれば、精液中に精子が認められるようになり、自然妊娠も期待できる治療法です。ただし、閉塞している部位の長さが長い場合(先天性の精管欠損症など)には、手術での治療が難しいとされています。
子どもを希望する場合、精巣内精子採取術(TESE)を行うことで妊娠・出産が期待できます。TESEは、針で精巣から精細管を吸引する方法や、精巣を少し切開して精子を採取する方法があります。
非閉塞性無精子症

非閉塞性無精子症の症状
非閉塞性無精子症は、精子を作る機能に問題があり、精巣で精子が作られないため精液中に精子が認められません。閉塞性か非閉塞性かは、ホルモンの値や精巣の大きさからある程度判断できるとされています。血液検査で調べるホルモン(FSH、LH)の値は高値を示し、精巣の大きさが小さいことが特徴です。
非閉塞性無精子症の原因
前述した男性性腺機能低下症は、遺伝学的な異常によって起こることが知られています。この異常には先天的なものと後天的なものがあります。
先天的な異常:
- 染色体の異常
- 遺伝子の変異
後天的な異常:
- 自己免疫疾患などの内分泌障害
- 交通事故
- くも膜下出血
- 小児がん
ただし、原因不明なことが多いのも現状です。
非閉塞性無精子症の治療
閉塞性無精子症と同様に、基本的には薬物治療による改善は難しいとされ、手術療法が第一選択となります。
子どもを希望する場合、顕微鏡下精巣内精子回収法(MD-TESE)が行われます。MD-TESEでは、陰嚢を切開して精巣を露出させ、顕微鏡を用いて精子が存在しそうな部位を採取します。しかし、残念ながらMD-TESEを実施しても精子を採取できないことがあります。
例外として、非常に稀ではありますが、FSH、LHなどのホルモンが低いことによる非閉塞性無精子症の場合には、ホルモンを補充する薬物療法が選択される場合があります。
無精子症に関するよくある質問
Q:顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE;Microdissection-TESE)は痛いですか?
施設によって異なりますが、全身麻酔または局所麻酔を使用した手術となります。麻酔を使用するため、術中の痛みはありません。術後は、内服薬や座薬を用いて痛みをコントロールします。
Q:無精子症をセルフチェックすることはできますか?
最近は、スマートフォンのアプリや薬局、ドラッグストア、家電量販店で販売されている検査キットを使用して、自宅で精子のセルフチェックが可能です。
ただし、精液中に精子が全くない無精子症かどうかを正確に判断するには、医療機関での精液検査が必要です。
自宅でも簡便な検査は可能ですが、精液の状態を正確に判断するためには専門の医療機関の受診をおすすめします。特に以下の項目に当てはまる方は無精子症の可能性があるため、早めに受診しましょう。
- 不妊期間が1年以上ある
- 鼠径ヘルニアの手術をしたことがある
- 陰嚢が腫れている
- 精巣が小さい
Q:無精子症と診断された場合、自然妊娠する確率はないのでしょうか?
無精子症の場合、自然妊娠の可能性は原因によって異なります。
閉塞性無精子症では、精路再建手術により自然妊娠の可能性が期待できます。
- 精管の閉塞が原因の症例に対して行われる顕微鏡下精管精管吻合術では、術後に約80〜90%の確率で精液中に精子が認められます1)。
- 原因によって、精管精巣上体吻合術や射精管解放術などの精路再建手術も行われます。
- 自然妊娠の可能性は、原因や閉塞期間、手術方法によって変わります。
非閉塞性無精子症では、残念ながら自然妊娠は難しいとされています。
- 人工授精や体外受精などの生殖補助医療を検討します。
- 顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE)で精子を採取し、顕微授精を行う方法もあります。
自然妊娠の可能性が低くとも、専門医による適切な検査や治療を受けることで、妊娠することは可能な場合があります。無精子症の種類や原因によって治療法が異なるため、詳細な診断と個別の治療計画が必要です。
おわりに
参考文献
1)日本生殖医学会.生殖医療Q&A Q15. 男性不妊の場合の治療はどのようになるのですか? 日本生殖医学会ウェブサイト.
https://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa15.html