不妊治療のステップアップとして、タイミング法の次に人工授精という選択肢があります。
本記事では、人工授精の方法や妊娠率、費用、次へのステップに進む基準、メリット・デメリットなど、人工授精にまつわるさまざまな疑問を解説します。最後に具体的な治療の流れも説明しているため、参考にしてください。
人工授精とは
人工授精は不妊治療において、タイミング法の次にステップアップする治療法です。
この方法では、男性の精液を採取し洗浄した後、運動率の高い精子を選んで子宮内に直接注入します。
精液を洗浄するのは、直接精液を子宮内に注入すると感染する可能性が高まるためです。また、精液に含まれるプロスタグランディンという物質により子宮が収縮し、腹痛を引き起こすことがあるためでもあります。
人工授精と自然妊娠との違いは、精子が入る方法と場所だけです。着床から妊娠までの流れは変わらないため、自然に近い妊娠方法といえます。
人工授精の場合は、腟の先にある子宮内に直接精子を届けることにより、精子と卵子が出会う確率が高くなります。
人工授精の妊娠率
日本産婦人科医会によると、1周期あたりの妊娠率は5〜10%といわれています1)。また人工授精を4周期以上行った場合の累積妊娠率(妊娠した患者様の割合を積み重ねていった妊娠率)は、40歳未満で約20%、40歳以上で10~15%
とされており、80%以上の方で妊娠が難しいという結果になっています1)。
人工授精を受ける回数の上限はありませんが、5〜6回で累積妊娠率は横ばいになると報告されており、効果を考慮しても人工授精を受ける回数は最大で6回程度と一般的に考えられています。
次の治療(体外受精・顕微授精)へステップアップするタイミング
前述の通り、若年女性であっても人工授精の妊娠確率は5~6周期で頭打ちとなります。
当院では人工授精で妊娠される方の8割は3~4周期以内であるため、3〜4周期続けても妊娠しない場合には、体外受精や顕微受精などの生殖補助医療(ART)を検討することをおすすめしております。
また、女性の年齢が高い、卵管に癒着や閉塞がある、精子に重度の異常がある場合などは、人工授精が向かないため、不妊の原因に応じて生殖補助医療を優先して検討することもあります。
体外受精や顕微受精についてさらに詳しく知りたい方は、下記もあわせてお読みください。
体外受精 | 東京渋谷区の不妊治療専門クリニック torch clinic(トーチクリニック)
顕微受精 | 東京渋谷区の不妊治療専門クリニック torch clinic(トーチクリニック)
人工授精による妊娠率を高めるためのポイント
妊娠率を高めるために、適切なタイミングをとること以外にも、日常生活の中で取り組めることがあります。
体重管理
ダイエットや不摂生は不妊につながります。過度の肥満や痩せすぎも不妊の一因となるため、1日3食バランスの良い食事をとり、適切な体重管理に努めましょう。逆に、体重過多であることも問題です、適正体重を心がけましょう。
女性は体を冷やさない
女性は体の冷えにより血行が悪くなり、子宮へ十分な酸素や栄養素を送りにくくなります。そのため、体を冷やしすぎないようにするのがポイントです。
男性は下半身を温めすぎない
逆に男性は、精子が熱に弱いため、サウナや長湯など下半身を温めすぎないように注意することが大切です。
人工授精の適応になる人
人工授精を受けるには以下に示すような要件を満たす必要があります。
複数回(4〜6回)タイミング法を行っても妊娠に至らない場合
原因がわからない不妊症に対して、タイミング法の次のステップアップとして人工授精を行います。
軽度の乏精子症、精子無力症がある場合
精液検査を実施して少なくとも2回以上基準値を満たしていない場合には、人工授精の適応となります。ただし、当院では精液中の総運動精子数が200万個以下と極端に少ない方は人工受精ではなく体外受精や顕微受精を行います。
性行障害がある場合
勃起障害(ED)や射精障害、精神的な問題などで性交渉が難しいが、自身で射精が可能な場合に行います。
頸管粘液(おりもの)と精子の不適合
フーナーテストとよばれる性交後試験を行い、おりものの中の精子の運動性をみます。フーナーテストでの運動性が低く子宮内に精子が到達できないことで不妊となっている場合には人工授精が適応となります。
人工授精にかかる費用
2022年4月より、人工授精にかかる費用は保険適用となっております。体外受精や顕微受精とは異なり保険適用となる年齢や適応回数の上限はありません。
人工授精そのものにかかる費用としては、1回5,460円(保険適用、3割負担の場合)です。
この金額以外に超音波検査などの診療費や検査費、また必要に応じて排卵誘発剤や黄体補充が実施される場合には、その薬剤費がかかります。
人工授精のメリット
タイミング法と比較して精子と卵子の出会う確率が高まる
タイミング法では腟内に精液が入り、精子が自らの力で子宮内まで向かいます。人工授精では子宮内に直接精液を注入することができます。
女性への身体の負担や金額的な負担が少ない
体外受精や顕微授精と比較して麻酔の必要もなく、痛みもほとんど伴わないことから女性への身体的負担は少ないとされています。また、保険適用になったこともあり、金銭面での負担も軽減されました。
人工授精のデメリット
1周期あたりの妊娠率は5〜10%。必ずしも妊娠するわけではない
データ上では、1回の人工授精を受けた方10人のうち1人が妊娠するかどうかといった状況です。また4周期繰り返したとしても、80%以上の方で妊娠が難しいという報告もあります。
出血、腹痛、感染リスクのおそれ
人工授精にてカテーテルを挿入する時の刺激で、多少出血することがあります。カテーテルはとても細いため痛みを感じることはまれですが、中には痛みを感じる方もいます。感染リスクは低く、実際そういった報告もほとんどないと考えられますが、場合によっては抗菌薬を予防的に投与することがあります。
排卵誘発剤を使用するとOHSS(卵巣過剰刺激症候群)も
排卵誘発剤を使用した場合、副作用として、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)が知られています。
初期症状として、卵巣が大きくなり、腹水や胸水が溜まることで、腹痛や腹部膨満感、急激な体重増加、ウエストサイズの増加、息切れなどが現れます。重症化すると、腎不全、血栓塞栓症などの生命を脅かすような危険な状態となるため、できるだけ早く症状を発見し対応することが大切です。
体外受精や顕微受精などの生殖補助医療での発生頻度ほど高くはありませんが、クロミフェン療法で用いられる低刺激の誘発方法でも2.5%の割合で発生するといわれています。
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)やAMH値が高い方、過去にOHSSや多胎妊娠を経験された方はリスクが高いため注意が必要です。
人工授精の流れ
1回の人工授精にかかる期間はおよそ4〜5週間程度です。
大まかな流れとしては、まず月経がきたタイミングでご来院いただき、医師と今後の方針を相談します。併せて検査を行って排卵日を特定し、排卵日の直前または当日に精子を注入するといった流れになります。
当日までのスケジュール
①月経期の診察
まず月経1〜5日目にご来院いただきます。超音波検査(場合によっては血液検査)にて今周期が人工授精に適しているか検討し、医師と今後と方針を決定します。
②卵胞期の診察
次に、月経10〜15日目にご来院いただき、超音波検査で卵胞の大きさや子宮内膜厚を確認します。卵胞が十分な大きさ(20mm前後)まで発育していることが確認できたら、排卵誘発剤の注射と人工授精を行う日を決めます。
③人工授精前日
自宅またはクリニックでhCGの注射による排卵誘発を行います。hCG注射を打つと約36時間前後で排卵するとされています。
当日の流れ
・精子の準備
1.当日自宅で採精した精液を持参します(凍結精子を使用する場合もあります)。
2.精液の洗浄・濃縮を行います(所要時間:60〜90分)。この間は、院内で待つことも院外で待つことも可能です。詳しくはクリニックの医療スタッフまで直接お声がけください。
・女性側の準備
1.外来診察室(内診台)にて、卵胞の状態や子宮の傾きを経腟超音波で確認します。
2.腟内に腟鏡(クスコ)を挿入します。
3.腟内を洗浄します。
4.子宮内に細いカテーテルを挿入し精液を注入します。細いカテーテルを使用するため痛みを伴うことはまれです。カテーテルが入りにくい場合は鉗子(かんし)と呼ばれる器具を使用することがあります。
トーチクリニックでは、将来妊娠を考えている方向けのブライダルチェックなども提供しています。ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。
おわりに
トーチクリニックは恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週7日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。
医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。
ブライダルチェックにご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ブライダルチェックのご予約はウェブからも受け付けております。
また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考ください。
参考文献
1)日本産婦人科医会 .“人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband’s semen)”.日本産婦人科医会ウェブサイト
https://www.jaog.or.jp/lecture/10%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E6%8E%88%E7%B2%BE/
2)日本がん・生殖医療学会 .“ARTの現状”.日本がん・生殖医療学会ウェブサイト
https://www.j-sfp.org/fertility/female/status/