不妊治療と仕事を両立するには

最終更新日時:
2024-04-06
市山 卓彦
市山 卓彦 医師
院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

不妊治療と仕事の両立についての実態

「2021年社会保障・人口問題基本調査」という厚生労働省の調査によれば、不妊を心配したことのある夫婦は39.2%と3組に1組を超え、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は全体で 22.7%、4.4組に1組の割合になっています。

さらに、厚生労働省が令和5年度に実施した「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業」によると、不妊治療をしたことがある人のうち、半数以上は仕事と両立しているが、10.9%は退職し、7.4%が雇用形態を変更していると報告されています。

つまり、多くの夫婦・カップルが不妊治療を必要としており、不妊治療と仕事を両立することへの配慮が必要なことがわかります。

不妊治療と仕事の両立に向けた国の取り組み

不妊治療と仕事を両立しやすくすることは国や自治体の施策としても重視されています。

令和3年度より不妊治療のために利用できる制度を導入したり利用促進をしている中小企業に対して助成金を支給する支援や、令和4年4月より不妊治療と仕事の両立との両立に取り組む優良企業に対しての認定制度などが始まりました。

両立のための制度の1つに「不妊治療休暇制度」があります。

法律で定められていない休暇のため、企業によって制度の有無が異なります。

制度が設けられている場合には、不妊治療に限定して取得できるものと、不妊治療だけでなく他の理由(育児・介護・病気の治療など)でも取得できるものがあります。一定期間(1年など)に取得できる日数の上限や賃金の支払いの有無など企業によって違うため確認が必要となります。

その他に、1年ごとに与えられる有給休暇を時間単位・半日単位で取得する制度や、時効により失効した有給休暇を積み立てる制度、フレックスタイム制、短時間勤務制度(育児·介護休業法に基づく短時間勤務制度とは別)などがありますので、お勤めの企業等の制度をご確認ください。

不妊治療と仕事の両立が難しい理由

厚生労働省のデータによると、両立が難しい理由は「通院回数が多い」、「精神面で負担が大きい」、「待ち時間など通院にかかる時間が読めない、医師から告げられた通院日に外せない仕事が入るなど、仕事の日程調整が難しい」などがあります。

また企業や働いている方も、不妊や不認治療についての認識があまりないために、企業内の支援制度の導入や利用が進まないことも考えられます。

先述の厚生労働省の調査では、不妊治療をしている人と一緒に働くうえで、どのような情報があると配慮しやすいかという質問において、最も多かったのは「どの程度の休みが必要か(時期、頻度)」でした。不妊治療の経験がない人にとっては、不妊治療のスケジュールを把握することで、治療への配慮がしやすくなることもあるようです。

不妊治療のスケジュールとの関係

体外受精の場合には、仕事をしながら下図のようなスケジュールで治療が進みます。

①月経1〜3日目に1回目の通院

超音波検査と血液検査を行います。

検査結果と年齢、挙児希望数から総合的に判断し、一人一人に合わせた排卵誘発法を決定します。

②月経8〜12日目に2〜4回目の通院

まず月経8〜9日目に超音波検査と血液検査を行い、卵胞の状態を確認します。

この時の卵胞の発育状態によって採卵までの期間に何度か通院する可能性があり、急なスケジュール調整を要します。

実際には1〜2回の診察が加わることが多いです。

③月経14〜16日目に通院

採卵を行います。同日に精子をご持参いただき、回収した卵子と体外受精を行います。

④(別の月経周期の)月経8〜12日目に通院

胚移植を行います。

以上のように、一定回数の通院を要するため、仕事を含めた治療以外のスケジュールとの調整が必要となります。

トーチクリニックにおける仕事との両立の工夫、実態

当院では、治療と仕事を両立させたいと望む方達のためのサポート体制を整えています。

具体的には、駅から徒歩1分の立地、土日祝・夜間の開院、専用アプリの導入がございます。

土日祝日は9:00〜17:00(16:00最終受付)、夜間は月・水・金曜日は18:00(17:00最終受付)、火・木曜日は20:00(18:45最終受付)開院しております。

専用アプリで事前予約、問診登録、保険証登録、院内処方、キャッシュレス決済かつ後日会計ができるため、来院してから診察までの時間短縮や診察後の待ち時間0が可能となっております。

よくあるQ&A

不妊治療や体外受精で仕事を休む頻度はどのくらいですか?

例えば体外受精の場合には、月経開始から採卵手術を行う12〜15日目までの間に最低でも3回の通院が必要です。休む頻度が予測できない期間としては月経8〜9日から採卵手術の日までです。これは卵胞の発育具合によって通院回数が異なるためです。

不妊治療で休職の診断書を出せますか?

出すことは可能です。

法律で定められていない休暇のため、企業によって制度の有無が異なります。

また不妊治療に特化したものと特化していないものがあるため企業に確認していただく必要があります。

不妊治療の職場への伝え方のおすすめはありますか?

不妊治療連絡カードというものがあります。

不妊治療を受ける方が、治療や検査に必要な配慮事項について企業の人事労務担当者に的確に伝えるためのカードです。様式は任意となっていますが、厚生労働省が作成したものはホームページから取得可能です。

30b.pdf (mhlw.go.jp)

実際に利用する際には、主治医にカードを渡し記入してもらいます。そのカードを事業主に提出して利用できる制度を申請してください。

不妊治療両立支援コースとは何ですか?

不妊治療のために利用できる休暇制度や両立支援制度を労働者に利用させた中小企業事業主に対して支払われる助成金です。助成金は「A」「B」2つあり、1事業主あたり1回限りの支給となります。

A:最初の労働者が休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)利用すると30万円が支払われます。

B:Aを受給し、労働者が不妊治療休暇を20日以上連続して取得すると30万円が支払われます。

詳細は以下をご参照ください。

不妊治療両立支援コース|東京労働局 (mhlw.go.jp)