カウンセリングは日本ではまだ浸透していない現状があります。
そこには「心の病気にかかった人が受けるもの」「心の弱い人が受けるもの」といった誤った理解が影響しているからかもしれません。または「話を聞いてもらうだけ?」「それになんの意味があるの?」「気の持ちよう」「やっぱり自分の問題だ」といったイメージを持っている人が少なくないからかもしれません。
ここでは、そんなカウンセリングの内容や効果、カウンセラーの資格などについて、臨床心理士(公認心理師・がん生殖医療専門心理士)が詳しく解説していきます。
カウンセリングとは
個人のもつ悩みや問題を解決するため、助言を与えること。精神医学・臨床心理学等の立場から行うときは、心理カウンセリングと呼ぶことがある。身上相談。
広辞苑 第7版
カウンセリング(counseling)とは
- 問題解決の援助と
- 人格成長の援助のいずれかを主目標とした人間関係(國分,1996)
といわれています。もう少し一般的な言葉を使うと、相談者の抱える問題や悩み、テーマに対して専門的な知識や技術を有したカウンセラーが行う、相談・援助といえるでしょうか。相談者の主訴(患者がもっとも強く訴える症状)を良い方向に導いていくのが、一番の目的となります。
Torchクリニックで行うカウンセリングは、不妊という問題と向き合う、あるいは今後向き合っていく方々が相談者となりますが、ここでは全般的なカウンセリングの役割や意味、効果について解説していきたいと思います。
カウンセリングの役割と目的
カウンセリングには非常に大ざっぱに分けて、以下2つの役割と目的があるといえます。
- 心理的危機を脱するためのヒントを見つける役割
- 安心して自身(テーマ)と向き合えるよう、場を提供する役割
心理的危機を脱するためのヒントを見つける役割
何かしらの問題が生じ、生きづらさや困難、混乱を抱えた状態から、心理的に安全な状態まで避難できるようカウンセリングの中でヒントを探すことが目的となります。カウンセラー側から積極的に心理教育や助言、介入を行っていく関わりも多くあります。
安心して自身(テーマ)と向き合えるよう、場を提供する役割
危機を脱し、心理的安全が得られた状態で、より深く問題(テーマ)に対して向き合っていくことが目的となります。相談者、カウンセラー共に暗中模索しながら、その方なりの人生の目的地、自分なりの答えを探していけるよう行われていきます。
役割は入り混じっていることがほとんど
2つの役割はもちろんはっきり分かれるものではなく、入り混じっていることがほとんどですが、1つ目の役割(心理的危機を脱するためのヒントを見つける役割)だけでカウンセリングが終結となることも少なくありません。
なぜなら、人は最低限の心の安全が確保できれば自分の力で問題に対処していけるようになれるものだからです。実際に、問題が生じるまでは自分で自分の人生を切り盛りしてきましたからね。そのため、単回〜数回のカウンセリングで終結となることも少なくありません。
けれどこれまでの生き方では答えが見つけられない時、対処することが難しいとき、これまでにはない大きな出来事が生じた時、人は新しい生き方を模索せざる得ない時があります。誰にでもあります。そういうときに2つ目の役割の出番が色濃くなってきます。そうなるとテーマの内容にもよりますが、定期的な頻度を決めて数年〜数十年単位でカウンセリングが継続されることも珍しくありません。
カウンセリングで得られるもの
正直、カウンセリングで得られるものは「人それぞれ」というのが答えだったりしますが、一般的にいわれている具体的な効果についていくつか紹介したいと思います。
心の浄化作用
人が自分の考えや気持ちを他者に伝える行動を自己開示といいます。誰かに自己開示をすること、及びそのことが相手に受け入れられていると感じることそのものに直接ストレスを低減させる効果があると認められています。
カウンセリングで話をすること、それを受け止めてもらえる体験を通して、この心の浄化作用が期待できます。カタルシス効果ともいいます。
自己理解
自身の頭の中で思う・考えることと、誰かに伝えようと言葉にして発することは似ているようにみえて大きな違いがあります。
相手に伝えようと考え、言葉にすることを通して、自分の内面に生起している感情や思いをありのままに意識・整理することができます。それは、これまで知りえなかった自分の性格傾向や考え方に気づく機会となり、自分に対する理解を深めることへも繋がっていきます。
自分を知ることで、目指す生き方が変わっていくことや、よりよい選択肢が生まれることも期待できます。
レジリエンス力/問題対処力の向上
レジリエンス (resilience) とは、たとえ繰り返し挫折に見舞われたとしても、危機的状況に陥ったとしても、そこから回復していく力のことをいいます。
人は誰もがそういった力を必ず有してはいますが、レジリエンス力の程度には個人差があるとも言われています。
カウンセリングを通して、自己理解が深まることや問題対処能力の幅が広がることで、このレジリエンス力の向上が期待できます。
「聴くこと」のもつ不思議な力
これまで、教育機関で相談員、大学病院にてカウンセラーとして勤務をしてきた中で、「聴くことのもつ力」の威力に驚かされる体験はとても多くありました。しかし、その体験を言葉にして誰かに説明することは非常に難しく、ともに働く他医療スタッフは然ることながら、相談者本人からも「なんだかよくわからないけれど」話を聴いてもらって助かりましたといった感想をいただくことも多々ありました。
それが残念……ということではなく、「聞く」のではなく「聴く」こと。そこには間違いなく大きな意味があるのですが、他覚的に評価できない、量的に計り知れないものであることもまた事実であると言わざるおえません。
現代社会では、測れないものは存在しないものとして烙印を押されてしまう傾向があるようで、ときに話を「聴くこと」=「何もしないこと」と感じられてしまいます。が、その威力は間違いなく存在しているのです。
「悩みを話す場」=カウンセリング?
カウンセリング=話をする場と思われがちであることについて補足を加えます。
はじめてカウンセリングに来られる方のなかには、「きてみたはいいけど…何を話したらいいのかわからない」という心配を語られるかたは多くいらっしゃいます。
話したいことはあるが切り出し方がわからない場合、そもそも何を話したいのかがわからない場合などなどの違いはあるにせよ、カウンセリングを受けてみたいと行動した、あるいは推められて同意したということは、その方の中に言葉にしたい「なにか」があることは明白です。ゆえに語ることができないことも含めて、カウンセリングではテーマとなり、むしろそれを共にに探していく場であるともいえます。
そのため何を話せば良いのかわからない状態でやってきても、もちろん当然にOKです。カウンセリングとは「悩みを話す場」ではなく、その瞬間、今ここで、表現したい(あるいはできない)ことを共有する場と考えてもらえると良いかもしれません。
雑談と語ることの違い
雑談と語ることの大きな違いは、聴き手側の姿勢にあります。
私たち聴く専門家は、その教育課程の中で「耳ではなく心で聴け」と教え込まれます。
人は1日の中で6万回思考すると言われているのは有名な話でありますが、それは誰かの話に耳を傾けているときでも同様です。「次は何を話そうかな」「私だったらそうは思わないな」「つまり〇〇ってことね」などその人の話を聴いているつもりでも、意識してみると、いかに語りの最中に別のこと、あるいは自分のことを考えている時間が長いことに驚かされます。
それは意識的にも無意識的にも生じるため、私たち聴く専門家は、まず「ただひたすらに心を傾け聴く」トレーニングを受けます。
「聞く」ことと「聴く」ことによって語る側に生じうる心の動きについて、よく取り上げられる例をもとに説明してみたいと思います。
雑談
🙂話し手の言葉「私はたくさんの兄妹に囲まれて育ちました」
🧠聞き手の思考「(兄妹が沢山いるのか。自分は一人っ子だから、賑やかで羨ましいな)」
👂聞き手「それは楽しそうな家庭でしたね」
😶話し手「・・・」
兄妹がたくさんいた話から、両親にあまり寄り添ってもらえずいかに寂しかったのかの話をしようとしたかもしれません。しかし聞き手の思考、主観が作用し全く異なった方向づけをされ、心の流れ、語りの流れが止まってしまいます。
語ること
🙂話し手「私はたくさんの兄妹に囲まれて育ちました」
🧠聴き手の思考「(聴く側のもっている固定概念を廃して、その方のありのままを聴く)」
👂聴き手「たくさんの兄妹に囲まれて育ったんですね」
😯話し手「そうなんです。実はそんなわけで・・・」
自分がどんなことを言おうとも、そのままそれを受け入れてもらえるという体験、確信の中で人は、自分のなかのもつれた想いについて「語る」ことができるようになります。
「語る」ということは、着地点が見えないまま自分を不安定に漂わせるということであり、つまりは自らを無防備にする行為であるともいわれています。そのため、心理的安全性の保たれた場でなければ「語る」ことは難しく、カウンセラーの姿勢、環境、守秘義務が整った守られた場で安心して話をすることができてはじめて、「語る」ことであるといえます。
「何かを語らなければ」と変に気構える必要はなくて、注意を持って聴く耳があれば、自然と「語り」は生まれていくものです。非常に抽象的になってしまいましたが、雑談とは大きく異なることがほんの少しでも伝われば嬉しいです。
カウンセラーの資格
カウンセラーの資格にはどのようなものがあるのか、代表的な資格について紹介したいと思います。
◇臨床心理士
臨床心理士は、カウンセラーの資格の中で最も有名な資格といえます。臨床心理士としてカウンセリングを実施するためには、大学の4年間に加え大学院の2年間、トータル6年間にわたり心理学を学び、その後試験を受けて合格した人のみがもらえる資格です。
厳しい学習条件や経験が求められ、長年にわたって根強い信頼性を担保しているといえるでしょう。
◇公認心理師
公認心理師は、2017年に施行された「公認心理師法」に基づいてできた心理職初の国家資格です。カウンセリングだけでなく、他の医療機関や福祉などと連携することも多く、多角的な支援を前提とした心理職といえます。
◇産業カウンセラー
産業カウンセラーは、多くが企業内で、職場のメンタルヘルスや人間関係の悩み、キャリアの相談を実施するカウンセリングの資格です。現在は民間資格となっていますが、2001年までは公的資格でありました。
◇不妊カウンセラー
不妊カウンセラーとは、日本不妊カウンセリング学会が主催する認定資格です。不妊で悩んでいる人々に対して、妊娠・出産や不妊に関する適切な情報提供活動を行い、カップルが最適の不妊治療を選択することができるよう支援を行います。
カウンセラーとしてカウンセリングを実施しているからといって、全ての人がこのような資格を持っているとは限らず、一日完結型の講座を受けるだけで認定資格を得られる類の資格も存在します。そのため、ひと口にカウンセラーといってもその資格の種類はさまざまで、国家資格、民間資格、あるいは試験を必要としない資格さえあります。極端にいえば「私はカウンセラーです」と言えば、そうなれてしまうのが今の日本の現状ではないでしょうか。
資格の有無だけでカウンセラーの資質を判断できるわけではありませんが、臨床心理士や公認心理師の資格があれば少なくとも知識量はあると考えられます。カウンセラー選びのポイントとなれば幸いです。
カウンセリングのご案内ーTorchクリニックの場合ー
Torchクリニックでは、初診の方、当院において治療中のすべての方へ向けて「無料」でカウンセラー(がん生殖医療専門心理士の資格を有した臨床心理士/公認心理師、不妊カウンセラー)によるカウンセリングを行っています。
不妊治療は、身体的“負担”はもちろんのこと、こころにかかる“負担”もそれ以上に大きな治療です。不妊治療に臨む約半数の方は、多かれ少なかれ心のコンディションを崩してしまうことが知られています。
そのため、治療の長さや重さに関わらず、治療の初期から“こころのケア”を大切にすることは、治療を続けていく上でも、その方らしい人生を選択していく上でも非常に重要なこととなってきます。
お気軽にご活用ください
「こんなことで相談していいの?」「治療とは関係ないことでもいいの?」といった疑問がよくきかれますが、そのお答えとしては、
『どんなことでも大丈夫です』
カウンセリングは、治療を円滑に進めるため(妊娠させるため)の目的で行われるものではなく、不妊を抱えて いるその方の人生・生活の質を向上させるため役に立てていただくものです。
ですので、相談内容に決まりはありません。お話されたいことを「語る場」としてご活用ください。
以下、相談例
- とにかく誰かに話を聞いて欲しい
- 治療が上手くいくか心配でしょうがない
- 治療について説明されたが受け止められない
- 何が不安かもわからない、不安な気持ちを抱えている
- 食欲がでない、夜眠れない、気持ちが落ち込む
- パートナーが治療に協力的でない/積極的過ぎる
- 仕事との両立が難しいと感じている(仕事内容・スケジュール・人間関係)
- 自分の感情がうまくコントロールできない
- 家族や親戚からのプレッシャーが苦しい
- 自分のことをわかってくれる人がいない(少ない)と感じる
- 医師とのコミュニケーションに難しさを感じている
- そろそろ治療をやめたほうがいいのかなと心配しはじめている
…などなど
まずはお気軽にご相談ください。
(ご相談内容によって、適切なスタッフに繋げさせていただく場合もあります)
予約受付時間
土、日、祝・・・12:00〜16:00
※上記以外の日時をご希望のかたも随時お気軽にご相談ください。
※基本は対面ですが、オンラインでのカウンセリングをご希望の方もご相談ください。
料金
初回、当院通院中の方:1回 50分 無料
その他の方:1回 50分 5,500円(税込)
予約方法
アプリ(またはHP)の問い合わせフォームよりご連絡ください。
①件名:心理カウンセリグ希望
②詳細:希望日時を第3希望まで
記入の上送信
追って担当者よりご連絡させていただきます。
ご質問、ご不明な点に関してもお気軽にお問い合わせください。
Torch clinic: 03-6447-7910
引用・参考文献
國分康 孝.(1996)カウンセリングの原理 誠信書房
小塩真司, 中谷素之, & 金子一史. (2002). 資料 ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性–精神的回復力尺度の作成. カウンセリング研究, 35(1), 57-65.
坂柳恒夫. (2007). キャリア・カウンセリングの概念と理論.
田所摂寿. (2018). 専門職であるカウンセラーとしてのアイデンティティの構築―カウンセリングの歴史と定義の変遷―. 作大論集, (8), 49-63.
丸山利弥, & 今川民雄. (2001). 対人関係の悩みについての自己開示がストレス低減に及ぼす影響. 対人社会心理学研究, 1, 107-118.
おわりに
トーチクリニックでは、医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。
恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週7日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。
不妊治療にご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ご予約はウェブからも受け付けております。
また、すでに不妊治療を受けている方々のお悩みやセカンドオピニオンにも対応しております。セカンドオピニオンを含めたクリニックへのよくあるご質問はこちらをご参考ください。