着床障害(着床不全)とは?原因と検査方法について

最終更新日時:
2024-01-30
市山 卓彦
市山 卓彦 医師
院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

着床障害(着床不全)とは

着床障害(着床不全)とは、3回程度の良好な胚を移植しても妊娠が成立しない状態のことです。着床障害の主な原因は①受精卵側の問題、②子宮側の問題、そして③免疫の問題と考えられています。

着床障害(着床不全)の原因

受精卵(胚)側の原因

受精卵(胚)の染色体異常が原因で着床障害が起こることがあります。この場合、着床前診断を行って体外受精で得られた染色体を調べ、異常がないと考えられる胚を選別し、子宮に戻すことで着床しやすくなることがあります。ただし着床前診断は誰もが受けられる検査ではなく、確定診断ではないので注意が必要です(後述)。

子宮側の原因

  • 子宮の疾患
    子宮筋腫や子宮内膜ポリープ、子宮奇形、子宮内膜症が着床障害を引き起こすことがあります。これらの子宮のしっかんでは、子宮内腔からの分泌物の増加や子宮筋層の血流障害が原因と考えられているため、場合により手術により治療をすることで、着床の環境がよくなる可能性があります。慢性子宮内膜炎(CE)は軽度の炎症が子宮内膜に慢性的に起こっている状態で、これも着床障害の原因となることがあります。細菌感染が主な原因であり、抗菌薬などを用いて治療を行うと改善すると考えられています。

  • 子宮内フローラ
    子宮内は無菌ではなく、ラクトバチルス属乳酸菌と呼ばれる善玉菌が存在していることが分かっています。子宮内のラクトバチルス属乳酸菌の割合が低下すると、着床率が有意に低下することが分かっています。子宮内フローラについて、詳しくはこちら

  • 子宮内膜着床能異常(着床の窓)
    「着床の窓」とは子宮内膜が受精卵を受容できる期間のことで、この着床の窓のタイミングは人によって異なると考えられています。正常な胚を移植しても、着床可能な時期とずれていると着床に至りません。そのため、子宮内膜着床能検査(ERA検査)で移植の時期が、子宮内膜にとって着床可能なタイミングか検査することで、着床しやすくなると考えられます。

受精卵を受け入れる免疫寛容の異常

受精卵の半分は父親由来であるため、本来は母親側の免疫応答によって異物と見なされ、排除されるはずですが、受精卵は攻撃されず、子宮内で発育します。このように本来異物を攻撃するはずの免疫システムが、異物を排除するのではなく受け入れることを「免疫寛容」といいます。

この免疫寛容に異常がある場合、受精卵が着床に至らないと考えられています。

着床障害(着床不全)の検査と治療

  • 子宮鏡検査・子宮内膜組織検査
    子宮鏡検査は細いカメラを用いて子宮の内部を観察する検査です。この検査の際に組織を採取し、子宮内膜組織検査を行うこともあります。
    子宮鏡検査により、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどの子宮側の問題を発見できます。これらが見つかった場合は症状により手術を行うことがあります。
    子宮内膜組織検査では、形質細胞という細胞を確認することで慢性子宮内膜炎の有無を調べることができます。慢性子宮内膜炎の場合は抗菌薬内服による治療を行います。
  • 子宮内膜受容能検査(ERA検査)
    胚移植時期の子宮内膜組織を採取し、着床に関係する236個の遺伝子を検査します。着床の窓がずれていた場合、この検査により最適な移植日が分かり、着床の可能性が高まります。ERA検査は先進医療(自由診療であるが、保険診療と併用できる医療技術)のひとつです。

  • 子宮内フローラ検査
    腟から細い棒状の器具を挿入し、子宮内腔の細菌を採取します。採取された検体を解析し、ラクトバチルス属乳酸菌の割合を調べます。子宮内フローラ検査も先進医療のひとつです。

  • 免疫検査
    免疫寛容には、白血球の一種であるヘルパーT1細胞とヘルパーT2細胞の比率が関係しています。血液検査でこれらの細胞に異常が認められた場合、免疫細胞の機能を抑制する薬を用いて治療を行います。

  • 着床前診断
    着床前診断とは、体外受精で得られた胚の染色体や遺伝子の検査を行うことです。ただし日本では、重篤な遺伝性疾患をもつ子どもそ出産する可能性がある場合やカップルのどちらかが染色体の構造異常を持つ場合、そして複数回体外受精を行っても妊娠しない場合のいずれかに当てはまる方のみが行える検査で、検査を受けるには日本産科婦人科学会の認可が必要です。

よくある質問

着床する確率は?

40歳未満の方が体外受精で染色体が正常な胚を移植した場合、妊娠率は60〜70%といわれています。そのため、3回移植を行った場合80〜90%の場合で妊娠すると考えられます。

受精卵が着床しなかった場合どうなりますか?

受精卵が着床しなかった場合、厚くなった子宮内膜が剥がれ落ち、月経が起こります。

体外受精で黄体ホルモンの補充を行っており、妊娠していないと分かった場合は、黄体ホルモンの服用を中止します。服用を中止してから2〜3日後に月経が起こります。