子宮内膜症は、月経時の強い下腹部痛や腰痛、排便痛や性交痛などをもたらす病気です。子宮内膜に似た組織が子宮以外の部位で増殖し、発症するとされています。
治療方法は薬物療法と手術療法があり、病巣の大きさや年齢、妊娠希望の有無により選択されます。不妊に悩む場合は子宮内膜症の可能性があり、産婦人科の受診が推奨されます。
子宮内膜症とは?妊娠率に影響する?
子宮内膜症とは、子宮内膜に似た組織が子宮以外の場所で発生・増殖する病気です。
女性の体は、女性ホルモンの働きで子宮内膜が厚くなると、子宮内膜から剥がれ落ち出血します。これが月経です。子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が、何らかの原因で子宮以外の部位に存在し、ホルモン刺激により増殖・出血すると考えられています。
子宮内膜組織が子宮や卵巣といった臓器と癒着して痛みを引き起こし、さらに不妊の原因にもなります。
20〜30歳代での発症が多く、30~40歳がピークです。一度発症すると、女性ホルモンの影響により増殖・悪化を繰り返し、閉経後に軽快します。
子宮内膜症の方の30~50%が不妊で、不妊症の方の25〜50%に子宮内膜症が確認されています。また、正常な方における月経周期ごとの妊孕率(にんようりつ:妊娠のしやすさ)は15〜20%であるのに対し、子宮内膜症の方は2〜10%1)との報告もあります。これらより、妊娠率に影響を与えていると考えられます。
子宮内膜症を発症する原因
子宮内膜症を発症する原因は、明らかにされていません。今のところ2つの説があり、可能性が高いのは、月経血の逆流です。月経血の中には、剥がれ落ちた子宮内膜が含まれています。その一部が腹膜に付着し、増殖すると考えられているようです。
もう一方は、体腔の上皮化です。女性ホルモンや月経血の刺激を受けた腹膜が、子宮内膜組織のように変化すると考えられています。
現代女性は、初潮を迎える年齢が早まり、月経のある期間が長くなっています。さらに、晩婚化や少産化によって、生涯の月経回数が増加しており、子宮内膜症になりやすいといえるでしょう。
子宮内膜症と子宮腺筋症との違い
子宮内膜症と似た病気には子宮腺筋症があり、どちらも不妊の原因になると考えられています。両者の大きな違いは、子宮内膜に似た組織の発生部位です。
子宮内膜症は、卵巣や卵管など子宮以外の部位に発生します。一方子宮腺筋症は、子宮の筋肉にできます。子宮腺筋症と不妊との関連は明らかにされていません。2つの主な違いを表に示しました。
子宮内膜症が発生しやすい部位


子宮内膜症は、子宮内膜以外のさまざまな部位に発生します。なかでもダグラス窩(子宮と直腸の間のくぼみ)周辺での発生が最も多いです。発生のしやすさは以下のとおりです。
卵巣チョコレート嚢胞とは
卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)とは、子宮内膜組織が卵巣に入り込み大きくなる、子宮内膜症のひとつです。古い血液がたまり、チョコレート色になるのが特徴です。卵胞がうまく発育しなくなったり、排卵機能が低下したりして不妊の原因になると考えられます。
古い血液により卵巣が大きくなると、破裂して急激な腹痛が起こる場合もあります。がんや感染のリスクもあるため、発見された際には定期的に診察を受けることが重要です。
子宮内膜症の発症により起こり得る症状
子宮内膜症の代表的な症状は、月経時の強い下腹部痛や腰痛、排便痛、性交痛です。月経時以外にも痛みを感じることがあります。月経時の強い痛みで寝込んでしまったり、仕事が手に付かなくなったりして、生活に影響を与えることも多いです。年齢とともに症状は悪化しますが、閉経を迎えると痛みはおさまります。
不妊も子宮内膜症の症状のひとつです。子宮内膜症の人の約半数が不妊症で、原因不明の不妊症患者の50%に子宮内膜症がある2)ことがわかっています。
子宮内膜症の診断方法
子宮内膜症は、おもに以下の方法で診断されます。
- 問診・診察(内診)
- 血液検査・画像検査
- 確定診断
それぞれ詳しく確認していきましょう。
問診・診察(内診)
子宮内膜症が疑われる際は、問診と内診を行います。痛みや鎮痛剤の服用状況など質問されます。内診では、子宮の動きや硬結(こうけつ:柔らかい組織が硬くなること)の有無、押されたときの痛みなどを調べます。
血液検査・画像検査
血液検査では、「CA125」「CA19-9」を調べます。CA125とCA19-9は腫瘍マーカーとよばれ、がんの診断や補助に利用される数値です。子宮内膜症でも高い値を示すことがあり、診断の一助となります。
画像診断では、経腟超音波検査やMRI検査を行います。経腟超音波検査は、子宮や卵巣の状態を調べる検査です。MRIは、磁力と電波を使って、体の断面画像を撮影します。血液成分が信号として描出され、卵巣チョコレート嚢胞や卵巣腫瘍との区別ができます。
確定診断
子宮内膜症の確定診断では、病変の存在を証明するための腹腔鏡(ふくくうきょう)検査や手術を行います。
腹腔鏡検査とは、お腹に小さい穴を2〜4カ所あけてカメラを挿入し、腹腔内の状態をみる検査です。薬物療法の発展により、近年は腹腔鏡による確定診断は行われないときもあります2)。
子宮内膜症を発症した場合の治療方法
子宮内膜症の治療方法は、薬物療法と手術療法に大別されます。症状の種類や程度、年齢、妊娠希望の有無などを総合的に判断し、方針を決定します。
薬物療法で使われるのは、低用量ピルや黄体ホルモン製剤、またはGnRHアナログです。手術療法は、病巣が大きいケースや、卵巣チョコレート嚢胞があるケースで選択されます。
妊娠の希望があるかどうかで手術の内容は変わります。手術後は、卵巣の機能が低下する可能性もあり、手術の適応は慎重に検討されます。
薬物療法、手術療法、不妊治療について詳しく見ていきましょう。
薬物療法
薬物療法は、鎮痛剤で痛みのコントロールを試みられます。改善がなければホルモン療法に移行します。低用量ピルや黄体ホルモン製剤、またはGnRHアナログによる治療です。
低用量ピル(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤)
低用量ピルは、低用量エストロゲンとプロゲスチンの合剤です。経口避妊薬として知られていますが、子宮内膜症の治療にも使用される薬です。排卵や子宮内膜の増殖を抑える作用があり、月経量の減少や月経痛の改善が期待できます。また、卵巣がんや子宮体がんのリスクを低下させるとされています。
内服開始当初は、吐き気や頭痛、不正出血が起こることもありますが、飲み続けるうちにおさまってきます。自己判断で服用をやめないことが大事です。
黄体ホルモン製剤
黄体ホルモン製剤は、プロゲスチンのみが含まれる薬です。代表的な製剤はジエノゲスト(製品名:ディナゲスト等)です。
黄体ホルモンを補充することで、子宮内膜の増殖を抑えます。月経量を減少させ、月経痛を改善する効果も期待できます。過多月経や月経困難症の治療にも使用される薬です。服用中は月経が停止し、服用を終了すれば排卵や月経が再開します。子宮内膜症の進行が抑えられ、将来的に妊娠しやすい環境を保てると考えられています。
服用を開始すると、不正出血やほてり、頭痛などが見られる場合があります。飲み続けると次第におさまってきますが、出血量が多いときは医師への相談が必要です。
GnRHアナログ(GnRHアゴニストとGnRHアンタゴニスト)
GnRHアナログは、エストロゲンの分泌を抑え、月経を停止し、子宮内膜症の症状を抑える薬です。子宮筋腫が認められるときには、筋腫を小さくする効果もあります。
GnRHアゴニストとGnRHアンタゴニストの2種類に分かれます。GnRHアゴニストは、点鼻または注射で投与されます。GnRHアンタゴニストは、経口剤です。
GnRHアナログによる治療では、月経が停止するため、更年期症状があらわれます。のぼせやほてりがあらわれたり、骨密度が減少したりする可能性があります。使用できる期間は原則半年間で、再度使用する場合は6か月間の休薬が必要です。
手術療法
子宮内膜症では手術療法が必要になることがあります。手術療法は、病巣のみを摘出する温存手術、卵巣や子宮を摘出する根治手術があり、将来妊娠・出産を望むかどうかで選択肢が変わります。
手術には腹腔鏡下手術と開腹手術があり、ほとんどの場合腹腔鏡下手術が採用されます。下腹部に小さな穴を数カ所あけ、モニターを確認しながら病巣を切除する手術です。開腹手術は、下腹部にメスを入れて行う手術です。病巣が大きい場合などに検討されます。
妊娠の希望がある場合、妊娠の希望がない場合の手術について見ていきましょう。
妊娠の希望がある場合
将来妊娠を希望する場合は、子宮や卵巣を温存する手術を行います。卵巣チョコレート嚢胞摘出術や片側の付属器(卵巣と卵管)摘出術、小さな病変をレーザーで焼く子宮内膜焼灼(しきゅうないまくしょうしゃく)術があります。
妊娠の希望がない場合
今後妊娠を希望しない方や閉経した方は、子宮内膜症の根治的治療を行うことがあります。子宮全摘と両側の卵巣・卵管を切除する方法です。悪性の卵巣腫瘍がある場合や、子宮筋腫、子宮腺筋症を合併している際も、この術式の対象です。
なお、卵巣チョコレート嚢胞の場合、摘出手術によって卵巣機能が低下する可能性があります。そのため早い段階から生殖補助医療(ART)の治療が行われるケースもあります。生殖補助医療は、体外受精(c-IVF)や顕微授精(ICSI)などの高度な不妊治療の総称です。
体外受精は、卵巣で発育した卵子を採卵術で取り出し、精子と受精させる治療です。顕微授精とは、顕微鏡を用いて質のよい精子を取り出し、卵子に直接注入する治療です。これまでは健康保険の対象外でしたが、2022年4月から保険適用になりました。
生殖補助医療については、体外受精の費用は保険適用される|具体的な条件や費用、費用負担が軽減される制度についても解説で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
子宮内膜症に関するよくある質問
子宮内膜症に関するよくある質問をまとめましたので、治療の参考にしてください。
Q:子宮内膜症を治療しないとどうなる?
子宮内膜症は、月経のある期間は進行してしまいます。特に、卵巣チョコレート嚢胞ができると、子宮や卵巣、卵管などと癒着を起こす場合があります。人によっては、骨盤内のスペースが消失するほどになるようです。一定の大きさの嚢胞に対し、手術をせず経過観察した場合、嚢胞が破裂したり、がん化したりすることもあります。
そのため、子宮内膜症が発見された際は、定期的な受診が必要です。手術をするかしないかは、医師と十分に相談して決めるのが望ましいでしょう。ただし、手術をしても再発する可能性があります。治療を決める際は、これらを理解する必要があるでしょう。
Q:妊娠したほうが子宮内膜症になりにくいの?
妊娠中は排卵と月経が停止するため、子宮内膜症の進行が抑えられる可能性があります。
しかし近年は、晩婚化・少産化というライフスタイルに変化しています。つまり、女性の一生の月経回数は、20年前と比べると圧倒的に多いのです。初潮を迎える年齢が早まっていること、出産回数が減ってきたなどの理由で、子宮内膜症になりやすいといわれています。
Q:卵巣チョコレート嚢胞は妊娠すると治る?
卵巣チョコレート嚢胞は、妊娠によるホルモンバランスの変化で縮小することがある一方、増大することもあります。
上田らの研究では、妊娠中に確認されたチョコレート嚢胞24のうち、52%が縮小、28%が不変、20%が増大した3)と報告されています。増大したケースでは異所性子宮内膜の脱落膜化、膿瘍形成、破裂が認められ、妊娠中に手術を行っています。
Q:卵巣チョコレート嚢胞ががん化しやすいって本当?
卵巣チョコレート嚢胞は、およそ1%の頻度で癌化することが報告4)されています。なかでも45歳以上で、サイズの大きい嚢胞が癌化しやすいとされています。
嚢胞が小さければ薬物療法で経過をみることが多いです。嚢胞が10cm以上ある、閉経周辺期以降である場合は、手術が選択されます。
Q:子宮内膜症は治療しても再発する?
子宮内膜症は、薬物や手術で治療をしても再発する可能性があります。特に子宮や卵巣を残す保存療法では再発率が高い傾向です。そのため、長期間にわたり経過観察する必要があります。
子宮内膜症にかかってしまったら、閉経まで付き合うこととなります。かかりつけの産婦人科医を持ち、月経や妊娠・出産、更年期の悩みを相談するようにしましょう。
おわりに
参考文献
1)日本産婦人科学会.研修ノート.No.102 子宮内膜症・子宮腺筋症.“(4)子宮内膜症不妊への対応”.公益社団法人 日本産婦人科医会ウェブサイト
https://www.jaog.or.jp/note/(4)子宮内膜症性不妊への対応/
2)日本産婦人科医会.研修ノート.No.102 子宮内膜症・子宮腺筋症.“(3)診断”.公益社団法人 日本産科婦人科医会ウェブサイト
https://www.jaog.or.jp/note/(3)診断/
3)Ueda Y, Enomoto T, Miyatake T, et al. A retrospective analysis of ovarian endometriosis during pregnancy. Fertil Steril. 2010;94(1):78-84.
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(09)00523-8/fulltext
4)日本産婦人科学会.研修ノート.No.102 子宮内膜症・子宮腺筋症.“(2)卵巣チョコレート嚢胞の癌化”.公益社団法人 日本産婦人科医会ウェブサイト
https://www.jaog.or.jp/note/(2)卵巣チョコレート囊胞の癌化/