hCG注射は、不妊治療において排卵誘発のために使用される注射のひとつです。この記事ではhCG注射の作用のメカニズム・副作用とリスク・注射のタイミングについて詳しく解説しています。ほかの注射薬や不妊治療のステップアップについても触れていますので、ぜひ参考にしてください。
hCG注射とは
hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)注射は、卵胞の成熟や排卵を促すために使用される「排卵誘発剤」のひとつです。
排卵誘発剤は不妊治療における「排卵誘発法」で使用します。排卵がない場合、排卵はあるが卵胞発育不全・黄体機能不全がみられる場合、原因不明不妊などのケースで適応となります。タイミング法・人工授精・生殖補助医療において広く使用されています。
hCG注射は、内服薬だけでは十分な排卵が期待できない場合や、排卵のタイミングを調整したい場合に使用されることが多く、不妊治療においては一般的な治療手段のひとつです。
hCG注射の効果
hCG注射には、以下の効果が期待できます。
- 卵胞の成熟や排卵タイミングの調節
- 黄体機能をサポート
それぞれ解説します。
卵胞の成熟や排卵タイミングの調節
hCG注射には、卵胞を成熟させる働きや排卵のタイミングを調節する働きがあります。
通常、排卵は、月経終了後に分泌される「FSH(卵胞刺激ホルモン)」によって卵胞が発育し、その後「LH(黄体化ホルモン)」が急激に分泌されることで起こります。このLHの急激な増加は「LHサージ」と呼ばれています。
LHサージが起こることで卵胞が受精可能な状態に成熟しますが、hCG注射にはLHと同様の作用があるため、卵胞内の卵子を成熟させる効果があります。
また、hCG注射によってLHサージを意図的に起こすことができるため、排卵のタイミングを調節する作用もあります。一般的にhCG注射の後、36時間前後で排卵となります。
不妊治療においては、他の種類の排卵誘発薬を使用して卵胞の発育を促し、一定の大きさに達したところで、LH作用のあるhCG注射を使い排卵を起こすという使い方も多くなっています。
黄体機能をサポート
hCG注射には、排卵後の黄体機能をサポートする働きもあります。
黄体機能とは、排卵後に子宮内を受精卵が着床しやすい状態に整える働きのことです。この働きは、排卵後の卵胞である「黄体」が黄体ホルモンを分泌することで促進されます。
しかし、何らかの原因で黄体ホルモンが十分に分泌されない場合、妊娠の成立が困難となることがあります。前述のとおり、hCG注射はLHと同様の作用があり、黄体ホルモンの分泌を促して黄体機能のサポートをします。
hCG注射の種類
hCG注射には、皮下注射と筋肉注射があります。それぞれの薬剤名の例と特徴を表にまとめました。
hCG注射の副作用
hCG注射には、副作用が生じる可能性があります。ここでは、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)、多胎妊娠(双子や三つ子など2人以上の赤ちゃんの妊娠)の可能性、一般的な副作用についてそれぞれ解説します。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスク
hCG注射で起こる可能性のある重篤な副作用に、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)があります。OHSSは、卵巣が、排卵誘発剤によって過剰に刺激されることで生じ、主な自覚症状としてお腹が張る、吐き気、体重が増える、尿量が減る、などがあります。
ゴナドトロピン製剤による排卵調節法や生殖補助医療によるOHSSの発生頻度は、5%程度であるとされています1)。
頻度がすごく高いわけではありませんが、症状に気づかずに放置すると、腎不全・血栓症・肺塞栓などにより命に危険が及ぶ状態になることもあります。早期に発見し、薬剤の使用を中止すれば改善することが多いとされているため、体調に変化があれば速やかに医師や薬剤師に相談しましょう。
多胎妊娠の可能性
hCG注射によって複数の卵胞が成長すると、多胎妊娠(双子や三つ子など2人以上の赤ちゃんの妊娠)の確率が上がるとされています。多胎妊娠は、単体妊娠と比較して合併症のリスクが高まるとされており、具体的なリスクについては以下のようなものがあります。
- 早産
- 妊娠高血圧症候群
- 妊娠糖尿病
- HELLP症候群
- 胎児発育不全
- 胎児形態異常
- 子宮胎児死亡
- 血栓症
- 悪阻(つわり)の症状が強く出る など
これに関して、日本産科婦人科学会は「生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解」を発表し、母体と胎児・新生児の健康維持の重要性について示しています。具体的な内容の抜粋は以下のとおりです2)。
- 胚移植は原則として単一とする
- 35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などには2胚移植を許容する
多胎妊娠は決して悪いことでなく、複数の赤ちゃんを授かる嬉しいことでもありますが、リスクもあることを理解しておくのが重要です。
一般的な副作用
hCG注射後に起こり得る一般的な副作用の例は、以下のとおりです。
薬剤名:ゴナトロピン・HCG
発疹、めまい、頭痛、興奮、不眠、抑うつ、疲労感、性早熟症、注射部位の疼痛・発赤・硬結(注射した部分が痛む・赤くなる・硬くなる)など
薬剤名:オビドレル
注射部における皮膚の赤い発疹、卵巣嚢胞(腹部膨満感、下腹部痛、頻尿)など
症状が改善しない場合や悪化する場合は、早めに医師へ相談しましょう。
hCG注射のタイミング
hCG注射の投与スケジュールは、治療内容や卵胞の成長スピードなどによって異なります。医師の指示に従うことが重要です。
まずは排卵のタイミングを予測する
hCG注射を適切なタイミングで投与するには、排卵の時期を正確に把握することが大切です。
排卵は生理開始から14日程度で起こるとされていますが、それには個人差があります。基礎体温の測定や排卵検査薬を使用すると、排卵のタイミングが予測しやすいでしょう。
基礎体温は月経開始後は低く、ガクッと下がった後、排卵後に高温期へ移行するのが特徴です。より正確な予測には、経腟超音波検査が必要となります。
不妊治療の投与スケジュール
排卵誘発の一般的な流れは以下のとおりです。
- GnRHa(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)投与
- 卵胞の成熟を促す:hMG(ヒト閉経ゴナドトロピン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)注射
- 卵胞の数と大きさを確認:超音波検査実施
- 排卵を誘発する:指示されたタイミングでhCGを注射
- 受精:指示されたタイミングでの性交渉・人工授精・体外受精
これはあくまでも目安であり、hCG注射の投与タイミングは、不妊治療の方法や患者さんの状態によって異なります。医師の指示に従いましょう。
不妊治療で用いられるその他の自己注射の種類
不妊治療で用いられる自己注射には、hCG注射以外に以下の2種類があります。
- hMG/rFSH注射(ゴナドトロピン製剤)
- GnRHアンタゴニスト製剤
順に解説します。
hMG/rFSH注射(ゴナドトロピン製剤)
hMG/rFSH注射(ゴナドトロピン製剤)は、卵胞の発育や卵子の成熟を助けるための薬剤です。排卵のために必要なホルモンを補う働きがあります。
使用する薬剤の選択は、治療の目的や通院頻度、コスト、注射への抵抗感などを考慮し決定されます。
GnRHアンタゴニスト製剤
GnRHアンタゴニスト製剤は、体外受精や顕微授精において使用される製剤のひとつです。排卵前のLHサージを抑制し、育ち切っていない卵胞が自然に排卵されるのを防ぐ働きがあります。
体外受精や顕微授精の治療の流れとしては、FSH製剤投与によって複数の卵胞の成熟を促し、GnRHアンタゴニスト製剤投与によって自然な排卵を防ぎ、卵胞が十分に育ったことを確認のうえhCG注射によって時期をそろえて排卵を起こすのが一般的です。
自己注射の種類やメリットについては以下の記事でも紹介しているので併せて参考にしてください。
関連記事:体外受精(不妊治療)の注射とは?自己注射の種類やメリットを解説
自己注射するときに注意したいこと
不妊治療の自己注射では、用法・用量を守り、以下の内容に注意する必要があります。
- 薬剤の保管方法は指導された内容を守る
- 注射部位は毎回変える
- 注射時に強い痛みがある場合はすぐに針を抜き、場所を変えて注射する
- 血液の逆流がみられたら、少しだけ針を引き抜き針先の位置を変える
- 注射部位を揉まない
- 吐き気やむくみなどの体調の変化があれば速やかに医師へ相談する
- 使用済み注射針は、医療機関に持参するか、市区町村の規則に従う
- 針は単回使用とし、再利用しない
疑問点や不安点があれば、遠慮せず医療機関に確認しましょう。
不妊治療のステップアップ
妊娠を希望して治療を進めていても、一定期間で成果が出ない場合には、治療のステップアップが検討されます。不妊治療では、タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精と進んでいくのが一般的な流れです。
どのステップでもhCG注射などの薬剤を使うことがあるため、注意点や使い方などを把握しておくのは重要です。
ステップアップの時期や方法は年齢や検査結果によっても異なるため、医師とよく相談のうえ、自分やパートナーに合い、納得できる治療法を選ぶことが大切です。
おわりに
参考文献
1)厚生労働省. 重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS). 厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1r01.pdf
2)日本産科婦人科学会. 生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=76/8/076080771.pdf#page=14