慢性子宮内膜炎が起こる原因・症状
慢性子宮内膜炎は子宮内膜に持続的に炎症が起きている状態です。その原因はまだはっきりとはしておらず、複数の要因が重なって起こることが多いですが、大腸菌、マイコプラズマ、ウレアプラズマ、クラミジア等の上行性感染(腟を経由して、子宮内へと逆流するような経路による感染)が原因のひとつとして考えられています。
異常なおりものや不正出血といった症状が出る場合もありますが、多くの場合、軽度な症状または無症状であり、日常生活においては大きな問題になることが少ないとされています。
しかし、子宮内膜の炎症が持続している状態は、子宮内の環境が悪化していることを示しており、近年、生殖医療において臨床的な意義が提唱されるようになってきました。
慢性内膜炎と不妊症との関係性
近年、不妊症や不育症といった着床不全の原因として慢性子宮内膜炎が注目されています1)。
生殖年齢の女性における慢性子宮内膜炎の有病率は報告によって異なりますが、これまでの報告では慢性子宮内膜炎や子宮内膜細菌叢(子宮内膜に存在する細菌の集まり)の異常は生殖補助医療(ART)を受けている患者では約 30%、さらに、反復着床不全および患者での有病率は 60%に達すると言われています2)。
慢性子宮内膜炎が疑われる場合の主な検査
慢性子宮内膜炎が疑われる場合、現在は、子宮内膜の組織検査・子宮鏡検査・細菌培養検査などで総合的に判断されます。
子宮内膜生検(CD138免疫染色)
慢性子宮内膜炎は、子宮内膜の組織検査による炎症反応の有無で診断されます。
特に、子宮内膜での形質細胞(免疫に関わる細胞の一種)の増加は、診断に最も有用な所見とされています。子宮内膜生検では、子宮内膜の組織の一部を採取し、形質細胞を検出することで診断されます。
形質細胞が検出されることが診断の目安のひとつになりますが、採取時期によっても形質細胞の数は増減すること、子宮内膜に炎症がない状態だとして少数の形質細胞が存在することがある点には注意が必要です。国際的に統一された慢性子宮内膜炎の診断基準がまだ確立できていないため、それぞれの施設の基準に従って診断されているのが現状です。
その他、慢性子宮内膜炎における組織検査で認められる特徴は以下のような点があります。
- 間質細胞の異常増殖(子宮内膜の細胞が異常に増えている状態)
- 上皮と間質の成熟度の相違(子宮内膜の表面の細胞と内部の細胞の発育や成熟のバランスが崩れている状態)
- 脱落膜への未分化(子宮内膜が正常に成熟できていない状態)
子宮鏡検査
子宮鏡検査は、子宮の中に細い管状のカメラを入れて子宮内を観察する検査で、慢性子宮内膜炎の診断において重要な役割を担っています。
下記に示す症状のうち、1つ以上認めた場合は慢性子宮内膜炎を強く疑うとされています。
- 充血やうっ血(子宮内膜の血管が異常に集まり目立つ様子)
- 苺状発赤(子宮内膜が充血している中に小さな白い点が散らばるような、いちごに似た発赤)
- 間質浮腫(子宮内膜の組織部分が炎症により浮腫んでいるように見える)
- マイクロポリープ(子宮内膜に1mm未満のポリープ状の突起が現れる)
しかし、子宮鏡検査で正常に見えても、子宮内膜には形質細胞が潜んでいるという報告もあるため、子宮鏡検査だけで診断を決めてしまうのではなく、他の検査の結果とあわせて総合的に判断されます。
子宮内細菌叢検査(EMMA・ALICE)
子宮内膜マイクロバイオーム検査(EMMA)や感染性慢性子宮内膜炎検査(ALICE)は、子宮内膜の検体から DNA を抽出した後に増幅し、細菌特有の遺伝子配列を確認することで、子宮内膜に存在している細菌を検出する検査です2)。
子宮内の細菌は腟より少なく、培養法では一部しか検出できません。しかしEMMAでは、培養できない細菌も含めて子宮内膜の細菌を分析できます。また、ALICEでは、原因となる細菌を早期に発見し、リスクの高い患者を特定して個別的な治療を提案することができると言われています。対象となる細菌は、大腸菌、クレブシエラ、エンテロコッカス、クラミジア、マイコプラズマ、ナイセリア、ウレアプラズマ、ブドウ球菌、レンサ球菌の9種類です。
この検査では、子宮内膜を採取する必要があります。受精卵が着床する時期の細菌を調べるため、月経周期の15〜25日目頃に実施することが推奨されています。EMMAとALICEは、先進医療に該当するため保険適用外となり、全額自己負担となります。
経腟超音波(エコー)検査
経腟超音波検査では子宮内膜の形状をある程度観察することができます。しかし、慢性子宮内膜炎を疑うような形状の変化をとらえることはできても、それらの変化は他の疾患と区別がつきにくく、超音波検査のみでは慢性子宮内膜炎の確定診断には至りません。前述のとおり組織検査・子宮鏡検査・細菌培養検査などを組み合わせて総合的に判断することにより診断されます。
慢性子宮内膜炎の治療方法
慢性子宮内膜炎の治療は抗菌薬の内服が一般的です。しかし、抗菌薬自体の副作用や耐性菌の出現、子宮内以外の細菌の悪影響なども懸念されます。現在は、炎症を起こしている細菌に応じて、個別性を踏まえた治療法やその他の要因なども考慮され研究が進められています。
おわりに
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また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考ください。
参考文献
1) 日本産婦人科学会,日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編 Accessed Jan.,2025.https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2023.pdf
2) こども家庭庁:不妊治療における先進医療の状況(令和4年8月1日現在)先進医療A 子宮内細菌叢検査(いわゆる、EMMA/ALICE法)第107回 資料番号:先-2(PDF/73KB)、別紙3 Accessed Jan.,2025. https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/7cc8238e-d526-4364-8905-bd9151eb5b69/4fc6df03/20230401_policies_boshihoken_funin_senshin_15.pdf