不妊治療の保険適用の条件はどこまで?メリットや注意点も解説

最終更新日時:
2024-10-24
市山 卓彦
市山 卓彦 医師
院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

2022年4月より不妊治療の保険適用範囲が拡大

2022年4月から、人工授精、体外受精、顕微授精などの生殖補助医療が保険適用となりました。生殖補助医療においては、採卵から胚移植までの基本的な診療が全て保険適用となります。また、患者さんの状態に応じて追加の治療が必要な場合、先進医療と位置づけられるものに関しても保険診療と併用が可能です。

健康保険が適用される検査

不妊の原因検索として行われる検査は、2022年3月以前から引き続き保険適用となっています。

不妊の原因は、男性不妊、女性不妊、原因のわからない機能性不妊の3つに大別されますが、これらを判断するための身体診察や画像検査、精子の検査、血液検査なども保険適用となります。

健康保険が適用される治療法

2022年から不妊治療が保険適用になり、経済的な負担が軽減されました。ただし、不妊治療の保険適用には、年齢や胚移植の回数による制限があり、それらを満たさなければ保険適用での治療は受けられません。

2022年より新たに保険適用となったのは、一般不妊治療および生殖補助医療(ART)と呼ばれる下記の治療です。

タイミング法

タイミング法は、女性の排卵周期に合わせて最適なタイミングで性交渉を行う方法です。具体的には、基礎体温の測定や超音波検査、尿中LH検査などを用いて排卵日を予測し、医師が効果的なタイミングをアドバイスします。 

この方法は、自然な妊娠に近い形で進められるため、夫婦への心理的負担が比較的軽いことが特徴です。また、排卵に問題がなく、精子の数や運動も正常であれば、まずはタイミング法から始めることが多いです。 

ただし、タイミング法では、排卵日を正確に予測し、適切なタイミングで性交渉を行うことが重要です。月経不順などで排卵日の予測が難しい場合や、夫婦の生活リズムが合わない場合は、他の不妊治療方法を検討することもあります。 

なお、費用の目安は1周期あたり数千円〜2万円程度です。

人工授精

人工授精(AIH)は、精子を子宮内に直接注入する方法です。タイミング法では妊娠が難しい場合や、精子の運動能力が低い場合に選択されます。

この治療では、まず男性から採取した精液を洗浄・濃縮し、質の良い精子を選別します。その後、女性の排卵日を超音波やホルモン検査で確認し、そのタイミングに合わせてカテーテルを使って精子を子宮に注入します。

人工授精はタイミング法よりも高い妊娠率が期待できますが、身体的・心理的負担や費用の問題もあるため、医師との十分な相談が重要です。

なお、人工授精1回あたりの費用の目安は、保険診療では5,000円程度、自費診療では20,000〜30,000円程度です。

体外受精

体外授精(IVF)は、体外で卵子と精子を受精させ、受精卵を子宮内に戻す方法です。

まず、排卵誘発剤を使用して複数の卵子を採取し、体外で精子と受精させます。その後、受精卵(胚)を培養し、分割が進んだ胚を子宮内に移植します。体外で受精が行われるため、卵管閉塞や精子の質が低い場合にも有効です。

この方法は自然妊娠が難しい夫婦にも、より高い妊娠成功率が期待できます。

1回あたりの費用の目安は、保険診療では12,000円程度、自費診療では90,000〜100,000円程度とされています。

顕微授精

顕微授精(ICSI)は、精子の数や運動能力に問題がある場合に選択される治療法です。精子が卵子に到達できない場合や、受精がうまく進まないケースにおいて効果的とされています。

通常の体外授精では卵子と精子が自然に受精しますが、顕微授精では顕微鏡下で精子を細い針で直接卵子に注入します。その後は体外受精と同様に、受精した胚を培養してから子宮内に移植します。

1回あたりの費用の目安は戻す卵子の個数にもよりますが、保険診療では15,000〜40,000円程度、自費診療では70,000〜190,000円程度とされています。

採卵・採精

採卵は、不妊治療の一環として、排卵誘発剤を用いて成熟した卵子を卵巣から採取するプロセスです。通常、超音波ガイド下で細い針を使って卵巣から卵子を取り出し、体外受精や顕微授精に使用されます。痛みを和らげるために麻酔を行うことが一般的です。

一方、採精は、男性から精液を採取する方法です。自然に射精するか、特殊な器具を用いて精液を精巣から採取し、洗浄・濃縮を行います。採取、処理された精液は、人工授精や体外受精、顕微授精に使用されます。

受精卵・胚の培養と凍結保存

受精卵・胚の培養と凍結保存は、体外授精や顕微授精の治療過程で行われる重要なステップです。

まず、体外で受精した卵子は胚(受精卵が分割したもの)として培養されます。通常、3〜5日間培養を行い、胚が健康に成長した段階で子宮に移植されます。

胚をすぐに移植しない場合や、複数の胚ができた場合は、将来の治療のために凍結保存します。凍結保存することで、次回の治療時に採卵を省略でき、身体的・経済的負担を軽減できるといったメリットがあります。

保険診療の場合、受精卵の個数にもよりますが、費用の目安は15,000〜40,000円程度、自費診療の場合は20,000〜130,000円程度です。1年以上保存する場合、更新料として保険診療の場合は10,000円程度、自費診療の場合は50,000円程度かかります。

胚移植

胚移植は、体外で受精・培養した胚を女性の子宮内に戻す行為です。

採卵後、卵子と精子を体外で受精させ、数日間培養します。培養した胚が健康に成長した段階で、カテーテルを使って子宮内に移植します。移植のタイミングは、子宮内膜が胚を受け入れやすい状態かを確認して決定します。

胚移植は、新鮮胚と凍結胚のどちらでも行われます。成功率は移植する胚の質や、移植のタイミングでの体調に左右されます。

新鮮胚移植の場合、費用の目安は、保険診療で20,000円程度、自費診療で50,000〜100,000円程度です。凍結した胚を融解して移植する凍結胚移植の場合は、保険診療では40,000円程度、自費診療では70,000〜130,000円程度かかります。

不妊治療の保険適用条件

タイミング法や人工授精といった一般不妊治療には、保険適用の年齢・回数制限はありません。しかし生殖補助医療の場合は以下の制限があります。

年齢・回数の制限(生殖補助医療)

初回の治療開始時点の女性の年齢保険適用の回数の上限
39歳以下の方1子ごとに、通算の「胚移植」回数6回まで
40歳~42歳の方1子ごとに、通算の「胚移植」回数3回まで
43歳以上の方保険適用にならない

  • 回数は「胚移植」の回数でカウントし、採卵には回数制限がありません。
  • 治療中に43歳を迎えた場合、その周期の胚移植で保険診療は終了となります。
  • 妊娠12週未満での早期流産は、胚移植の回数1回にカウントします。妊娠12週以降の後期流産や死産、出産となった場合は、カウントは0回にリセットされます。

不妊治療の保険適用のメリット

経済的負担が軽くなる

保険適用の場合、窓口での負担額は治療費全体の3割となります。これは、普段風邪を引いた時などに病院にかかった場合に負担する金額と同じ割合です。不妊治療が保険適用となったことで、経済的負担が軽減されたといえます。

高額療養費制度の対象になる

不妊治療で月々の治療費が高額になる場合、「高額療養費制度」の対象となることがあります。高額療養費制度とは、医療機関で支払った1か月の医療費が上限を超過した場合、その超過分が支給される制度です。上限額は年齢や所得に応じて決定されます。

※詳細は所属されている健康保険組合にお問い合わせください。

価格が統一される

これまでの不妊治療は自費診療が中心であり、各医療機関が自由に診療価格を設定していました。しかし、保険診療になることで国が統一の価格を決めるため、価格が標準化され、透明性が高まります。

注意点

原則的に国の助成金が廃止

保険適用化に伴い、国が実施していた不妊治療の助成金制度は原則として廃止されました。

しかし、自治体によっては独自に助成金事業を行っているところもあります。例えば、東京都では先進医療(保険適用外だが保険診療との併用が認められているもの)に対する助成を行う「東京都特定不妊治療費(先進医療)助成事業」や、区ごとの助成金事業が存在します。

詳しくは各自治体のホームページをご覧ください。

混合診療の禁止

混合診療とは、保険診療と自費診療を併用することを指し、不妊治療においても原則禁止されています。受けたい治療が保険診療や先進医療に含まれない場合、その他の治療もすべて自己負担となるため、注意が必要です。

まとめ

不妊治療の保険適用化により、多くの場合で経済的負担が軽減され、不妊治療へのハードルが下がったといえます。しかし、生殖補助医療においては保険適用の回数や年齢に制限があり、行う治療によっては保険適用外となることもあります。

実際にどのような治療を行うのか、経済的負担はどの程度になるのかを知るためには、まずはお気軽にトーチクリニックにご相談ください。予約はウェブからも受け付けております。

関連動画

動画で解説 不妊治療の保険適用

不妊治療の保険適用についてよくある質問

Q:以前、助成金の支給を受けていた人も対象になりますか?

以前助成金の支給を受けていた人も、2022年4月からの保険適用の対象となります。

ただし、治療内容や年齢、回数制限などの条件によって保険適用が異なる場合があるため、具体的な適用範囲については個別に確認しましょう。

Q:保険適用で不妊治療を始めるにはどうしたらいいですか?

保険適用で不妊治療を始めるには、まず不妊治療を提供している医療機関を受診し、保険適用範囲に該当する治療が必要か診断を受ける必要があります。診断後、保険適用の条件に沿って治療が行われます。

治療内容や年齢などに応じて適用される治療が異なるため、医師と十分に相談することが重要です。

おわりに

トーチクリニックでは、医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。

恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週7日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。

不妊治療にご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ご予約はウェブからも受け付けております

また、すでに不妊治療を受けている方々のお悩みやセカンドオピニオンにも対応しております。セカンドオピニオンを含めたクリニックへのよくあるご質問はこちらをご参考ください。