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ビタミン・ミネラル検査

ビタミンD

ビタミンDは主にカルシウム代謝に関係し、骨や歯を形成する大切な栄養素です。不妊治療領域では、ビタミンDが子宮内膜の環境を整える栄養素として注目されています。特に、ビタミンDが不足すると着床しづらく、胎盤の形成が不十分になるといわれています。

ビタミンDの種類と供給源

ビタミンDは、キノコ類に含まれるビタミン D2(エルゴカルシフェロール)と魚肉および魚類肝臓に含まれるビタミン D3(コレカルシフェロール)の2種類に分けられます[^1]。どちらを摂取しても最終的には同様の機能を持つ活性型ビタミンD(1, 25-(OH)2ビタミンD)へ代謝されます。

ビタミンDと免疫機能

骨の形成に関わることで知られているビタミンDですが、免疫機能とも深い関わりがあり、受精卵の着床や卵巣機能・妊娠継続にも関与しています。

免疫機能を担う細胞のひとつであるヘルパーT細胞にはTh1, Th2, Th17, Tregなどのタイプがあり、それぞれ機能が異なります。例えば、母体にとって”非自己”である受精卵が着床する過程ではTreg(制御性T細胞)が、習慣性流産にはTh17の増加が関連しています。また、妊娠中は免疫応答がTh1よりTh2優位になることが知られており、着床不全が疑われる方ではこのバランスが崩れTh1/Th2細胞比(IFN-γ+Th細胞 : IL-4+Th細胞比)が上昇している傾向があります[^2]。ビタミンDを適切な量摂取することで、Th1とTh17を抑制し、Th2を促進する効果が報告されています。

血中ビタミンD検査

不妊症女性の87.3%がビタミンD不足といわれ、血中ビタミンD検査は不妊症外来で広く行われています。妊娠中の血中ビタミンD濃度の基準値についてはコンセンサスが得られていませんが、妊娠前の血中濃度に関しては活性型ビタミンD 30 ng/mL未満で妊娠率が有意に低い(37% vs 78%)という報告があります[^3]※。※なお本研究は日本人以外も多数参加しているため人種間の生物学的差異から、必ずしも日本人に同様の傾向があるとは言いきれません。

25OH Vitamin D(ng/ml)
正常 〜30以上
低下 12〜30
欠乏 10〜12未満

ビタミンD不足を解消するには?

  • ビタミンDを多く含む食品を積極的に摂取する
    ビタミンD2は植物性ビタミンDとも呼ばれ、きのこ類に多く含まれます。ビタミンD3は動物性ビタミンDとも呼ばれ、魚肉(マグロ、サケ、サバ等)や魚類の肝臓、チーズ、バター、牛レバー、卵黄などに多く含まれます。妊娠中は生ものに気をつける必要がありますが、適切な調理を施した上でこれらの食品を積極的に食事に取り入れてみましょう。
  • サプリメントで不足量を補填する
    サプリメントなら不足するビタミンDを手軽に補填できるため、毎日の食事に取り入れられます。一方、かんたんに多量摂取できるため過量摂取のリスクがあります。必ず推奨量を守りましょう。
剤型 吸収性 必要な添加物質 製造コスト
ソフトカプセル
タブレット 多(99.9%)
ハードカプセル 多(99.9%)
  • 日光を浴びる
    ビタミンD3は日光にあたることでも体内で合成されます。したがって、紫外線量の少ない冬はビタミンDが不足がちになります。1日10〜20分のお散歩をするのも良いですが、女性にとってはシミ・シワの原因にもなりますので、気になる方は食事やサプリメントでの摂取がおすすめです。

ビタミンDは妊娠・出産・育児にとても大切なビタミンです。当院では、ビタミンD(25-(OH)ビタミンD)の値を採血で測ることができます。気になる方はいちど測定いただき、ご自身に適切な量のビタミンDを判断してみてはいかがでしょうか。食事内容を変えることでビタミンDをとりつつ、不足する分をサプリメントで補っていきましょう。

亜鉛

亜鉛(Zn)は体内に約2000mg存在し、主に骨格筋、骨、皮膚、肝臓、脳、腎臓などに分布している栄養素です。亜鉛はジンクフィンガー等のタンパク質に結合して機能したり、タンパク質の合成に関わる酵素の材料として使われたりし、免疫機能、蛋白合成、創傷治癒、DNA合成、細胞分裂において重要な役割を果たします[^1]。

亜鉛が不足すると、嗅覚障害や味覚障害、免疫力の低下、爪・皮膚の異常などの症状につながります。亜鉛は人間の体に必要とされている「必須ミネラル」16種に含まれ、体内で作り出すことができないため食事やサプリメントから摂取する必要があります。

亜鉛と不妊症

体内の銅濃度が高い方は子宮内膜に銅が付着し、着床しづらい状態になる傾向があると考えられています。亜鉛は血中銅濃度を下げる作用があるとされ、着床しやすい子宮環境をととのえます。また、亜鉛には受精卵の分割を促す作用もあります。亜鉛は精子形成に必要であるため、男性では前立腺・精子に多く分布します。したがって男性の場合、亜鉛が不足すると男性ホルモン(テストステロン)の合成や分泌機能、精子形成能力が低下します。

亜鉛不足を解消するためには?

銅やカルシウムの過量摂取は亜鉛の吸収を阻害します。日本人は銅を比較的多量に摂取するため、亜鉛が体内で不足しがちな傾向にあります。日常の食事において亜鉛を多く含む食材を取り入れつつ、サプリメントを上手に活用して亜鉛不足にならないよう心がけましょう。

  • 亜鉛が多く含まれる食材
    牡蠣、豚レバー、牛の赤身肉、鶏肉、カニなどの魚介類は亜鉛を多く含む食材です。ナッツ類や全粒粉を使った食品にも比較的多くの亜鉛が含まれています。
  • サプリメントで不足量を補填する
    サプリメントなら不足する亜鉛を手軽に補填できるため、毎日の食事に取り入れられます。様々な種類のサプリメントが市場に出回っていますが「栄養機能食品」は栄養素の含有量に上限・下限が定められているため、比較的安心してご利用いただけます。

鉄とフェリチン

妊活中に摂取するサプリメントとして、葉酸やビタミンをイメージする方は多くいらっしゃいます。一方で、鉄はどうでしょうか。鉄は体内で酸素を運ぶヘモグロビンの材料になることから分かる通り、体にとって重要な栄養素です。葉酸やビタミンと同様に過不足ない摂取を心がけましょう。

鉄分などの不足により血中ヘモグロビン値(Hb)が減少していることを貧血といいます。貧血のまま妊娠をすると、胎児が酸素不足のため低出生体重児になる可能性があります。妊娠・出産を控える方は貧血にならないよう食生活を見直してみましょう。

鉄の代謝と機能

食事やサプリメントとして摂取した鉄分は、十二指腸から空腸上部において吸収されます。取りこまれた鉄は6〜7割がヘモグロビンとして、残りの3〜4割は脾臓・肝臓・小腸粘膜などでフェリチン(貯蔵鉄;鉄結合タンパク質)としてストックされます。鉄は赤血球中に含まれるヘモグロビンや、体中で様々な反応を媒介するシトクロムP450の素材として利用されます。また、意外に知られていませんが、子宮内膜をふかふかに(厚く)したり卵巣の老化を防いだりする働きもあります。

隠れ貧血とは?

月経等による出血で体内の鉄分が失われると、まずは貯蔵鉄であるフェリチン由来の鉄が血液中に供給され、体内ではヘモグロビン(Hb)に使う血中の鉄分レベルを維持しようとします。毎月の月経によって徐々に失われた分の鉄が補充されないままだと、ヘモグロビン値は正常でもフェリチンが低い、いわゆる「隠れ貧血(潜在性鉄欠乏症)」と呼ばれる状態に陥ります。

女性の基準範囲 男性の基準範囲
ヘモグロビン(Hb) 11.6〜14.8 g/dL 13.7〜16.8 g/dL
フェリチン(Fer) 10〜120 ng/mL 30〜300 ng/mL

妊活中の方では血中フェリチンを50ng/mL以上に維持したほうが良いと考えられています。鉄不足は様々な症状につながりますので、食事やサプリメントから意識的に摂取することが大切です。一方でフェリチン高値は手放しに良いと言える状態ではなく、鉄過剰症や慢性的な炎症を示唆する所見でもあるため検査結果を注意深く確認しましょう。

鉄・フェリチンの不足で起こる症状

  • 全身のだるさ
  • 疲れやすい
  • 動悸、めまい、肩こり、頭痛
  • 皮膚、爪、髪の毛、粘膜のトラブル
  • しみやあざができやすい
  • 歯茎の出血、抜け毛
  • 食欲不振
  • イライラ感
  • 抑うつ感、気分が落ち込む
  • 月経の出血量が多い

女性が1日に摂るべき鉄分の量は

月経がある女性が鉄分不足に陥らないためには、1日にどのくらいの鉄分を摂取すればよいのでしょうか。日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、鉄の推奨量は成人男性では7.5mg、成人女性(月経あり)は10.5mg、妊娠初期の場合は8.5~9.0mg、妊娠中・後期で21~21.5mg、授乳期には8.0~8.5mgであり、どの時期でも女性は男性より多くの鉄量が必要です[^1]。

令和元年の国民健康栄養調査の結果では、成人女性の鉄摂取量の平均値は7.5mgと、依然として推奨量を下回っています。鉄はもともと食事から吸収しにくいうえに、ダイエットによる食事制限や時間がなくて朝食を抜くなどの食事の偏りも影響していると考えられます。

効率よく鉄を摂取するには

鉄分にはヘム鉄(動物性食品に含まれる)と非ヘム鉄(植物性食品に含まれる)があります。鉄分は吸収率が低いミネラルですが、ヘム鉄 は比較的吸収率が良く、レバー、魚介類などに多く含まれます。一方、非ヘム鉄はほうれん草やのりなどの植物に多く含まれます。

  • ヘム鉄を多く含む食材

鶏レバー、豚レバー、牛レバー、牛ヒレ肉、ラム肉、牡蠣、カツオ、真いわし、アサリ、シジミなど

  • 非ヘム鉄を多く含む食材

小松菜、ほうれん草、枝豆、そら豆、乾燥ヒジキ、ゴマ、高野豆腐や納豆、きな粉などの大豆食品など

吸収率を高めるためには

  • ビタミンCを一緒にとる
    ビタミンCの還元作用により、非ヘム鉄の吸収率が高まります。ビタミンCを多く含む食材には、パプリカ、ブロッコリー、ケール、モロヘイヤ、かぼちゃなどがあります。鉄分を含む食材と組み合わせ摂取することで、より吸収率を高めます。また、オレンジやキウイ、柿、イチゴなどの果物もビタミンCを含むものが多いため、食事の際には果物も一緒に摂取することで鉄の吸収率を高められます。
  • タンニンの摂取を控える
    コーヒー、緑茶、紅茶などに含まれているタンニンは鉄の吸収を抑制します。そのため、食事中に濃い目の緑茶を飲んだり、食後にコーヒーを大量に飲んだりすると、鉄の吸収率が低下するといわれています。食事中の飲み物にはタンニンを含まない麦茶や水などを選び、タンニンを多く含むコーヒーや紅茶は、食事から2~3時間ほど経過した食間に飲みましょう。
  • 胃酸を十分に分泌する
    胃酸が十分に分泌されていると、鉄の吸収率が高まります。梅干しや酢の物などすっぱいものを一緒に摂ったり、十分な量の食事をよく噛んで食べたりすることで胃に負担をかけることなく消化を促進し、栄養吸収の働きをよくしてくれる効果が期待できます。 胃酸の分泌を促すポイントは2つです。
    • よく噛んで食べること
    • 柑橘類や酢、梅干しなど、酸味のあるものを食べること
    胃の調子が気になる方は、酸味のある食べ物の摂取は注意するようにしてください。

torch clinicではこのページで紹介したビタミンとミネラルの検査ができます。詳細についてはブライダルチェックのページをご覧ください。

参考文献

[^1]: 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準 2020年版 ―「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書―.

[^2]: Ikemoto, Yuko et al. “Vitamin D Regulates Maternal T-Helper Cytokine Production in Infertile Women.” Nutrients vol. 10,7 902. 13 Jul. 2018

[^3]: Rudick, Briana J et al. “Influence of vitamin D levels on in vitro fertilization outcomes in donor-recipient cycles.” Fertility and sterility vol. 101,2 (2014): 447-52.